二話
「なぁ宗助」
「なんだ?誠」
その日はそろそろ秋が終わりに近づき、外の気温がより寒くなってきていた時のことだ。
放課後に宗助と一緒にゲーセンに寄っていた。まだそこまで冷え込んでいないとはいえ、寒さに弱い俺はマフラーを首に巻いていた。
普段から目を隠すほど長い前髪に加え、顔半分を隠すほどのマフラーを巻けば、顔が見えない不審者になるであろう。
そんな俺が近くにいるが、それよりも目立つ宗助のおかげで職質などはされてない。そんな、大恩ある友人様に俺はある疑問を聞くことにする。
「今日って確か、他の連中も来るって言ってなかったか?今のところ俺と宗助の二人だが、そいつらは先にゲーセンで遊んでいるのか?」
「うぐっ!」
「いや、うぐっ!じゃなくて」
俺の質問が心に刺さったのか、宗助は胸を押さえながらその場にうずくまってしまう。この反応だけでどういう結果になったのかわかってしまう。
「誘った奴ら、今日は別に用事があるらしく全員こないって」
「それは体よく断られたんだろ」
「言わないでくれよ」
「あいつらも今日までよく付き合っていたなと思うけどな」
「やっぱりそう思うか?」
宗助は俺の言葉が正しいことを自覚している。
遊びに来ている途中で抜けられる、宗助にとって大事なことだと頭ではわかっていても気持ちが頭に追いつかない。
思春期であれば精神がまだ未熟だからこそ、気持ちの整理がつきにくい。
俺が今日来ない奴らの心情を考えていると、宗助は返事をしない俺の顔を見ながら震える声を出す。
「……誠もやっぱり、俺と遊ぶのは嫌か?」
今にも崩れ落ちそうな俺より大きい友人、そんな宗助を見て俺はふと笑ってしまう。
そんな俺を見て宗助はポカンとしていたのだが、笑われていると認識すると声を荒げた。
「そんなに笑うことはないだろ!俺は真剣に悩んでいるんだよ!」
「いや、悪い。お前がバカすぎて笑っちまった」
「バカとはなんだバカとは!俺の方が成績いいだろう!」
「誰もそんなテンプレは望んでねぇよ」
「テンプレじゃねぇよ!」
頭に血が上ってしまった宗助は俺の言葉にいちいち声を荒げてしまう。そんな宗助に笑顔を向けながら、本心からの言葉を伝えてやる。
「確かに、遊んでる途中に大事な用があるとわかっていても抜けられるのは気分がいいもんじゃないな」
「うぐっ!それはーー」
「いいから最後まで聞け、確かにそんな気持ちがあるの確かだ。
けどな、そんな気持ちよりもお前といて楽しいのは確かだよ。誰か好き好んで嫌いな奴と遊びに行くかよ。
お前といるのが楽しくて、一緒に遊んでるんだ。
他の奴が付き合い悪いとしても俺はお前に付き合うぜ、それが一番楽しいからな」
俺の言葉を未だに理解できないのか、何を言っているんだこいつ?みたいな顔で見られる。しかし、理解できた来たのか、その顔が少しずつ崩れ、涙を流す宗助。
「おいおい、大の男がそんなに泣くなよ。
俺も用事があるときがあるんだ。その時は付き合えないがお前もそれは同じだろ?これからも俺は宗助の友人でいてやるさ」
「うるせ、何クサいセリフ言ってんだよ」
「泣きながら悪態つけるなら平気だな。さ、こんな話より早く遊ぼうぜ」
「ああ、そうーー」
宗助が返事をしようとする途中、宗助の携帯が鳴り始めた。
携帯を取り出し、メールを確認した宗助は困ったような顔をする。
「用事が入ったんだろ?言って来いよ」
「けどーー」
「明日また遊ぼうぜ」
「ああ!」
明日のことを話した後、宗助は笑顔を浮かべてゲーセンとは別の方向に走り出していた。
それを見送った俺は、このままここにいてもしょうがないと思い、自宅に向かって歩き始める。余った時間を埋めるため裏道などを通って遠回りして。
「……何処だここ?」
ここらの地形は分かっていた筈なのに、気付けば知らない通路に出ていた。
振り返って確認するも、今まで通ったことのない道だった。
「おかしいな?ここら辺の裏道は全部通ったことがあるってのに、知らないところに出るとかありえないだろ」
それに先ほどまでは知っている道を通っていたのだ。知らない道に来る前に気付くはずーーそこまで考えた時、音が聞こえた。
その音は何かの咀嚼音なのだが、その音を聞くだけで俺の背筋に冷や汗が流れる感覚がする。
その音はまだ続いており、この先を左に曲がったところから聞こえてくる。
自分の本能では逃げなければと警戒を鳴らし、今すぐにでもこの場から離れたいのだが、体が言うことを聞かず、曲がり角を曲がる。
曲がった先にいたのは人間に似ている怪物と、そいつが手に持っている人間だったものだ。
「なんだぁ?まだ紛れ込んできたのかぁ?」
怪物は三メートルはあるだろうその体躯をこちらに向け、手に持っているそれを一口かじる。
「……さっき紛れ込んできたのもそうなんだがぁ、最近の人間はひょろっちいなぁ、これで三人だというのに腹が満たされた気がしないなぁ」
その怪物は縦にだけでなく横にも大きい、その手に持っている人間だったものはフライドチキンではないかと錯覚させるほど大きい怪物。
醜く太った体躯にカエルの様な顔。しかし、カエルとは似ても似つかないその鋭利な歯は、赤い液体で濡れている。
(逃げろ!逃げろ!逃げろ!)
俺は全力で逃げようと体に指示を出すも、全くいうことを聞いてくれない。
まるでこの体は自分のものではないと言われているかのようにその場で棒立ちをしている。
「あぐ、あぐ、ごくん。さぁ、二人目も食べ終わりましたぁ。あなたは少しいい匂いがするので味見させてもらいましょうかぁ」
怪物が俺を食べるという話をしてもこの体は動くことが無く、怪物は直線を描くように手を横に振る。
その時、ようやく俺の体が動くのだが、その体を仰向けに倒しただけだった。
「んん!お腹を開いた瞬間、凄いいい匂いがします!なんですかあなた!?」
先ほどまで間延びしていた化け物の口調が変わる。何を言っているんだ?この化け物?と思ったのだが、次の瞬間、腹部から猛烈な痛みが俺を襲う。
(痛い痛い痛い痛い痛い!)
頭の中で痛いと叫んでもその痛みは一向に止む気配が無い。
「ああ!なんてもったいないことをしたのでしょう!?こんなに極上なものだったというのなら血を一滴も零すことなんてしなかったのに!」
痛みで何を言っているかわからないが、化け物が何かを言っているのは分かった。体を動かせないため、痛みを逃がすことも出来ず、頭の中に今まで感じたことが無い痛みが侵食している。
「ああ、あなたは自分の状況が見えていないのでしたぁ、仕方ないので首を少し動かしてあげましょうかぁ」
化け物の口調が元に戻るのと同時に俺の首は自分の腹部が見える位置まで移動する。
(え?)
その光景を見た瞬間、一瞬ではあるが痛みが消え、その後に今まで以上の痛みが俺を襲う。だが、思考は目の前で起きたことしか考えていない。
(俺の腹が開いてる?)
自分の腹部が開き、そこから内臓が見え、血があふれ出ているのが見える。
夢でも見ているのかと思い浮かべるが、俺を襲っている痛みが、これは現実だと分からせる。
「ぐふふ、まさかぁ、こんなところで極上の餌を手に入れられるなんて思わなかったぁ、さっそく味見しましょうかぁ」
化け物は俺の腹部に指を入れ、内臓を少し触った後、俺の血が付いた指をその口に運ぶ。
「うんんんんんんんんんんんんんんまぁあああああああああい!」
その化け物は歓喜に震えていた。まるで最高級の食事を初めて食べたと言わんばかりに喜びを表し、地面に流れている血を舐めとり始めた。
「ああ!もったいない!もったいない!もったいない!どうしてこんなにもったいないことをしてしまったんですかぁああああああああ!」
その光景を目にしたとき、俺は気を失っている方がましなのでは?と思うのだが、俺に襲い掛かる痛みが俺を眠らせてくれないことに怒りを覚える。
「私、人間を食べる時に内臓を少し潰したものが好きなんですがぁ、その光景をあなたに見せるのも嫌なので首を戻してもらいましょうかぁ」
怪物が放つ言葉に俺の体は言うことを聞く。俺の体が動かないのはこの怪物が何かしていることがわかるのだが、今更分かったところでどうしようもない。
俺は今、死にかけている。
信じられない光景が目の前で起こり、内臓から激しい痛みを感じているというのに、俺の体は動くことも声を出すことも出来ていない。
地面に倒れている俺の上に緑色の肌をしたガタイのいい怪物、人間に似ているのだが、その眼は黒く、瞳は青い。
そんな化け物が俺を見下ろし、俺の裂かれた腹の中に手を突っ込んで内臓をかき混ぜてくる。
体から熱が無くなっていくのと共に、俺の意識が遠くなっていく。
意識をなくせば死ぬことはわかっているのだが、意識を手繰り寄せることも出来ずに、視界が狭まっていく。そんな時、
『生きたいですか?』




