第26話:劇場の独占と、バベルの街角を染める「異種族の旋律」
エルフの儀仗兵たちを音圧で黙らせたカズマは、その足
で連邦最大の繁華街へと向かった。
「……ここから一番近い、最高級の劇場を三つ、すべて買い占める。オーナーを呼べ」
カズマが懐から取り出したのは、王都の銀行すら震撼させる額の「魔導預金証」だ。エルフの支配下にあった劇場主たちは、その圧倒的な財力とカズマの放つ威圧感に気圧され、数分もしないうちに劇場の鍵を差し出した。
「カズマ様、三つも劇場をどうするのですか? 体は一つしかありませんわよ?」
クロエが不思議そうに首を傾げる。
「一つはライブ用。一つは完全防音の練習場。そしてもう一つは、お前たちのための『プライベート・サロン』だ。……この街は埃っぽい。ライブの合間に、誰にも邪魔されず最高級の泥スパを受けられる環境が必要だからな」
【カズマの資産運用:劇場の私物化(5人を守るための正当防衛)】
【5人のメンタル:カズマの金遣いの荒さに少し引きつつも、愛を感じてMAX】
だが、カズマの真の狙いは劇場の確保だけではなかった。
劇場の「予約」というシステムは、富裕層のエルフや人間しかアクセスできない。それでは、この街の大多数を占める獣人やドワーフの労働者層に彼女たちの歌を届けることはできない。
「……劇場はあくまで『拠点』だ。……リナリア、シキ、ベル、メルティ、クロエ。……今から、この街の『喉元』を掴みに行くぞ」
カズマが連れて行ったのは、多種族が入り乱れる巨大な市場の中心。そこには、エルフたちの「高尚な音楽」に飽き飽きし、刺激を求めている荒くれ者たちが溢れていた。
「おい、人間が何しに来やがった! 音楽院の連中なら、あっちの綺麗なお城へ帰んな!」
巨大な斧を担いだドワーフがカズマを威嚇する。
「……『音楽』を聴きに来たんじゃないのか? だったら、黙って耳を貸せ」
カズマが合図を送ると、アーク・ペンタグラムから射出された魔導スピーカーのポッドが、市場の四隅に突き刺さった。
「――お待たせ。退屈な毎日に、本物の衝撃を届けてあげる」
リナリアが魔導ギターを一閃。
静寂を好むエルフには決して出せない、内臓を揺さぶるような爆音のイントロが市場に炸裂した。
【楽曲:『バベル・パニック(Multi-Sonic)』】
【演出:五色に輝くスモークと、市場全体を包む重力変動ビート】
ベルの野性味溢れるヴォーカルが、獣人たちの本能を呼び覚ます。
シキのダンスが、複雑なリズムを求めるドワーフたちの感性を撃ち抜く。
メルティの魔法は、市場の果物や商品をキラキラと輝かせ、日常を異世界の祝祭へと変えていく。
「な、なんだこの歌は……!? 魂が、熱くて爆発しそうだ!!」
「エルフたちの歌は子守唄にしか聞こえなかったが……これは俺たちの『血』の音だ!!」
市場を埋め尽くす数千の群衆が、種族の壁を越えて一つの渦となった。
かつて罵声を浴びせていたドワーフも、今は斧を放り投げてリナリアの名前を絶叫している。
【市場のファン化:120%(暴動寸前の熱狂)】
【カズマの満足度:計画通り】
ストリートライブの熱狂が最高潮に達した時、市場の大型モニターにカズマの顔が映し出された。
「……この街の『至高』は、今日からこの五人が塗り替える。……明日、買い占めた劇場で待っているぞ。……入場料? ――俺たちを否定した『エルフの鼻を明かしたい』という気持ちがあるなら、一銭も要らない」
カズマの不敵な宣戦布告。
王都を震撼させたゲリラライブは、連邦のヒエラルキーを根底から揺るがし始めた。
しかし、その熱狂を遠くから見つめる、鋭い双眸があった。
エルフの暗殺者でも、公爵の使いでもない。
それは、連邦最強の獣人アイドルグループ『ワイルド・ファンク』のリーダーだった。
「……面白い。人間の作る音が、俺たちの血を揺らすか。……勝負だぜ、過保護なプロデューサーさんよ」
物語は、最強の多種族ライバルとの「直接対決編」へと突入する。




