四話
結局、あの後宗助と学校で顔を合わせたのだが、普通に接してきたので、本当に分からなかったのかと思い知らされた。
「誠、今日も帰りにどこか寄っていこうぜ」
アドラと初めて会った時を思い出していたら、あっという間に放課後になっていた。宗助は今日は何も用事が無いのか、放課後誘いをしてくる。
「あー、悪い宗助。今日は用事があるんだよ」
「珍しいな、家のことか?」
「俺が一人暮らしなの知ってるだろ」
「あのワンルームだろ?高校生なら自活を覚えろ、って親御さんに言われたんだっけか?」
「今どき自活を覚えさせるために一人暮らしさせるなんて、裕福な家庭くらいだと思ったのだが、あのバカ親父はどこから持ってきたか知らない仕事で羽振りがよくなりやがったからな」
「結局、お前の親父さんの仕事は分かってないんだろ」
「息子と言うか、家族に何も言わないって可笑しいだろ」
「それでも一人暮らしとか羨ましいぜ!」
「実際にしてみると自由なのは確かだが、面倒くさいというのが本音だよ」
いつの間にか一人暮らしについて話をしてしまった。
待ちきれなくなったのか、アドラが俺の体を揺さぶってくる。
「何をしているの誠!早く行くわよ!」
「急に体を揺らしてどうしたんだ?って、そういえば用事があったんだっけか?」
「そうよ!こいつとの話は切り上げて早く行くわよ!」
「あー、本当に悪いな宗助、今度埋め合わせするから」
「気にすんなよ!また今度誘うわ」
宗助は俺が用事があることがわかると、そそくさと教室を出ていった。
そんな様子に気にしていられず、俺はアドラに急かされるまま一度自宅に向かうのだった。
自宅に帰ってきた俺は、すぐさま着替え、ジェルを使って前髪を上げる。
鏡を確認して前髪が垂れていないことを確認した俺は思わず声を出す。
「おっし、これで準備終わり」
「遅いわよ!吾輩を待たせるなんていい度胸ね!」
「うるせ、こうでもしないと安心できないんだよ!」
なぜ普段の自分とかけ離れた格好をするのかと言うと、アドラと出会った日から化け物ーーつまりは悪魔を退治することを日課にしている。
まぁ日課と言ってもそんな頻繁なわけではない。
むしろ、あの日、俺があの悪魔に出会ったのは本当に運が無かったことなのだ。
悪魔の人間界の出現頻度は一週間から二週間に一回。
それでいて出てくる悪魔は二桁行くかどうかという数、これだけ聞けば遭遇しても可笑しくないのだが、悪魔が作る領域”迷宮”は、人がいないところでしか展開できないものらしい。
この話はアドラから聞いたものなので確かな情報なのだ。
悪魔は迷宮を作りその中に隠れなければ、人間の退治屋、特別悪魔対策局ーー略して特魔という悪魔退治専門の人間に見つかり、戦闘を起こすことになる。
こちらに飛んでくる悪魔は比較的下級の悪魔がほとんどで、それ以上の強さを持つ悪魔は滅多に来ないらしい。
この話はその特魔に所属している宗助と木原が話しているのを聞いた。
悪魔退治だけならこんな変装はいらないと思うだろう。実際俺もそう思う。
けれど、極偶に宗助と鉢合わせてしまうことがあるため、念には念を入れて変装し始めた。
あの時逃げたことによって、宗助からはこの時の俺の姿を怪しい人物だと思われているため、弁解することも出来ないでいる。
「そんで?今回はどこら辺から気配がすんだよ」
「それね、驚いたことに今回は上級の気配がするの。あの滅多に動かない奴らが一体いるだけでもこの辺り一帯、違うわね……下手したらこの国自体が危ないわよ」
「場所は特定しているんだよな?」
「もちろん!吾輩を誰だと思っているのよ!吾輩と誠が初めて会ったあの場所にその悪魔がいるわ」
俺が殺されかけた場所と聞いて、一瞬体が硬直する。あの場所には嫌な思い出しかないため、いい出来事が待っている気がしない。
「分かった、とりあえず他の悪魔は後回しにして向かうとするか」
「下級だけなら放っといても問題ないけどね」
「特魔の奴らが何とかしてくれるだろ」
「中級までしか相手にできないものね、あいつら」
そこで話を終わらせて、俺が死にかけた場所へと向かっていく。
あの場所に近づくにつれて、自分の体が少し震えているがわかる。
俺を襲った悪魔はもういないとわかっていてもあの時に感じた痛み、恐怖が今の俺を襲っている。いや、半年前から俺を蝕んでいるのだろう。
無意識とはいえ、ここ半年はあの場所に近づくことをしたことが無く、考えないようにしていたのだろう。
それがよりにもよって、そんな俺のトラウマになった場所に上級の悪魔が出るというのは、意図的なものを感じてしまうのは俺の弱さゆえなのだろう。
「大丈夫、吾輩がついているわ」
そんな震えて情けないはずの俺にアドラは優しく語り掛け、背中に抱き着いてくる。
先ほどまであった痛みと恐怖、体の震えが不思議と無くなり、俺の心が落ち着いていくのが嫌と言うほどにわかる。
こいつは分かっているのかいないのかわからないのだが、俺が不安になると抱き着いてくる。
俺にしか見えないし、声も届かないというのに、そんなことを欠片も不安に思わずにだ。
「抱き着くな、自分で歩きたくないだけだろ」
「何だと!?吾輩は宙に浮くことも出来るのだから重くはないわ!」
「誰も重いとは言ってないだろ」
「最近吾輩の扱いが雑になってるわよ!前のように初々しい反応を所望するわ!」
「いつの話をしてるんだ」
だからこそ、俺はいつも通りに振る舞う。それが俺のこいつに対する感謝の仕方だからだ。




