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第17話:空飛ぶ劇場、出航の時

隣国――音楽の都と謳われる「ルミナス公国」からの招待状。それが「PENTAGRAM」を奪おうとする罠であることは、カズマのプロデューサーアイを見るまでもなく明白だった。

 

「カズマ様、本当にあんな怪しい誘いに乗るのですか?」

 クロエが豪華なラウンジで、最高級の紅茶を口にしながら眉をひそめる。

 

「ああ。向こうから首を差し出してきたんだ、有効活用させてもらう。だが、ただ行くわけがないだろう」

 カズマは不敵に笑い、五人を王都の外郭にある秘密ドックへと連れ出した。

 

 そこに鎮座していたのは、前回のゲリラライブで使用した飛行船をさらに数倍、いや数十倍にスケールアップさせた**超弩級魔導豪華客船『アーク・ペンタグラム』**だった。

 

「……これ、お船? お城が浮いてるみたい」

 メルティが驚きで杖を落としそうになる。

 

「船じゃない、これは移動式の『絶対聖域』だ。外装には古代竜の鱗を粉砕してコーティングし、あらゆる攻撃魔法を無効化する。内部には五人それぞれの専用ルーム、特訓用防音スタジオ、そして最高級のスパと劇場を完備した。……これなら移動中も、お前たちの指先一筋、外気で汚れることはない」

 

【移動手段:超弩級魔導客船『アーク・ペンタグラム』】

【防御力:国家防衛レベル】

【快適度:測定不能(カズマの愛)】

 

「さすがはカズマだ! これなら隣国まで退屈しねえな!」

 ベルが真っ先に船内へ駆け込み、竜族専用の超高温サウナを見つけて歓喜の声を上げる。

 

「……シキ、トレーニングルーム。……あの重力制御室、すごい」

 シキも、カズマが用意した最新鋭の設備に、珍しく興奮を隠せない様子だ。

 

 出航の刻。

 王都の人々が見守る中、巨大な船体がゆっくりと浮上し、隣国へ向けて進路を取る。

 

 甲板に立つカズマの横には、不安と期待が入り混じった顔のリナリアがいた。

「カズマ様……。隣国には、もっとすごい歌い手さんがたくさんいるって聞きました。私、大丈夫でしょうか……」

 

「リナリア、お前の喉の数値を見ろ。……今、お前の声はこの大陸の誰よりも高く、鋭く、そして美しく響いている。不安になる暇があるなら、俺が作った『特製・喉潤い金粉ゼリー』を食べておけ」

「……あ、ありがとうございます。……あーん」

 自然に口を開けるリナリア。カズマは当たり前のようにゼリーをスプーンで運び、彼女の喉のコンディションを左目でミリ単位で解析する。

 

 その光景を見ていた他の四人が、すぐさま割り込んできた。

「ちょっと! リナリアさんだけずるいですわ! 私もあーんですわ!」

「……私、ダンスで疲れた。……カズマ、糖分」

「あ、私も……! カズマ様のゼリー、食べたいです……!」

「おらおら、私を忘れるなよ! 竜族は腹が減るんだ!」

 

 一国の防衛力を超える戦艦のような船の上で、一人の男が五人の少女に揉みくちゃにされながらゼリーを配るという、シュールかつ極めて過保護な光景が繰り広げられる。

 

 だが、その眼下――。

 国境を越え、ルミナス公国の領空に入った瞬間、アーク・ペンタグラムのレーダーが不穏な反応を示した。

 

「……お出ましか。隣国の『歓迎』という名の、物理的な嫌がらせだな」

 雲を割って現れたのは、隣国の魔導騎士団が操る高速戦闘艇の群れ。

 

 彼らはスピーカー魔法を通し、高圧的な声を響かせる。

『警告する! 国籍不明の巨大浮遊物! 直ちに武装を解除し、着陸せよ! さもなくば撃墜する!』

 

「武装解除? ……馬鹿を言え。これは『楽器』だぞ」

 カズマは冷たく言い放ち、艦橋のメインコンソールに手を置いた。

 

「五人とも、ステージ位置ポジションにつけ。……隣国の無作法な連中に、本物の『音圧』による国境警備ってやつを教えてやれ」

 

 空飛ぶ要塞が、戦闘モード……ではなく、**「ライブモード」**へと変形を開始する。

 

 隣国の騎士たちが絶望することになる、空の上の無敵のショータイムが、今まさに始まろうとしていた。

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