十話
今日はここまでにします。
明日また複数投稿します。
「来い、アドラメレク」
速さは上がったとはいえ、俺が反応できない速さではない。
亜空間からアドラと同じ名前の杖を出し、その杖で向かってくる刀を弾く。
「……っ!?」
今まで攻撃を弾くことのなかった俺が初めて攻撃を弾いたことに驚き、宗助の体が一瞬止まる。
その一瞬を見逃すほど、今の俺に精神的な余裕があるはずがなく、がら空きになった宗助の腹に杖で突く。
「がはっーー!」
死なないように手加減をしたが、簡単に起き上がれるほど手加減をした覚えもない。
杖で突かれた宗助の体は、まるで蹴られたボールのように廊下を飛び、バウンドすることなく、八メートル先の壁にその体を埋める。
木原はその光景が見えていたようで、宗助に向かって声を張り上げる。
「宗助!」
先ほどまで動かなかったはずの木原の体は、宗助が瀕死の状態ということを知ると、体を縛っていた恐怖と言う鎖を壊し、宗助が倒れた位置に走り込む。
「宗助!宗助!」
宗助に声をかける木原、こちらに近づく気配を妨害する術式を組みながら少しずつ近づいていく。
木原は俺が近づいているとわかった瞬間、宗助をかばうように立ち上がり、真正面から俺と対峙する。
その姿は先ほどまでの震えた女の子ではなく、愛しいものを守る女の顔をしていた。
「先ほどまで震えていたものと同一人物とは思えないな」
「世界を司る五行の炎よ、その礫を雨のように敵に降り注げ!《雨炎》!」
「言葉も交わさないか」
木原は俺に向けて複数の炎の礫を放つ、体内にある魔力を体に薄く張り、その場に立ち止まって炎の礫をそのまま受ける。
俺に当たる礫が当たるたびに爆発し、視界を黒煙が遮る。
「まったく見えないな、それにこの威力では俺は殺せんぞ」
「分かっているわよ」
分かっているという割に、いまだに炎の礫を俺に向けて放つ木原。
だが、見えない視界の中で、彼女の声だけは俺の耳に届く。
「我求めるは原初の炎、
それは全てを灰に戻す熱、
それは命の灯、
されどこの炎は炎にあらず」
その詠唱が聞こえた瞬間、俺の中に小さな警報がなる。
特魔の練習場に忍び込んだときに一通り見た詠唱とは違う詠唱。
このまま受ければ怪我では済まない。
俺は風を起こす魔術を使い黒煙を払い、それを見る。
木原の前に二メートルはあるのではないかと言う炎球が小さくなっていく。
「ちぃ!」
俺は急いで左手に魔力を集中させる。
「この炎が通る場所には何も残らず、
この炎が包む場所は命があふれる、
原初の炎よ、
今目の前の敵を焼き貫け!《天照》!」
詠唱を終えた後、木原にあった炎球は炎ではなく光る野球ボールにしか見えなくなっていたのだが、その光がこちらに向かって廊下を埋め尽くさんとばかりに放たれた。
俺は左手に集中させた魔力を全部つぎ込み障壁を張り、左手に纏わせた魔力をわざと無くす。
俺を焼き消そうとした炎の光は数秒維持され、俺の左手を焼いて消え去った。
「今のは中々の威力だった、まさか左手一本持ってかれるとは」
「そん……な……」
木原は先ほど使った《天照》に全ての力をつぎ込んだのだろう、その場に倒れて驚愕している顔だけを俺に向けていた。
「この威力であれば上級の悪魔であれば殺しつくしことも可能だろう、誇っていいぞ」
「くっ……!」
木原が悔しそうに唇を噛むが、噛む力を維持する力もないらしい。
「桜……お前は、よくやった」
「!?」
「起きたか」
「女が……ここまで……やってんだ」
弱弱しく起き上がる宗助の姿に駆け寄り、肩を貸したい、そんな気持ちが沸き上がるのを我慢して目前の敵に不敵な笑みを向ける。
けれど、そんな俺の後ろからアドラが声をかけてくる。
「誠!急いで左手を直して!今の状態はあなたにーー」
アドラが心配して声をかけてくれるのを無視する。
心配してくれるのはありがたい、けどよ……
親友が立ち上がったんだ!最後まで付き合うのが親友だってもんだろ!
宗助は弱弱しく立ち上がったのが嘘かのように力強く構える。
「女に起こされないとやる気が起きないのか?」
「お前こそ……右手だけか?」
「今のお前にはこの程度で十分だ」
「俺だって……桜に力を貰ってるんだ!」
「そこまで言うなら見せてみろ」
「言われなくとも、見せてやる!」
宗助は先程と同じ速さで俺に向かって斬りかかる。
避けられても構わず攻撃を続ける宗助、その速さは俺に倒される前と同じ速さのままだった。
「その程度か?」
「まだだ!」
俺が煽ると宗助は叫び返し、その速さをさらに加速させる。
「速さが上がった?けどその程度ならーー!?」
避けようとしたところで宗助の速さが更に上がり、避けようとした俺に向かってその刃で捕らえようとする。
俺自身の速さを上げることは出来るが、今の速さのままを維持することにしている為に振り下ろされる刃を右手でいなす。
「右手を使ったな」
「それがどうした?当たらなければどうということは無いだろ」
「今俺は《身体強化》を三重詠唱しているんだ」
「だから?」
「今以上に無理をしても変わらないということだ!」
その瞬間、気を緩めたしまった俺は一瞬だけ宗助の姿を見失ってしまった。
すぐさま俺は後ろに向けて治していない炭化した左手を防御に使う。
しかし、防御するのが遅かったために左肩からバッサリと切り落とされた。
「ーーっ!」
切り落とされた左手を見た俺は笑顔を浮かべ、宗助を右手で掴んで木原の近くに投げ飛ばす。
「ぐっ!?」
投げ飛ばされた宗助はすぐに態勢を立て直して俺を睨む。が、その顔は驚愕の表情を向けていた。
それもそうだろう、俺は宗助を投げ飛ばした後、見た目を派手にし、二人が防げない威力で火球を生み出していた。
宗助の相手をしていたいが、時間切れなのだ。
「悪いがここで終わらせてもらおう、お前以外にも客はいるんだからな」
「くそ!くそぉおおおおおおおおお!」
自分の力では俺の火球を防ぐことも、後ろにいる木原を連れて逃げることも出来ないことを理解して叫ぶことしかできない宗助。
しかし、その瞳はいまだ諦めておらず、俺を見つめている。
そんな宗助に向けて俺は火球を放つ。




