第2話:トップアイドルの生活、始めます!
「……ここが、私の、お部屋……?」
王都の超高級宿『金色の翼亭』。カズマ様に連れられて入った最上階のスイートルームは、まるで王宮のようだった。
足元にはフカフカの白い絨毯が敷き詰められ、壁には美しいお花の絵が飾られている。窓からは王都の夜景が一望できて、まるで星空の中にいるみたいだ。
「そうだ。今日からここがお前のホームグラウンドだ。教会みたいに、夜明け前の掃除も、冷たい井戸水での洗濯も要らない。好きなだけ寝て、好きなだけ笑ってろ」
カズマ様はニカッと笑うと、廊下に控えていた宿の従業員たちに指を鳴らした。
「さあ、VIP待遇の時間だ! まずは最高級の蜂蜜をたっぷり使ったハーブティー。喉に優しいやつを頼む。それから、リナリアの肌に合うシルクの寝着。風呂は香油をたっぷり使った『歌姫専用仕様』だ。……三分以内に用意できたら、チップは弾むぞ!」
従業員たちが「ハイ喜んで!」と笑顔で飛び出していく。教会ではいつも怒鳴られてばかりだったのに、カズマ様の周りでは、みんなが楽しそうに動いているのが不思議だった。
【メンタル:5 → 10 / 100】
カズマ様の蒼い左目『プロデューサーアイ』に見つめられると、何だか心がポカポカしてくる。さっきまで死んでしまいたいと思っていたのに、不思議と「次はどんなことが起きるんだろう」って、ワクワクしてくるのだ。
「リナリア。まずはお前を『呪われている』なんて言った連中のことは、全部忘れていい」
カズマ様は私の目の前に、次々と美味しそうな料理を並べた。
魔獣の肉を煮込んだ甘い香りのスープ、焼きたてのふわふわパン、そして宝石みたいに綺麗な果物。
「これは仕事の一環だ。お前の『歌声』という最高の楽器をメンテナンスするために、しっかり栄養を取ってもらう。……まあ、ぶっちゃけ俺が作ったほうが美味いが、今日はこれで我慢しろ」
「え、カズマ様、お料理もできるんですか……?」
「プロデューサーは、アイドルの体調管理も完璧にするもんだ。さあ、冷めないうちに食え」
おずおずとスープを一口口に運ぶ。
「……っ、おいしい……! すごく、甘くて……温かいです……!」
気づけば、私はスープを夢中で啜っていた。教会ではいつも硬いパンと薄いスープだけだった。こんなに美味しくて、お腹いっぱい食べられるなんて。
「ハハッ、いい食べっぷりだ。お前が一口食べるごとに、俺のプロデュースやる気が一ポイントアップするぞ」
【コンディション:重度の栄養不足 → 改善の兆し】
食事の後は、香油がたっぷりの温かいお風呂。汚れが落ちていくたびに、心の中のトゲトゲも一緒に溶けていくみたいだった。用意されていたシルクの寝着は、驚くほど軽くて肌触りがいい。
鏡を見ると、そこには泥まみれだった私じゃなく、少しほっぺたが赤くなった、知らない女の子が映っていた。
「……私、本当に……歌、歌ってもいいのかな」
部屋に戻ると、カズマ様がソファで何か書類を見ていた。
「カズマ様……。私、教会の聖歌隊では、いつも『声が大きすぎる』って怒られて……みんなの邪魔をしてるって、言われてたんです」
「邪魔? ハッ、とんだ節穴共だ」
カズマ様は書類を置くと、俺の真っ直ぐ目を見て、自信満々に言い放った。
「リナリア。お前のその声は、邪魔なんてものじゃない。この世界中の人間を熱狂させて、跪かせるための『最強の武器』だ。俺はプロだ。お前の中に眠る『星』が見えているからこそ、こうして投資をしている。お前は自分を卑下する必要なんて、これっぽっちもない!」
「……星……」
「そうだ。お前は、俺の選んだ、伝説の初代センターだ。……だから、まずは喉を治して、最高の笑顔を見せてくれ」
カズマ様はそう言うと、私の頭をポンポンと撫でた。
教会では誰も私を否定するばかりで、こんな風に認めてくれたのは、カズマ様が初めてだった。
胸の奥が、ぎゅーっと熱くなる。
【メンタル:10 → 20 / 100】
「今日はもう寝ろ。ドアの前には俺が雇った一級の護衛を配置した。この部屋には、羽虫一匹、お前の許可なく入れさせない。……俺は少し、お前の『輝かしい未来』のために、邪魔なゴミを掃除してくる」
「ゴミ、ですか……?」
「ああ、お前を捨てた教会にな。お前が朝起きた時には、もう誰も、お前のことを『呪われている』なんて言えない世界にしてやる。……おやすみ、リナリア」
「……はい。おやすみなさい、カズマ様」
ベッドに入ると、すぐに眠気が襲ってきた。
怖くない。明日が来るのが、怖くない。
ドアの向こうにはカズマ様がいて、私を守ってくれる。
――私、頑張ります。カズマ様のために。世界一の、歌姫に、なります……。
【リナリア、カズマへの信頼度:測定不能級へ急上昇】
カズマの「異常な過保護」は、リナリアの心に、この世界で生きていくための「太陽」を灯した。
さあ、次は邪魔な雲(教会)を、プロデューサーの知略で吹き飛ばす番だ!




