八話
「わー、何この人の塊?今までこんなことなかったよね」
アドラが言うように、校門の前には大勢の人が何かを囲んでいるように見える。
俺は長いものに巻かれる人間だと自覚しているが、こういった何かわからないものに関わりあいたくないのだ。
悪魔の事件に関わっているのは自分の日常を壊されたくないからその前に潰すようにしているだけなのだ。
とにかく、人の塊を避けて下駄箱に向かおうとすると、人の塊から聞きたくもないというのに声が聞こえてくる。
「一目見た時から好きです!よければ付き合ってください!」
そんな告白とともに、それを見ていたギャラリーが湧きたつ。
ほんの少しの興味心から、横を通りすぎる時に人の間から告白した男子の顔を見る。
その男子はこの学校に通っていれば嫌でも耳にしてしまう有名人、三年生の鳳凰院レオン。
基本スペックは宗助と同じで、文武両道で学校の女子に噂されるくらいのイケメン、宗助と違うところだとすれば学年とその容姿だろう。
鳳凰院レオンはどこかは分からないのだが外国のハーフで、その日本人ではありえない顔立ちと金髪が”王子様”と言われる大きな理由である。
ただその先輩が告白をしているところは見たことが無いし、誰かと付き合ったという噂も聞かない。
そんな彼がこんな人前で告白するって相当タイプの女性だったんだろうか?
そんな有名人である先輩の告白なら人が集まっても仕方ないと思うのだが、その野次馬の中には男の数も多いように感じる。
こういったことには疎い方だが、イケメンの告白くらいなら女子が集まるのは分かるが、男子が混ざっているのは不思議に思う。
そう考えていた時、
「誠、おはよう!」
「宗助、おはよう」
後ろから宗助に挨拶された。
このまま見ているのもあれな気がするので、宗助と一緒にそのまま下駄箱に向かう。
「あの人ゴミってなんなんだ?」
「三年の鳳凰院先輩が告白したって」
「マジか!?相手は?」
「知らない、と言うか興味が無い」
「誠はたまにそういうところあるよな、学生なら色恋に興味持ってもいいだろ?}
「そんなの気にしてるより、お前と遊ぶ方が面白いだろ」
「ま、誠……」
俺の言葉に宗助は感激している表情を浮かべるのだが、決して俺がホモとかそういう話ではない。
単にあの出来事があった後に、友人と遊ぶことの大切さを知っただけだ。
死ねばそんな当たり前のことも出来ないのだから。
宗助と話しながら下駄箱に向かっていると背中からどよめきが聞こえてくる。この反応だと先輩の告白は失敗したんだなと思い、心の中で合掌しておく。
「ねぇ、そこのあなた」
「そういえば宗助、昨日は木原と何してたんだよ」
「まだその話を引きずるのかよ……」
「聞いてるかしら?そこのあなた、待ちなさい」
「いやさ、俺の親友さんが校内で噂される美少女と何してたのかって気になるだろ?」
「そんなニヤニヤ顔されても期待する答えは持ってないからな」
「名前で呼び合う仲だというのに?」
「学校ではその話はやめてください」
「そこまで言うなら購買でパンを一つな」
「へいへい」
「そこのあなた、待ちなさいって言ってるでしょう?」
宗助と話していると後ろからいきなり肩を掴まれる。
何事かと思い、そのまま何も考えずに振り返ると、
「やっと止まりましたね」
振り返った瞬間に俺は後悔する。そこには昨日別れたはずの最上級悪魔が黒い傘を差しながら俺を見つめていた。
表情や気配で気取られないように気を付けながら、初めて会ったかのように挨拶をする。
「え、えっと……初めまして、俺に何か用でも?」
「……ごめんなさい、わたくしの勘違いだったようですね」
「えっと、そもそも君は?この学校の生徒じゃないよね」
目の前にいる彼女は俺の反応から、勘違いだと誤解してくれたようで直ぐに肩を掴んだ手を放してくれる。
そのままこの場を去りたかったのだが、宗助が彼女に問いかけてしまう。
「実は以前、この学校の生徒に助けてもらったのですが、その方が忘れたものがあったので直接渡そうと思いまして」
彼女は宗助の質問に答えるのだが、俺は忘れ物をした覚えがない。
だとすると、この付近の学校を全部回っているのか?だが、そんなことより彼女の後ろを見ると、先ほどの人ゴミが全員こちらを向いている。
え?何?マジ怖い。何で全員こっち見てるの?
なぜ見られているのかという恐怖心が俺の中に渦巻いていると、その人ゴミの中から告白をしていた鳳凰院先輩が近づいてくる。
「あ、あの!もしよければ僕が人探しを手伝います!」
あの人ゴミの中からこっちの会話を聞いていたのか、彼女に必死になりながらアピールしている。イケメンをここまで狂わせるとは、彼女の正体を知っているから先輩が可哀想に思ってしまう。
「いえ、大丈夫ですよ。彼が手伝ってくれるようですから」
「えっ?」
「はっ?」
「さぁ、行きましょう」
「え?」
「ま、待て!誠をどこに連れて行くんだ!」
「なんか面白そうなことになってきた!」
俺は彼女に腕を組まれて引きずられていき、宗助がそれを追いかけてくる。
アドラは鳳凰院先輩がそのまま固まっているのをケラケラ笑いながら、俺たちについてくる。
俺が呆けた状態のまま人がいない校舎裏に連れ込まれて、ようやく意識を取り戻す。
「ま、待て!一旦放せ!」
俺は彼女に掴まれた腕を振り払い、その場に止まる。
自分の手を振り払われた彼女は、慌てた様子もなくその場で止まり、俺と対峙するように向かい合う。
「ごめんなさい、でもこうでもしないとあなたはわたくしと話してくれないと思ったので」
「一体何の話ですか、そもそも貴女と俺はーー」
そこまで言葉を出してから気付く、この空間の違和感について。
「やはり気付きましたか、わたくしが本気で迷宮を作ったら気付く者などわたくしと同じくらいの力量を持った者だけというのに」
「……嵌められたか」
「このまま気付かなければわたくしも間違えていたということで放っておいたのですが」
「チッーー今回は俺のミスか」
「先ほどまでは気付きませんでした。けれど、前髪から覗くその瞳は見覚えがあったもので」
「まさか人間の区別が出来るとは思わなかったですよ」
「今更言葉使いを変えなくてもいいですよ、先ほどの口調が素なのでしょ?それにわたくし、あなたのような面白い人間は覚えるようにしてただけですから」
「これは誠の負けだ、一本取られてやんの」
いつの間にか俺の近くに来ていたアドラが俺をバカにするようにケラケラ笑っている。今回はアドラの言う通りなので返す言葉もない。
ため息を一つついて、俺はいつも通りの口調で彼女に話しかける。
「それで俺に何の用だよ?人間界の観光が終わったならとっとと帰ればいいだろ」
「やはりそちらの口調が素だったのですか」
「うるせぇ!とっとと要件を言え!」
「ぷふっ!焦ってやがんの!」
アドラがうるさいが、今は彼女の要件を聞くのが最優先だ。
そう思っていると、彼女はスカートのポケットから何かを取り出し、それを俺に向けて提示する。
「これ、貴方のでしょう?」
「は?どういうーーって俺の生徒手帳!?どうしてお前が持ってんだ!?」
彼女が提示したのは紛れもなく俺の生徒手帳であり、俺は自分の体を全て弄り、生徒手帳があるか確認する。
しかし、隈なく探しても生徒手帳が見つかることはなく、彼女が持っているものが紛れもない俺のものだという現実が突きつけられる。
「よかった、間違っていなかったようね」
「……もしかしなくてもスリやがったな」
「どうだったかしら?」
「とぼけやがって」
俺が逃がそうとしたときにこの女は俺の懐から生徒手帳をスリやがったらしい、俺が質問しても涼しげに返しているところが更に怪しく思わせる。
「生徒手帳を返しに来たのは口実で、俺に一体何を要求する気だ」
「人聞きが悪いこと言わないでもらえますか、まぁその考えは間違っていないのですが」
彼女は俺に背を向け、顔を見せないようにその手に持っている黒い傘で顔を隠す。
だが、その状態のまま俺に話しかける。
「わたくしからの要求は簡単なものです。わたくしがこの世界にいる間の案内人をお願いしたいのです」
「どうして俺なんだ?今の状態なら他の人間にも頼めるし、特魔の奴らに気付かれることもないだろ?」
「その理由は至極簡単、ただの人間に話しかけてもわたくしがボロを出してしまうこと、わたくしを人間でないとわかった上で友好的な人間はあなただけということの二つです」
「本当に至極簡単なことで」
「いいんじゃない?吾輩は問題ないと思うけどな」
(他人事だと思って楽しんでやがるなコイツ)
アドラのことは今更なことなのでこの際どうでもいい、けれど目の前の彼女は前代未聞な最上級悪魔な上、もし、やりあうとすればこの町が無事にすまないというのは分かり切っている。
悩みに悩んで俺は彼女に返事を返す。
「……わかった、こっちも機嫌を損ねて暴れられても困るからな」
「契約成立ですね」
彼女はこちらに振り返り笑顔を向ける。
その後に手を叩き、空間の違和感が無くなる。
どうやら、これで話は終わりと言わんばかりに迷宮を解除した。
「そういえば、まだ名前聞いてないんだが」
「あら、これは失礼」
この場を去ろうとした彼女に俺は名前を聞いていないことを思い出し、彼女の名前について問いただす。
彼女は人間の貴族がやるような礼をするように、スカートをつまみ、片足を引く。
「わたくしの名前はダンダリアン、リアと呼んでください」
その挨拶を最後に彼女は地面に吸い込まれるように消えていった。
「……思ったよりも有名な名前が出てきたな」
彼女が居なくなったその後に、宗助がやってきて彼女について質問攻めにあった。




