第13話:王都ジャック、伝説の第一声
その日の朝、王都の住民たちは、太陽が二つに増えたような眩しさに目を覚ました。
空を仰いだ人々が、一様に絶句する。
「な、なんだ……あれは!?」
王都の上空。そこには巨大な魔導飛行船『レアルート・スターシップ』が停泊していた。カズマが家家督を継ぐ権利を放棄する代わりに、父からせしめた全財産を投じて建造させた、移動式の空中ステージである。
船体には巨大な魔導スクリーンが展開され、王都中のすべての「放送用魔石」が、カズマのハッキング魔法によって強制的にジャックされていた。
【王都ジャック率:100%】
【注目度:測定不能】
【プロデューサーの決意:邪魔者は全員、音圧で消し飛ばす】
「……皆様、準備は良くて?」
飛行船の甲板ステージ。クロエが完璧なメイクを施した顔で微笑む。
その隣で、リナリアが魔導エレキの弦を震わせた。
「カズマ様が、私たちのために用意してくれた世界最高の舞台……。一秒も、無駄にできない」
カズマは管制席で、左目のプロデューサーアイをフル稼働させていた。眼下に広がるのは、教会やギルドの重鎮たちが「不届き者を撃ち落とせ!」と騎士団を動員し始めている光景だ。
「……野暮な雑音が聞こえるな。メルティ、遮断結界を展開。ベル、一発ぶちかましてやれ」
「任せろカズマ! 腹の底まで響かせてやるよ!」
ベルがマイクに向かって、肺に溜めた魔力を一気に解放した。
「――――おぉぉおおおおおお!!!」
重低音の衝撃波が王都を駆け抜ける。
地上の騎士たちの盾が共鳴して震え、逃げようとする馬がその場で立ち止まる。それは「攻撃」ではない。聴く者の注意を一瞬で奪い去る、最強のイントロだ。
次の瞬間、メルティの光魔法が空を七色に染め上げた。
飛行船から地上に向けて、巨大な光のホログラムが映し出される。
「シキ、刻め(ドロップ)!」
「……了解」
シキの鋭いラップが、精密な機械仕掛けのようにリズムを刻み始める。それに合わせて、王都中の人々が、自分たちの心臓が勝手にビートを刻み始めていることに気づいた。
そして――。
「――世界中に、届いて。私たちの、本当の声!」
リナリアの突き抜けるようなハイトーンが、王都の空を切り裂いた。
かつて「呪い」と恐れられた彼女の歌声は、カズマが開発した魔導アンプを通すことで、聴く者の魔力を活性化させ、沈んだ心を無理やり持ち上げる「祝福の咆哮」へと変貌を遂げていた。
「う、美しい……。これが、あの追放された聖女の声なのか!?」
「呪いどころか……体の痛みが消えていくぞ!」
広場に集まった群衆が、一人、また一人と空を見上げ、拳を突き上げる。
教会の司祭たちが「耳を塞げ!」と叫ぶが、その声は圧倒的な音圧の前に虚しく消えていった。
「……ふん。ざまあねえな」
カズマはモニター越しに、地上の権力者たちが歯噛みしている様子を見て冷笑した。
【リナリア・メンタル:85 / 100】
【グループ共鳴率:150%(オーバークロック)】
【王都民のファン化:急速進行中】
五人の歌声が重なった瞬間、王都全域に花吹雪のような光の粒子が降り注ぐ。
それは、五人が合宿で作り上げた「魔法を超えた絆」の証明。
「これだよ。俺が見たかった景色は」
カズマは、ステージで誰よりも輝く五人の背中を見つめる。
過保護に、そして完璧に。
彼女たちを阻むすべての障害を排除した先にある、この熱狂。
初ライブの第一曲目が終わったとき、王都は数分間の沈黙の後、爆発するような大喝采に包まれた。
かつて彼女たちを石でもてなした街が、今は彼女たちの名前を呼ぶ声で揺れている。
「――まだまだ、始まったばかりだ」
カズマは次の曲のスイッチに手をかけた。
PENTAGRAMの伝説。その第一章は、王都の住民全員を「信者」に変えるという、プロデューサーの完勝で幕を閉じた。




