第3話:契約解除(ざまぁ)は計画的に
リナリアが高級宿のベッドで安らかな眠りについている頃。
俺――カズマは、深夜の『王都大教会』の門を叩いていた。
大理石で作られた豪奢な聖堂。だが、俺の『プロデューサーアイ』には、そこに流れる魔力と、中にいる連中の腐った根性が透けて見えている。
「何の用だ、レアルート家の放蕩息子。ここは迷い込んだガキが来る場所ではないぞ」
奥から現れたのは、でっぷりと太った男――リナリアを捨てた張本人、バルド司祭だ。彼の頭上には、今日も安定の『適正:三流悪役』という文字が浮かんでいる。
「いやあ、バルド司祭。今日は折り入って『商談』に来ましてね」
俺はわざとらしく、貴族らしい愛想笑いを浮かべた。
「商談だと?」
「ええ。先ほど路地裏で見つけた、あの『呪われた少女』……リナリアでしたっけ? 彼女の身分証と、聖歌隊としての雇用契約書。それから彼女の『今後の所有権』を、俺に譲っていただきたい」
バルドは一瞬呆気にとられた後、下品な笑い声を上げた。
「ハハハ! あの欠陥品をか? 物好きだな。いいぞ、あんなゴミ、十万ゴルドも払えば今すぐ引き渡してやる。むしろ処分費用が浮くというものだ」
「十万……。なるほど、教会の相場では、彼女の価値はその程度ですか」
俺はわざと深く溜息をつき、懐から一通の書類を取り出した。
「ですが司祭。それは無理というものです。むしろ、あなたが俺に『一千万ゴルド』払うことになるんですから」
「……はあ? 何を馬鹿なことを――」
「これを見てください。王国の『聖歌隊保護法』、第十二条八項です」
俺は書類を司祭の鼻先に突きつけた。
前世でも契約書の裏を読むのは得意だったが、この国の法律も穴だらけだ。
「『聖歌隊に所属する者は、教会の資材として適切に管理され、健康を維持されなければならない』。……さて、リナリアの今のコンディションを私自身確認したところ、重度の栄養不足に喉の炎症、そして不当な虐待の痕跡が多数。これ、王国騎士団に報告すれば、教会の補助金、全額停止ですよ?」
バルドの顔が、見る間に土気色に変わっていく。
「そ、そんなものは言いがかりだ! 彼女は呪われていたから――」
「呪い? 法廷でそんなオカルトが通じると思っているんですか? 俺から見れば、彼女は『管理者の怠慢で壊れかけた、国宝級の楽器』だ。あなたは管理責任を放棄しただけでなく、彼女の歌手としての未来を奪おうとした」
俺は一歩踏み込み、左目のプロデューサーアイをわざと鋭く光らせた。
「慰謝料、治療費、そして彼女の才能を一時的に封じ込めていた機会損失。……合計で一千万ゴルド。今すぐ払いますか? それとも、明日、王都の広場で『教会がいかに少女を虐待していたか』を、俺の伝手を使って大々的に広めましょうか?」
「ま、待て! 待ってくれ! 払えるわけがないだろう、そんな大金!」
バルドは膝を震わせ、今にも泣き出しそうだ。
「でしょうね。ですから、示談案を持ってきました」
俺は、あらかじめ用意していた『譲渡契約書』をテーブルに広げた。
「一、リナリアの身分権・所有権を無償で俺に移転すること。
二、今後一切、彼女および俺の活動に干渉しないこと。
三、彼女を『呪われている』と呼んだことを撤回し、公式な謝罪文を書くこと。
――これを飲むなら、慰謝料は一ゴルドまでまけてあげましょう」
「そ、そんな条件……飲むしかないじゃないか……っ!」
バルドは震える手で羽根ペンを握り、契約書にサインした。
――チェックメイトだ。
「ありがとうございます。あ、ついでにこれ、預かっておきますね」
俺は司祭の背後にあった、リナリアが大切にしていたという『古びた竪琴』をひょいと持ち上げた。
「ゴミだと言ったでしょう? なら、俺が有効活用してあげますよ」
教会を出た俺は、夜風に吹かれながら王都の道を歩く。
手元の契約書には、リナリアが完全に『自由』になった証が刻まれている。
【ミッション完了:リナリアの法的な保護に成功】
【カズマの悪評:+10(教会の敵として) / プロデューサーとしてのランク:UP!】
「ふう。さて、ゴミ掃除は終わりだ。明日からは、いよいよ彼女を『本物の歌姫』にするための、楽しい楽しいレッスンの始まりだな」
俺は夜空に浮かぶ月を見上げ、不敵に笑った。
前世では守れなかった。だが、この世界では違う。
俺のアイドルに手を出す奴は、法で、金で、そして実力で、徹底的に『分からせて』やる。
翌朝、目を覚ましたリナリアに「お前の自由を勝ち取ってきたぞ」と伝えた時の彼女の顔を想像するだけで、プロデューサーとしての血が騒いで仕方がなかった。




