第25話:至高の選民、エルフの洗礼
アーク・ペンタグラムが多種族共生連邦の巨大貿易港『バベル』へと入港する。そこは蒸気機関の煙と魔導の光が混ざり合う、活気に満ちた「混沌の街」だった。
だが、接岸しようとする巨大船の前に、白銀の甲冑に身を包んだエルフの儀仗兵たちが立ちはだかった。
「止まれ、野蛮な人間共。ここは連邦の玄関口にして、美しき旋律の守り手たるエルフが管理する特区だ」
先頭に立つのは、長い耳を揺らし、蔑むような目でカズマたちを見下ろすエルフの貴族、セレスティン。彼は連邦内の音楽教育を一手に引き受ける『至高音楽院』の教官でもあった。
「……何だ、その下品な鉄の塊は。音楽とは、森の囁き、風の吐息……。そのような爆音を吐き出す装置を持ち込むことは、この街の『品位』が許さない」
セレスティンが指を鳴らすと、港一帯に特殊な『静寂の結界』が展開された。あらゆる音の響きを吸い取り、楽器の音を強制的にこもらせる、音楽家にとっての処刑場のような空間だ。
【エリア異常:静寂の結界(消音レベル 90%)】
【敵:セレスティン(エルフ至上主義者)】
【カズマの怒り:急速充電中】
「カズマ様……ギターの音が、鳴りません……」
リナリアが不安げに弦を弾くが、そこから出るのは、湿った紙を叩くような鈍い音だけだった。
「……なるほど。自分たちの理解できない新しい音楽を、ルール(結界)で封じ込めるのが、お前たちの言う『品位』か」
カズマは冷笑し、一歩前へ出た。彼の足元から、黒い魔力の波紋が港の石畳を伝わっていく。
「セレスティンと言ったか。……お前は、あの子たちの『声』を雑音扱いしたな。それは、俺の全存在を否定するよりも重い罪だ」
「ふん、無能な人間に何ができる。この結界は、数百年の歴史を持つエルフの秘術――」
「歴史? ……ただの『古いソフトウェア』だな。……アップデートしてやるよ」
カズマがコンソールのスイッチを強引に踏み抜いた。
アーク・ペンタグラムの船体各所に隠されていた**『逆位相・魔力相殺ユニット』**が火を吹く。
ドォォォォォン!!!
結界を打ち消すどころか、結界そのものを「共鳴」の材料として利用し、街全体を巨大なスピーカーへと変質させたのだ。
「なっ、結界が……逆流しているだと!?」
「ベル、メルティ。挨拶だ。……一番『品位』のないやつを聴かせてやれ」
「任せろカズマ! 腹の底まで抉ってやるよ!」
ベルがマイクなしで咆哮した。だが、カズマの設置した増幅装置がその声を拾い、エルフたちの結界を「燃料」にして、王宮を震わせるほどの重低音へと変換する。
「――――ッ!!!」
バリンッ! と、セレスティンたちが張っていた静寂の結界が、物理的なガラスのように砕け散った。その衝撃波で、優雅に構えていたエルフの儀仗兵たちが次々と尻餅をつく。
「……美しくないな。地面に這いつくばる姿は」
カズマは、腰を抜かしたセレスティンの目の前にしゃがみ込み、その胸倉を掴み上げた。
「いいか、耳の長いお坊ちゃん。俺たちは招待されたから来たんじゃない。……この街の『古い常識』を、根こそぎ書き換えに来たんだ。……邪魔をするなら、お前たちが後生大事に抱えている『音楽院』ごと、音圧で粉砕してやる」
【カズマの過保護レベル:Lv.6(国際問題すら恐れぬ狂気)】
「……ひ、ひぃ……っ!」
セレスティンをゴミのように放り投げると、カズマは背後の五人に、最高に不敵な笑みを向けた。
「さあ、上陸だ。……まずは、この街で一番高い場所にある劇場を買い占めるぞ」
「「「「「はいっ、プロデューサー様!!」」」」」
港に集まっていた獣人やドワーフたちが、エルフを圧倒したカズマたちに、地鳴りのような歓声を上げる。
連邦編、開幕。
カズマの「異常な過保護」は、ついに種族間の差別という壁すらも、爆音で打ち砕こうとしていた。




