第16話:聖域の初演(ファースト・ギグ)
ご褒美のような休息を終え、ついに『PENTAGRAM』の本拠地となる専用劇場での定期公演が幕を開ける。
王都の中心にそびえるその劇場は、外観こそ純白の優雅な建築だが、中身はカズマの「異常な過保護」が詰まった、世界一安全な要塞でもあった。
「いいか、改めて叩き込んでおく。この劇場の観客席は、一席ごとに『精神安定』の魔導具を仕込んである。暴徒化は物理的に不可能だ。さらにステージとの間には、目に見えないがドラゴン級のブレスも通さない防護結界が常時展開されている」
楽屋で最終チェックを行うカズマの言葉に、五人は苦笑しながらも、その瞳にはプロの光を宿していた。
「……カズマ様、さすがにそこまでしなくても、私たちはもう逃げたりしませんわ」
クロエが、自分自身の手で微調整を加えた最高級の衣装を整えながら言う。
「お前たちが逃げなくても、世界がお前たちを傷つけようとする。それを未然に防ぐのが俺の仕事だ。……さあ、ベル、コンディションはどうだ?」
「最高だ! 喉の奥から魔力が溢れて止まらねえよ!」
ベルが吠えると、劇場の壁が微かに共鳴する。その重低音を、メルティの光が優しく包み込み、幻想的な空間を作り上げていく。
【PENTAGRAM:定期公演・初日】
【集客数:満員御礼(倍率300倍)】
【カズマの緊張度:0.1%(完璧な準備ゆえ)】
ベルが鳴り、幕が上がる。
観客席に座っているのは、高額なチケットを手に入れた貴族から、なけなしの貯金を叩いた平民まで様々だ。だが、五人がステージに現れた瞬間、身分の差など消失した。
「――聴かせてあげる。私たちの、新しい始まりを」
リナリアの第一声。
ゲリラライブの時よりもさらに磨き上げられ、カズマの「特製マイク」によって増幅されたその歌声は、聴衆の魂を洗浄するように響き渡った。
シキのダンスは、重力を無視したかのように鋭く。
メルティの魔法演出は、劇場全体を深海や宇宙へと変えていく。
クロエのウィンク一つで、最前列の観客が幸福感で卒倒しそうになる。
カズマは袖で見守りながら、絶えずプロデューサーアイで観客の反応を解析していた。
【観客の熱狂度:98%】
【一部の貴族に不穏な動きを検知:即座に劇場の警備ゴーレムを派遣……排除完了】
ステージの熱狂の裏で、カズマは文字通り指先一つで「雑音」を処理していく。
一曲終わるごとに、劇場のボルテージは上がっていくが、五人の体力はカズマが床に仕込んだ「魔力回復回路」によって常に最大値に保たれていた。
「……信じられない。こんなに歌っても、全然疲れない。もっと、もっと歌いたい……!」
リナリアが曲の合間にカズマと目を合わせ、弾けるような笑顔を見せる。
ライブの終盤。五人が声を重ねるメインテーマが響き渡ったとき、劇場全体が光の柱に包まれた。
それはもはや「興行」ではない。
一人のプロデューサーが、五人の少女のために作り上げた、完璧な『楽園』の証明だった。
公演は大成功。
王都の街中が「PENTAGRAMを見たか?」という言葉で溢れかえった。
だが、その夜。
カズマの元に、一通の黒い招待状が届く。
「……隣国の『歌聖』を自称する公爵からか。……PENTAGRAMを、国賓として招きたい、と」
カズマの目が、冷たく光った。
「招きたい」ではない。「手に入れたい」という下劣な欲望が、紙の裏から透けて見える。
「……いいだろう。世界ツアーの最初の生贄は、お前に決めた」
カズマの過保護な旅路が、ついに王都を飛び出し、世界へと広がろうとしていた。




