十八話
そいつを見た瞬間、俺の中の何かが反応したのがわかる。
けれどそれは俺のものではなくまるでーー
「新城さん!避けてください!」
「!?」
「GあAAAAAAAあああああAA!」
油断したつもりは一切なかった。
ほんの少し考え事をしていた隙に、間合いを詰められ、その手に持っている斧を振り下ろされていた。
ダンダリアンの呼び声のおかげで、俺はすぐさまその場から後ろに下がる。
標的を失った斧はそのまま地面に当たると、切り裂くのではなく鉄球でも振り下ろしたかのようにその場にクレーターを作る。
自分で作り出した土煙でこちらの姿が見えていないのか追撃には来れないようで、向こうから襲ってくる前にダンダリアンに話しかける。
「ダンダリアン!こいつはいったい何だ!?こんなのがそっちの世界にうようよいるって言うのかよ!?」
「いいえ!その個体の種族はミノタウロスといい、大きくても二メートル半がせいぜいの中級です!」
「嘘言うな!こいつから感じる魔力はお前と同等……いや、それ以上だぞ!」
「そもそもミノタウロスはこんなに好戦的ではなく、基本は温厚な種族です!この個体は向こうの世界で確認されている異常個体です!」
「その異常個体ってーー!?」
そこまで話していたところでミノタウロスが痺れを切らしたのか、持っていた斧を振り回し、周りの土煙を風で飛ばす。
「があAAAAアAAAAAあ!」
「話の邪魔するなよ!来い、アドラメレク!」
俺を視認したミノタウロスが、こちらに向かって走り出すのと同時に杖を呼び出し、《身体強化》を全力で使う。
先ほどと同じように、振り下ろされる斧を受け止めるように杖をかざす。
その一撃を受け止めた俺の体は、衝撃を流すことが出来ず、全身を使ってその重さに踏ん張っていた。
重力が自分の体を押しつぶすという感覚は、今の状態を指しているのではないのかと考えさせられる。
自分の体から何かが切れるような音を聞きながら、俺は受け止めるだけでは押しつぶされると考え、斧を受け止めていた杖を斜めにずらして力の軌道を変える。
「GA!?」
「少しの間離れてろ!」
俺は杖をミノタウロスに向け、少しでも距離を作ろうと連続で炎弾を放つ。
ミノタウロスに当たった炎弾は爆発し、三メートルもあるその巨体を少しずつ後退させていく。
向こうが炎弾で離れていく隙に、アドラに回復を任せていた為、今度は万全の状態でこちらから杖で殴りかかりに行く。
向こうはこちらの炎弾を複数個直撃している為、ダメージを負わせていると確信し、距離を詰めていくーーだが、
何かが弾ける音が聞こえたと感じた時、目の前が白くなっていた。
視界に見えるその白色から嫌な予感がした俺はすぐさま左横に飛びのいた。
飛びのいた後は視界が元に戻るのだが、横を通り過ぎた何かから轟音が鳴り響き、右耳に痛みが走り、目を瞑ってしまう。
「ガAAAAAアアアあああああ!」
雄叫びが聞こえてきたのだが、よく聞こえず、目蓋を開けると全身の所々が焼け爛れているミノタウロスがいた。
とっさの判断で、俺は杖を全力でミノタウロスの腹に向けて突く。
がら空きだったその腹に杖をぶち込むのだが、少し遅かったのか振り下ろされていた斧で左肩を切られ、切断面から血が盛大に吹き出した。
血を流しすぎたのか、俺は離れていくミノタウロスから視線を外さずにその場で膝をつく。
ミノタウロスは吹き飛ばされた先の一軒家にその巨体を放り込み、倒れたまま動かなかった。
その様子を見ていたのか、タイミングよくダンダリアンが蒼月を連れて近くの影から出てくる。
「やったのかしら?」
「あんなのがお前さんところにはわんさかいるのかよ」
「いるわけないでしょ、貴方は少し黙ってくれるかしら?」
「んだと?殺すことは出来なくても封じることは出来るんだぞ、あぁ?」
「そう?でも、わたくしなら封印される前に殺すことも出来ますよ」
「ふざけんなよ!そこまで言うならーー」
「二人ともすぐ下がれ」
二人の会話に対して、俺は自分の傷を燃やしながら割って入る。
その言葉だけで二人は視線をミノタウロスに向ける。その瞬間、二人の顔から表情が消える。
その理由は簡単なもので、俺が傷を燃やして直しているように、ミノタウロスの傷にも炎が走っているのだ。
「おいおい……誠、何あいつを治しているんだ?」
「冗談はやめなさい人間、あの魔力は似ていますが彼のものではない」
「こいつの魔力じゃないって……いったい誰が炎で傷を治すっていうんだ!」
「決まっているでしょう?この場に三人とーー」
炎が小さくなるのと同時に、ミノタウロスはその大きな巨体を少しずつ起こしていき、その体には火傷の後どころか傷さえも見当たらない。
そのうえ、ミノタウロスは自身の周囲に炎と雷を纏わせる。
「あの化け物だけしかいないのです」
まるで再びこの世に生を得たかのように、ミノタウロスは世界に向けてその咆哮を震わせる。
「二回戦なうえに長期戦とか……やってらんねぇよ」
☆☆☆
俺の愚痴が聞こえていたのか、咆哮を止め、先ほどよりもさらに速くこちらに向かってくる。
向かってきているのだが、その姿がとうとう視えなかった。
「はっ?」
呆けた声を出したと同時に、俺の視界が灰色に染まり、その次はいつの間にか青くなった。
青くなった視界の中では白い線が落ちているように見えるのだが、その風景はすぐに黒く染まり、何かが崩れ落ちる音が聞こえるとともに、俺の体に衝撃と重さが襲い来る。
そこで、理解した。否、理解させられた……俺は攻撃を受けて地面に視線を落とし、吹き飛ばされて空を見ていたのだろう。
俺に襲い掛かった衝撃と重さは、俺が吹き飛ばされたどこかの家の瓦礫だろう。
そこまで考えが行きわたったところで、食道から物凄い勢いで何かが押し出される。
「ゴハッ!」
勢いよく吹き出したのは吐瀉物ではなく、大量の血液。
この量だと、内臓の大半が潰れたのだろう……不思議なことに死と言う感覚が自分に差し迫っているというのに、思い浮かべるのは初めてアドラと出会った日の事だ。
あの日もこんな風に内臓を潰され死にかけていた時に、問いかけられていたっけな?生きたいですかって?
思い出に浸っていた俺に聞こえてくるのは聞き覚えのある声だ。
「また……死にかけてるね」
「そうだな」
「でも、今回は大丈夫だよね」
「おいおい、姿さえ見えなかったんだぜ」
「心臓か脳をやられない限りは死なないって言ったでしょ」
「言ったけか?」
「吾輩の言葉を忘れないでよ!」
いつの間にか近くに来ていたアドラに向けて雑談をするように話し合う。死にかけているとは思えないくらいに穏やかに。
アドラは悲しそうに微笑むと、先ほどとは違い真剣に話し出す。
「吾輩との契約は……君にとっては呪いに等しいのかもしれない、今ならーー」
俺はそこから先は言わせてはいけないと強く思い、言葉を吐き出す。
「ふざけんなよ無駄飯喰らい」
その言葉に予想していなかったっと言わんばかりに、呆けた顔をするアドラ。
「俺はお前と契約したことを後悔もしたことが無ければ、この契約を鈍いと思ったこともない」
俺は抑えていた魔力を全力で放つ。瓦礫を溶かし、傷を炎で消し欠損と言う結果を燃やすように内臓を復元する。
「初めて全力を使う、勝てるかわからない、そんな相手は初めてだ」
「それだったらーー」
「逃げると思ってたんだ」
俺の言葉を聞いたアドラはまた言葉を失くす。
それでも俺は言葉を続ける。
「こんな力だけを持ったガキだというのは自覚しているし、今も怖いのは変わらない……でもな、恐怖よりも嬉しさの方が強いんだ」
話している最中に怪我は消え、俺は今まで扱ったことのない魔力量に興奮を抑えられずに口の端を釣り上げてしまう。
「今でも普通に生きることは俺の目標だ。けれどな、関わった奴らが笑顔でいること以上に普通なことがこの世にあるとは思わねぇ!」
自分を鼓舞するように叫んで、自分の中にある魔力を使い炎の竜巻を起こす。
明日も十九時に投稿します。
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