十九話
その火柱はまるで天をも焦がすかのように空へ突き上がっているいる。
その場にいたものはその火柱を見ると同時に、力の桁が違うことを思い知らされる。
今この場には化け物が一体だけだと思っていたが、それは違った。
現に今、吹き飛ばされただろう同行者のところから、化け物と同じ魔力ーー否、もはやどちらの魔力も大きすぎて互角かどうかも分からない。
そんな状態でも、化け物ーーミノタウロスは火柱ではなく、それを起こしたであろう人間から視線を外さない。なぜならーー
火柱が消えたと同時、その場に爆音が響く。
まるで耳元で爆発でも起きたのではないかと思われるその音を聞いた二人は耳を塞ぎながらその原因を見る。
その原因はミノタウロスから発せられているのだが、腹に蹴りを受けても身動きどころかダメージを受けてすらいないかのように立っている。
二人は驚く、ミノタウロスが無傷であったことではない。
先ほどまで吹き飛ばされていたであろう誠が二人の目では捕らえられないほどに速かったことにだ。
蒼月は人間であるが故、ある一定以上の戦闘についていけないのは仕方ない……しかし、ダンダリアンは違う。
彼女は人の姿をしているとはいえ人間から悪魔と呼ばれ、その中でも上から数えるほどに強い十魔と呼ばれる存在なのだ。
そんな彼女が目で捕らええれなかった戦闘は序列一位と二位の戦いだけだった。
目の前で戦いを繰り広げているものは、どちらも化け物なのだとダンダリアンは確信した。
☆☆☆
身体強化を今まで使ってきたよりも増やしてかけたのだが、受けることも避けることもしなかった。
「こんくらいじゃ足りねぇってか?欲張りがよ」
向こうも腕を振り上げ、反撃しようするが、俺はその間に自分がかけられるだけの身体強化を使う。
今使っている身体強化は五つ、それを倍の十一に増やして攻撃を視る。
そこまで強化したからなのか、先ほどは見えなかった動きが速いながらも視認することが出来る。
「複数制御は苦手なんだがーーなっ!」
攻撃を避けようとするのだが、左手をそのまま斬られる。
両断はされないものの、かなり深く斬られた。
「アドラ!回復は任せるぞ!」
「任せなさい!吾輩に任せれば傷は問題ないわ!」
回復をアドラに丸投げした俺は、攻撃に専念する。
左手が直ると信じ、そのまま左手で殴りつけようとする。
「待って待って!任せなさいとは言ったけどそんな無茶ーー!」
「信じてるぞ!相棒!」
「こんな時だけ信じてるんじゃないわよ!」
そう文句を垂れるアドラの顔はどこか嬉しそうだったというのは心に秘めておくことにする。
目の前のミノタウロスは自分が斬った手ですぐに反撃するとは思わなかったのか、避けようと動くが、動き出すのが遅く、ミノタウロスの鼻っ面に吸い込まれるように俺の拳が突き刺さった。
先ほどまで避けることすらしなかった化け物が、ようやく避ける素振りを見せたということは、俺の攻撃は少なくとも通るということだ。
そのことに俺は高揚感と共に、自然と口元が歪むのを自覚する。
だが、目の前の化け物はどうしてかは分からんが、俺と同じような能力を持っている。
俺がやれたことを奴が出来ないわけがない。
むしろ、俺が使えない雷を使える時点で、俺よりも強い一撃を返してくる。
仕返しとばかりに殴らた鼻っ面を治し、額に雷を纏い頭突きをしてくる。
意識が飛びそうになるが、その頭突きに対抗するように額を突き付ける。
「まだまだ元気そうだな?悪いがまだまだ付き合ってもらうぜ?」
俺がそう言ったと同時に先ほどまで理性が無かった化け物はその顔に笑みを張り付けているように思えた。
そこから先はほとんど覚えていない。
斬って潰して壊して壊されてお互いがそれを繰り返し、どのくらいの時間が過ぎたのかも分からない。
しかし、わかることは二つあり、その一つは俺が仰向けに倒れていた事。
死んでいないということは止めは刺されなかったということ。
そして二つ目は、薄れていく意識の中で、俺と同じような大怪我をしながらも空間を移動していくミノタウロスの背中を見たことだ。




