第27話:野性の咆哮、技巧の旋律
カズマが買い占めたバベル中央劇場。その初日、客席を埋め尽くしたのは、着飾った貴族ではなく、カズマの「招待」に応じた市場の荒くれ者たちと、血気盛んな若者たちだった。
開演直前、楽屋のドアが激しく蹴破られる。
現れたのは、褐色の肌に豹の耳を持つ筋骨隆々の男――連邦最強の獣人ユニット『ワイルド・ファンク』のリーダー、ガルガだった。
「よう、過保護なプロデューサー。市場でのライブ、見たぜ。……だが、俺たちのシマでデカい顔をされるのは癪でね。今夜、俺たちと『バトル』してもらう」
カズマは鏡越しにガルガを一瞥し、リナリアの喉に特製ミストを吹きかけながら鼻で笑った。
「……バトル? 悪いが、あの子たちのスケジュールは分単位で埋まっている。野良犬と遊ばせる暇はない」
「なにっ!? 犬だと……!」
「……待って、カズマ様」
リナリアがカズマの腕をそっと掴み、まっすぐな瞳でガルガを見据えた。
「あの人たちのリズム、本物です。……私、この人たちと競ってみたい。カズマ様のプロデュースが、世界一だって証明するために」
五人の瞳には、恐怖ではなく強烈な対抗心が宿っていた。
カズマは溜息をつき、時計を確認する。
「……十五分だ。十五分以内に、この野良犬たちを『ファン』に変えてみせろ。……ガルガと言ったか。負けたらお前たちのギルド、俺が買い取ってPENTAGRAMの荷物持ちにするが、いいな?」
「……ハッ! 面白い、受けて立ってやるよ!」
第一ラウンド:野性の重低音
バトルの幕が上がった。
先行は『ワイルド・ファンク』。彼らがステージに上がると、劇場は一瞬にしてジャングルと化した。
楽器は使わず、足踏みと手拍子、そして獣人特有の驚異的な肺活量によるボイスパーカッション。
「――ガォォォォォ!!」
地を這うような咆哮が、観客の生存本能を揺さぶる。
彼らのダンスは荒々しく、しかし完璧に統制された「狩り」の動き。
会場のボルテージは一気に爆発し、獣人たちの観客が吠え、椅子を叩く。
「どうだ、人間! これがこの街の『血』のリズムだ!」
第二ラウンド:極限の調和(PENTAGRAM)
静寂。
ガルガたちがステージを去った後、カズマは無言で指を鳴らした。
瞬間、劇場の床に仕掛けた魔導重力装置が作動し、空気の密度が一段階上がる。
「……シキ、お前の『計算』を見せてやれ。……ベル、あいつらの咆哮を『音楽』で飲み込め」
リナリアがギターを一閃した。
ワイルド・ファンクの「野性」に対し、PENTAGRAMが叩きつけたのは、圧倒的な**「計算された狂気」**。
シキのダンスは、獣人の瞬発力を超える魔法的な速度で空間を切り裂く。
ベルが放つ低音は、ガルガの咆哮を旋律の「一部」として取り込み、より巨大な渦へと変えていく。
そしてメルティの光が、荒々しい戦場を、一瞬にして天上の神殿へと書き換えた。
「――私たちは、誰にも縛られない! 野性も、技術も、全部私たちのものよ!!」
リナリアのハイトーン・シャウト。
それはガルガたちの「怒り」や「力」を否定せず、むしろそれらを優しく包み込み、より高い次元の「熱狂」へと昇華させる慈愛の咆哮だった。
【観客の興奮度:200%(計測不能)】
【ガルガの戦意:消失 → 敬服】
歌が終わったとき、ガルガはステージの袖で膝をついていた。
自分の誇りだった野性が、五人の少女の歌声によって「洗練された芸術」に変えられた。その屈辱よりも先に、彼は人生で初めて「音が身体を突き抜ける快感」を知ってしまったのだ。
「……負けだ。……おい、プロデューサー。……あんたの魔法、いや、あんたの愛……化け物だな」
「……気づくのが遅い」
カズマは立ち尽くすガルガに視線を送ることなく、ステージから戻ってきた五人を、大きなタオルで包み込んだ。
「……よくやった。……ベル、後で竜肉を二倍にしてやる。シキ、アイシングの準備だ」
「「「「「やったー!!」」」」」
こうして、バベルの街に新たな「伝説」が刻まれた。
連邦最強の獣人ユニットを軍門に下したPENTAGRAM。
しかし、その様子を劇場の最上階から冷たく見下ろす影があった。
「……なるほど。獣人すら手懐けるか。……だが、我が『至高音楽院』の禁呪歌に耐えられるかな?」
エルフの総本山が、ついに「音楽による暗殺」を仕掛けようとしていた。




