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九話

「全く……あいつのせいでとんだ目にあった」


 二時間目は移動教室ということで教科書とノート、筆箱を持って理科室に向かう。

 宗助は朝の質問攻めで満足したのか、その後はいつも通りに過ごしている。

 先程も宗助に一緒に行こうと誘われたのだが、俺がトイレに行くのを伝え、先に理科室に向かってもらうのもすんなり受け入れてもらったのがその証拠となる。

 以前に他のクラスの友人と話し込んでいた際、宗助がその人物のことを知らなかったのか根掘り葉掘り聞いてきたのが鬱陶しく、適当に返事をしたらその日一日付きまとわれた。

 それ以来、真面目に返事をするようにしても暫くは付きまとわれるだけになったが、最初に比べれば大分マシだったために放置した。

 なので、今日は早く納得してもらったと言えるだろ。

 俺がトイレから戻ってくれば、教室に残っている生徒が誰もいなくなっていたので、理科室に向かっていく。


「誠」

「……アドラが話してくるってことは、この気配は気のせいじゃないってことか?」

「この気配は中級……いえ、上級が複数体」

「よりにもよって学校に?それも複数体?一体どうなーー」


 そこまで口にしてようやく気付く、俺の真後ろに人がいることに。


「あんた……どうしてここにいるの?」

「お前はーー」


 名前を呼ぼうとする前に木原に首を押さえられ、そのまま壁に押さえつけられる。

 避けようと思えば避けられたのだが、ここで避ければいらぬ誤解を受けてしまう。


「がはっーー!」


 押さえつけられる際、無抵抗だったために肺から空気が漏れる。

 視線だけを木原に向けると、その顔は今まで見たことのないほど無表情を張り付けていた。


「もう一度聞くわ、どうしてここにいるの?」

「なに……言ってんだ……それより、この手をーー」

「今」


 俺が演技しながら声を出すのだが、話している最中に強めに言葉を遮られる。


「ここら一体は大規模な特魔の結界が張られているの、一般の人間をこちらの作った世界に巻き込まないための結界が」

「………………」

「だからこそ、一般人がこの場にいることは決してありえない、だとしたら目の前にいる新城しんぎ誠」


 木原はその整った顔を俺の顔に更に近づけ、まるで人間を見ないような瞳で俺をしっかりと捉えてその言葉を問いかける。


「貴方は一体何者なの?」


 ☆☆☆


 凡才高校上空、そこには四個の人影が空を浮遊している。


「おい、本当にここにいるのか?姿は当然だが気配すら感じ取れねぇぞ」

「間違いないはずだ。一瞬だけだがこの付近であの方の魔力を感知した」

「そんなこと言ったって感じねぇもんは感じねぇんだよ!」

「感じないならいちいち口を出すな」

「んだと!テメェから殺すぞ!」

「付き合ってられん」


 口調が荒い男と眼鏡をかけた男が言い争っている横では、少女がくるくる周りながら笑う。


「キャハハ☆アオとシロが喧嘩してる」

「そうじゃな、けれどスーは大人しくしておるのじゃぞ」

「はーいトル爺!キャハハ☆」


 トル爺と呼ばれた年老いた男性が、スーと呼ばれる少女に一言だけ伝えるとスーはトル爺の近くにより、その腕を抱くように掴む。


「喧嘩なんかしてねぇ!」


 スーにシロと呼ばれた口調の荒い男はスーに怒鳴り返すのだが、スーは大笑いしている。

 アオと呼ばれた眼鏡の男は溜息をつきながら語り掛ける。


「今、この空間にいるのは我らと人間だけらしい。それも、人間の中では比較的力の強い部類だ」

「けっ!どうせ雑魚どもだろ!そんなものは放っとけよ」

「お前と同意見なのは納得しないがその通りだ」

「どういう意味だ!ああ!?」

「よさぬか二人とも」


 トル爺はスーによじ登られながら二人の仲裁をする。


「そういうんだったらせめてそいつを下ろせ」

「全くです。トル爺はーー」


 四人はこの時、気が緩んでいたのだろう。

 その一瞬の緩みのうちにトル爺の肩に乗ったスー目掛けて一つの矢が迫る。


「させぬよ」


 トル爺はスーを肩車したまま矢が迫っている方向を向き、その矢に向けて左手をかざす。

 矢は止まる様子はなく、そのままスーに向かっていくのだが、空中で何かに弾かれたかのように地面に落ちていく。

 それを見届けたからか、四人を襲ったものはすぐさまその場を逃げだす。


「ほぉ、不意打ちを防がれて動揺もしないで逃げるとは」

「関心してんじゃねぇ!逃げられるだろうが!」

「キャハハ☆何今の!?トル爺もう一回!もう一回!」

「不意打ちを楽しむんじゃないぞ」

「おっと、そろそろ捕まえなければーー」


 アオが捕まえると宣言するのと同時に一つの火柱が立つ。

 その柱は空に向かって伸びていき、まるでそのまま空に届くのではと思わせるほどだった。


「貴方たち、三人もいて何してんのよぉ」

「うっせ!そもそもお前はどこにいたって言うんだよアカ!」

「スーちゃん平気だったぁ?怪我なぁい?」

「無視すんじゃねぇ!」


 アカと呼ばれた妖艶な女性はシロを無視してトル爺の肩に乗っているスーに近づき抱きしめる。


「キャハハ☆アカ柔らかい!」

「そぉ?このまま抱いててもいいのよぉ」

「うーん、でもトル爺の上の方がいい!」

「あらぁ」

「ほっほっほ」


 残念そうに声を出すアカと機嫌よく笑うトル爺、アカは抱きしめていたスーを先ほどと同じようにトル爺に乗せる。

 その後、アオに視線を向ける。


「言われたとおりに調べたけど、人間しか見つからないわぁ」

「ありがとう、ということは逃げられたか」

「二人でコソコソ何してやがんだよ!」

「それでアカ、さっきの火柱はどうして人間を外したんだ?」

「テメェら!さっきから無視すんじゃねぇ!」

「なにもぉ、意味は無いわよ」

「そうか」


 その言葉を最後に、シロ以外は黙ってしまう。

 だが、騒いでいるシロでさえもソレを体で感じて黙ってしまう。


「なんだ……これは!?」


 アオは何とか声をひり出すが、それに応えられるものはいない。

 先ほどまでは何も感じなかった五人、しかし、いきなり現れたと言ってもいいほどに感じる規格外の気配に何も言えずにいた。


 ☆☆☆


「貴方は一体何者なの?」


 投げかけられる疑問、一般人では入れない結界、目の前で俺の返事を待つ木原に突然この世界にやってきた複数体の上級悪魔。

 そして、俺は普段の格好をしている状態、頭の中で今の状況を必死に理解し、どうすればこの状態を切り抜けることが出来るのかを考えていた。


(考えろ!考えるんだ俺!今の状態を理解することが出来た!けれど一秒でも無駄にできないこの状況で、よりにもよって面倒臭い木原を相手にしている状態ではない!)


 穏便に済ませられる方法を何としても見つけなければと考えていた時、考えていた中で最悪一歩手前のことが起きていた。


(特魔は何を考えている!?)


 この状況でも結界内の状況を見ていられるように術式を組んでいたのだが、特魔の一人が先走ったのか上級悪魔の一体に向かって矢を射っていた。

 それを防がれ、偵察をしていたであろうもう一体の上級悪魔に反撃を受けていた。

 幸い……と言うより、奴らがわざと外してくれたとはいえ、殺意があればその一撃で死んでいた。

 このままでは、宗助がーー。


「やるの?」


 木原の後ろからアドラが俺に問いかける。

 返事はしない、目の前にいる木原は自分の仲間が襲われていること自体も気付いていない。


 そんな奴に、俺の友人に近づいてほしくはない。


 俺はその瞬間、自分の出せる威圧を、手加減しながら結界内全体に届くように広げる。


「ひっ!?」


 俺に触れ、一番近くにいた木原はその威圧に恐怖の表情を浮かべ、俺から遠ざかろうとその体を後退させる。


「バレちまったらしょうがない」


 俺は自分の中にあった怒りを押さえつけ、変装術式を解くように見せかけて変装術式を展開する。

 と言っても、左手で顔を撫であげながら髪を上げるだけなのだが、生憎今はジェルや整髪料を持っていないため、変装術式で誤魔化すことにする。

 俺と”鮮血”が同一人物ではないと誤認させるためにわざと恐怖を植え付けて言葉を選ぶ。


「よく俺だと気付いた……褒美に俺の力の一端を見せたというのにどうして後ずさる?」

「せ、”鮮血”……」

「そうだ、お前らが毎回追い回している人間だ」

「にん……げん?それほどまでの力を……持っているのに?」

「しかし、本気を出していないとはいえ俺の威圧の中で喋れるとは」


 俺はゆっくりと掌を木原の顔に近づけていく。


「ひぃーー!」


 恐怖に支配されている人間は、その恐怖の対象が何をしてくるかわからないために、その一挙手一投足を警戒し、何をしてくるかわからないという恐怖でその感情にさらなる負荷をかける。

 木原は恐怖の感情から俺の手から逃げようとするのだが、その場で座り込んでしまう。

 近づいてくる複数の気配を無視して俺は続けて木原に言葉をかける。


「もう少し耐えるものと思っていたというのに、この程度か?」

「いや……やめて……来ないで……」


 もはや声を張り上げる気力さえない木原に俺は右手の掌を近づけていく、もうすぐ、もうすぐやってくるという気持ちを抑え込み、物凄いスピードでこちらに向かってくる一つの気配を信じてそのまま続ける。


「この程度だというのなら……いっそのことここでーー」


 俺が最後まで言い切る前に俺が信じていた気配が近づき、俺を斬りつてくる。わざとその場から大きく離れ、俺に斬りかかってきた人物に視線を向ける。


「この威圧の中、いつものように斬りつけてくるとは大したものだ」

「…………黙れ」

「けれど、今回ばかりはお前らと遊んでいる時間は無い」

「……黙れ」

「これ以上やるというのなら」


 俺は目の前で刀を向ける親友に鋭い視線を向けて言いたくもない言葉を放つ。


「容赦なく殺すぞ」

「黙れぇえええええええええ!”鮮血”!」


 俺の言葉に頭を熱くさせる宗助が、今までに見せたことのない速さで俺に向かって斬りかかってくる。


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