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第11話:こだわりと、カズマ様の「特注品」

合宿五日目。

 共同生活にも慣れてきた頃、練習場では思わぬ「衝突」が起きていた。

 

「……シキさん。そこ、もっと激しく。……私の歌に、動きが負けてる」

「……リナリア。それは違う。……私のリズムが、正解。あなたが、走りすぎ」

 

 リナリアの情熱的なロックと、シキの精密なラップ。二人のこだわりが真っ向からぶつかり、空気がピリつく。それを見たベルとメルティ、クロエもハラハラしながら見守っていた。

 

 前世なら「まあまあ、二人とも」と宥める場面だが、今世のカズマは違う。

 

「いいぞ、もっとやれ! 互いの譲れない一線が見えた。……なら、その『一線』を両立させる環境を俺が用意するだけだ」

「……用意する、って何をですの?」

 

 クロエが尋ねる間もなく、カズマは練習場の床にあるスイッチを押した。

 轟音と共に、床が二つに分かれる。

 地下からせり上がってきたのは、リナリア専用の**『防振フローティング・ステージ』と、シキ専用の『超反応センサー・フロア』**だ。

 

「リナリア、お前の歌の振動をシキのステップに干渉させないために、床を物理的に切り離した。そしてシキ、お前の動きに合わせて床が微細に傾斜し、常に最適な重心移動をサポートする『全自動アシスト床』だ。……これで文句はないな?」

 

「「…………やりすぎ」」

 二人の声が重なった。

 

 だが、カズマの「守りすぎる」プロデュースは、練習設備だけにとどまらない。


 昼食の時間。

 メルティが浮かない顔でサラダを突いていた。

「……メルティ、どうした? 栄養計算が間違っていたか?」


「……いえ、そうじゃなくて。……エルフの里にいた頃は、もっと、空気中の魔力が澄んでいたから……。ここの空気は、少しだけ、私には重くて」

 

 繊細なエルフ特有の悩み。それを聞いたカズマは、即座に執事(と魔法工学チーム)を呼びつけた。


「今すぐこの合宿所の空調システムを全換装しろ。エルフの聖地と同じ『イオン濃度』と『魔力飽和度』に設定。……あと、メルティの部屋だけは、朝露の匂いがする魔法を常時展開だ。一時間以内にやれ。彼女の呼吸が浅くなるのは、俺の損失だ」

 

「カズマ様、そこまでしていただかなくても……っ」

「黙って享受しろ。お前の肺は、世界一のウィスパーボイスを生み出す国宝だ」


【メルティの幸福度:80 → 98 / 100】

【カズマへの依存度:判定不能】

 

 さらに、夕方の入浴時間。

 竜族のベルが、大きな風呂で不満げに鼻を鳴らしていた。


「カズマ……。この風呂、温いぞ。私はもっと、マグマみたいな熱いのがいい」


「わかっている。竜族の血行を促進するには、並の温度では足りないからな。……というわけで、庭に『人工火山・露天風呂』を掘っておいた。ベル、お前はあっちに入れ。お前の咆哮に深みを持たせるために、火属性の魔石を百個ぶち込んで沸騰させてある」


「…………お前、本当に変な奴だな(でも嬉しい)」

 

 そんな中、クロエだけは鏡の前で自分の爪を眺めながら溜息をついていた。

「皆様、恵まれていていいですわね。私なんて、自分を最高に見せるための『光』が、この合宿所のランプでは足りなくて……」

「クロエ。背後を見ろ」


 カズマが指差した先には、彼女の動きを追尾して、常に彼女を「一番美しく見せる角度」から照らし続ける**『自律飛行型・美肌ライティング・ドローン』**が三機、ふわふわと浮いていた。


「これでお前のビジュアルは二十四時間、死角なしだ。寝起きすら、女神のように映るだろう」


「………………。最高ですわ、カズマ様!」

 

 カズマの「異常な過保護」は、五人のわがままをすべて叶え、衝突を消し去り、彼女たちを最強のパフォーマンスへと集中させていく。


 夜。

 贅を尽くしたリビングで、五人は肩を寄せ合って明日のフォーメーションを確認していた。

 

「……カズマ様って、時々怖いけど。……私たちのこと、誰よりも見ててくれる」


「……うん。教会の誰も、私の声に合わせて床を改造してなんてくれなかった」


「あの方のためにも、私たち……最高のステージを見せないといけませんわね」


 五人の視線が、モニターの前で「明日のスムージーの最適な配合」に頭を悩ませているカズマに注がれる。


 バラバラだった才能は、カズマという巨大な(そして少し狂った)愛に包まれることで、一つの固い絆へと結ばれようとしていた。


【合宿終盤:PENTAGRAMの結束力 80%】

【次なる課題:王都凱旋・初ライブの告知】

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