三話
『生きたいですか?』
薄れていく意識の中でそんな声が聞こえ、遠のいていた筈の意識を辛うじて戻すことに成功する。
語り掛けているのは誰だ?
そんな言葉を口にしようとするが、声に出すことが出来ず、念じるだけになってしまう。
『私が誰と言うのはどうでもいいでしょう?私は貴方に聞いているのです。生きたいかと』
語り掛けてくるものは俺が声を出してもいないというのに、俺が念じたことに返事をしてきた。
この時、死にかけているというのに俺の意識は鮮明だということに気付く。
今の俺の状態は君がやっていることなのか?
『そうです。けれど、その状態はそんなに長く続きません。だからこそ、何回でも聞きます、生きたいですか?』
どんなに質問をしようと、語り掛けてくるものは行きたいか?と聞いてくる、ゲームでいうところのハイを押さなきゃ先に進まない状態というやつなのだろうか?
けれど、このままイイエを選んでいても死んでしまう。怪しかろうと、今はこのままハイを選ぶしかないんだろうなと考える。
俺は生きたい
『ならば私の名前を呼びなさい。私の名前はアドラメレク』
「……アドラ……メレク」
その名前を口にした瞬間、そいつが俺の唇を奪い、俺の体の底からとてつもない力が溢れ出す。
俺の内臓を潰していた化け物は俺から放たれる衝撃波でその大きな体躯を吹き飛ばされる。
「ぐえ!」
飛ばされた化け物は壁に当たり、潰れたカエルのような声を出す。
「一体何がぁ?人間、それはどういうことですか?」
化け物が俺を見て驚いている。動けないはずの人間が動けていること、これもあるのだろうが、俺の腹の傷が瞬時に直っていることが信じられずにいるようだ。
だが、その驚きは喜びに変わる。
「ああ!ああ!ああ!あなたはどこまで私を喜ばせてくれるのですか!?そんなにすぐ直るのならいくらでも食べ放題ではありませんか!」
化け物は俺が立っていることも忘れ、飛びついてくる。
俺はその化け物に向かい掌を向け最小限の力を行使する。
「フレア」
アドラメレクに教えてもらった言葉と共に手のひらから奴の体の半分くらいの火球が飛び出す。
「その程度の攻撃で私が死ぬとーー」
その火球に構わず飛び込んだ化け物は、火球に触れた瞬間に膨れ上がる火球に飲み込まれた。
「ぐぎゃああああああああああああ!」
その場で転げまわる怪物。
火を消そうとしているのだろうが、その火は消えることが無く、燃え移ることが無い。
俺は自分の血で汚れた手で前髪を上げる。
隠していた目は憎悪に塗れているだろうことはわかっているが、その目で最後まで怪物が燃えるのを確認したかったがためだ。
怪物はしばらく泣き叫んだあと、その場で動かなくなり、俺は火力上げて、その化け物を塵一つ残すことなく葬り去った。
残ったのはその化け物が燃えたであろう焦げ跡くらいだろう。
化け物が最後まで消えたことを確認した後、それはやってきた。
「そこのお前!何者だ!」
その声は聞き覚えのある声、振り返ればそこにいたのは刀を向ける宗助の姿がそこにはあった。
俺は目の前の宗助を見て疑問に思っていた。
何言ってんだこいつ、と。
さっきまで一緒にいたというのに顔を忘れーーそこまで思い浮かべて気付く、俺は今、髪を上げていて、それが血で固まっている。
つまりは、いつものような目が隠れている状態ではなく、初めて素顔を見せている状態となっているのだ。
「あー、信じられないかもしれんが俺はーー」
「ここは奴ら悪魔が作り出した迷宮だ!そんなところに一般人が入りこみ、無事であるはずがない!」
宗助はかなり気が動転しているらしく、俺の話を聞いてくれない。そんな俺にアドラメレクは話しかけてくる。
「なぁ、あれはお前の知り合いなの?」
「そうだが、お前は何当然と言わんばかりに俺の隣にいる?」
「気にしない気にしない、吾輩が近くにいてやることに喜んでもいいわよ」
「何様だお前」
先ほど助けてくれたと言っても、こいつの態度が気に入らないため、つい本音が出てしまう。けれど、彼女、アドラメレクはぞんざいに扱われているというのに嬉しそうだった。
「お前!さっきから独り言を話して、何かの作戦か!?」
「は?いやいや、ここに女がいるだろ」
「何を言っている!さっきからお前と俺しかいないじゃないか!」
宗助の言葉を聞いて、俺はもう一度アドラメレクを見る。彼女は先ほどまでのやり取りを聞いていたために、その答えを口にする。
「ちなみに言うの忘れたけど、吾輩が見えたり、声を聞こえるのはお前しかいないから」
「そういうのは早めに行ってくれないか!?」
「何を一人で叫んでいるんだ!」
「あー!もう!こっから逃げ出したいんだが!」
「今のお前ならそれを実行するだけの身体能力はあるわ。逃げたいのならそのまま逃げればいいじゃない」
アドラメレクの言うことを信じて、俺はその場から逃げるように走り出す。
「ま、待て!」
宗助が俺を呼び留めようとするのだが、それを無視して全力でその場から離れていった。
その場から離れることに夢中だったため、気付くのが遅れてしまったが、その時の俺の身体能力は、普通の人間の身体能力を大きく上回っていた。




