十二話
結界から離脱した俺は、影の中にいる気配に向け声をかける。
「リア……いや、ダンダリアンいるんだろ?」
「気付いてましたのね」
影に声をかけ返事が返ってきた時に、俺の影から別の影が動き出し、俺から離れたところで影からダンダリアンが出てくる。
「俺の影に潜んでいたのはすぐに分かった、今回来たあいつらはお前の手引きか?」
「違う……とは言えませんね。原因が私であることには変わりありませんし、言い訳するつもりはありませんよ」
「今の言い方だと……原因はお前だが、手引きはしていないということか」
「その通りなのですが……信じるのですか?」
ダンダリアンは俺が自分のことを鵜呑みにしていることに不思議そうにしている。
「信じるも何もお前がそう言ったんだろ?」
「貴方、騙されやすいんじゃないんですか?」
「よく言われるが信じる相手を選んでいるだけだ」
俺がダンダリアンに真剣に答えると、彼女はいきなり大声で笑いだした。
「おいおい、いきなり笑いだすとかどういうことよ?それに、ここは特魔の結界の中じゃないんだが!?」
彼女の笑い声に気付いたものが窓から顔を出し、こちらを探しているようだった。
「アハハハ!あな、貴方って!」
「だぁ!いつまで笑ってんだ!いいからこっち来い!」
いまだに腹を抱えて笑っているダンダリアンの手を引っ張り、その場から逃げるように走り出す。
ダンダリアンが意図的に呼んでいないということが分かったので、始末する必要が無いということを結論付けた。
「それに結界の中には単体で上級に勝てなくても、抑えられる奴がいるしな」
あの男が来たのも確認したし、遅刻した言い訳をどうしようかと考えるのであった。
宗助視点
目の前から”鮮血”が居なくなり、痛む体を無理やり動かして目の前のもう一つの脅威に注意を向ける。
「くっ……皆平気か?」
「あの野郎……差を見せつけるように力を使いやがった!」
「それでも本気じゃなかったよ、シロなんかほとんど一撃だったし」
「さっきから本気じゃないって言うんじゃねぇ!テメェも不意打ち出来てないだろが!」
「それは俺とシロも同じことだろう?スーに八つ当たりするな」
目の前の上級悪魔たちは先ほどの戦闘でそれぞれ怪我を負っているのだが、お互いの心配をせず話を続ける。そこに上空からもう一体降りてきた。
「アカか、あの攻撃で死んだと思っていたが」
「逃げ遅れたのは確かだけど、勝手に殺さないでほしいわぁ」
「キャハハ☆アカだ!柔らかぁい!」
「いきなり抱き着かないのぉ、そんなことよりそこにいる人間よ」
集まった上級悪魔五体が俺たちに視線を向けてくる。
俺は力が入らない体に鞭をうち、目の前の脅威に剣先が震えながらも刀を向ける。
けれど、剣先を向けられている五体は全く気にすることなく話しかけてくる。
「そこの人間、君は話し合いに応じる気はあるか?」
「その前に、貴様らはあの男……”鮮血”とはどういう関係だ?敵対しているのか?」
「敵対するも何も今日初めて会ったわ」
「そもそもあんなに強い奴自体に会うことも滅多にないもん」
「お前らは少し静かにしていろ、複数人に話しかけられてはまともな話し合いも出来るわけがないだろ」
「まどろっこしい!こういうのはーー」
言動が粗暴な悪魔が拳を振り上げるのと同時に、他の四体が拳を振り上げた悪魔に飛びかかる。
「なっ!?テメェら!何しやがふっ!」
「頼むから穏便に話をさせろ!このバカが!」
「シロはバカなのだから黙っておれ!」
「駄目よ、真剣な話をしているんだから暴力で解決しようとしちゃねぇ」
「キャハハ☆シロ殴るの楽しい!」
「最後のだけは違うぶふっ!」
目の前にいる悪魔たちは、悪魔だと知らなければ人間のような行動をとっていた。
その光景に気が緩んでしまった俺は体から力が抜けるのと同時に意識が落ちた。
次に目が覚めた時、側頭部に柔らかい感触がある事に気付いた。
ベットに寝ているのかと思ったのだが体から伝わる感触は硬い地面のようで、掛け布団も無いようで寒い。
寒さに震える体を縮こませ、側頭部の柔らかいものに頭を合わせようと触れると、
「んっ……坊やは見た目に反して大胆なのねぇ」
「はい!?」
柔らかい感触がする側頭部の反対側から艶めかしい声がしてそちらに顔を向ける。
顔を向けた先には顔が見えるわけではなく、丸くて大きい物体が視界を塞いでいた。
「ようやく起きたか、出来ればこ奴らに説明してくれんかの?」
「何を?」
返事をしてから疑問に思う。
俺は今誰と話しているんだと?
そこまで思考が働いたところで自分が倒れたことと、倒れる前のことを思い出してその場から飛び起きる。
先ほどまで俺が寝ていたのは五体いた上級悪魔の一体である女性の姿をした個体の膝だった。
「~~~~~!?」
相手が悪魔だと理解しているのだが、内側から沸き上がる羞恥心によって顔が熱くなっているのが自覚できる。
先ほどまで自分は意識を失っていたとはいえ、彼女の膝に頭を置き、枕と間違え彼女の膝を思いっきり掴んだのだ。相手が人間ではないのだとわかっていても、罪悪感と触ってしまったという下心が混ざり合って思考が暴走してしまう。
「宗助!」
内心パニックを起こしていたので、近づいてくる気配にまるで気付かず、何かが俺の体を締め付ける。
締め付けてくる物の正体を確認してみると、桜が俺に抱き着いていた。
「さささ、桜!?」
「よかった、まだ生きてるよ……」
桜の言葉を聞いて”鮮血”と戦って出来た傷が塞がっているのに気付く、特魔の治癒師でもあの傷を治すのには数日かかるはず。
「さて、これで傷を治したことを証明しただろう?話し合いを始めさせてーー」
「黙れ!」
眼鏡をかけた悪魔が言葉を発するのと同時に、悪魔たちと俺と桜に向けて魔術が放たれる。
「懲りない奴らじゃ、《黒玉》」
半透明な黒い壁は俺たちも含めて半円状に展開され、周囲から放たれた複数の魔術は俺たちのもとに届くことはなかった。
防がれるのを分かっていたのか、俺では会えることのない偉そうなおっさんが次弾を放つように号令しようとしたところでそれは現れた。
「《縛鎖》」
その一言ともにその場にいる人間と悪魔の足元から鎖が現れ、全員の体が鎖で縛られた。
そしてその場の中心、つまりは悪魔たちの中心にタバコを咥えながら現れた。
「局長!どうして止めるのですが!?」
「逆に聞きたいのだが……俺はこんな命令を出した覚えは無いのだけど、幹部程度のお前は俺の命令を無視して何しているんだ?」
咥えたタバコに火をつける局長と言われる男、幹部と呼ばれた男は正論を言われてぐぅの音も出ないのか、言葉が詰まっていた。
悪魔たちは自分たちの近くに現れた男に脅威を抱いてはいないようだが、自分たちを押さえる鎖に視線を向けていた。
「何だこれは?全力を出しているというのに全く外れない」
「魔力も乱されてるのかしら?術の構成に時間がかかるわぁ」
「やはり、上級悪魔に俺の鎖はあまり意味ないか、一様は魔術も使えないようにしたつもりなんだがね」
「うっせぇ!黙ってこれ外しやがれ!」
「すまないがそこにいる部下の二人と、君たちの鎖は外してやれないな。今の俺たちでは、君たちを倒すのに時間がかかりすぎる」
局長は咥えていたタバコを指で持ち、溜息を吐くかのように煙を吐く。
そんな動作の後に、先ほど宣言していた通りに魔術を解除する。
この場で鎖に繋がれているのは俺と桜と悪魔たちだけ。鎖から解放された幹部の男は号令を出そうと右手を振り上げるのだが、声を上げる前に気付く。
自分の首に鎖が締め付けられているのを。
否、それは締め付けているように見えて巻き付いているだけ、けれどその鎖の先にはタバコを咥え、左手を幹部に向けている局長、その左手に巻き付いている鎖が幹部の男の首に巻き付いている鎖だとその場にいる全員が気付いている。
「この程度の攻撃も見えねぇのに、俺の命令を二度も無視するのか?」
その言葉は大きな声で怒鳴られたわけでもなく、冷たく言い放たれたのではなく、ただ淡々に放たれた。
そこまでされて幹部の男がその場に崩れ落ちた。
「すまないな、うちの部下が迷惑をかけた。でもな、あいつはお前らの同類に家族を皆殺しにされているんだ。
そんなお前たちが話し合いとか抜かしても信用できないのはわかってくれよ」
「……俺たちはこのままでいいのか?」
「へぇ……同情しないのか、薄っぺらい同情でもしようものなら俺が勝てなくても一人は殺してやろうと思っていたよ」
「俺たちとは関係ないと言っても、ここにいる奴らが信用しないのは分かっているし、期待もしていない。
だが、こちらにも邪魔をされたくないことがあるから話という形にしようとしただけだ」
「りょーかい、お前らは俺についてこいそのこの二人もな」
局長は俺たちにも声をかけると、今度は大声で全員に聞こえるように叫んだ。
「今この場を持って、ここにいる五体の悪魔と二人の特魔隊員二人は俺預かりだ!これ以上の口出しをするんじゃねぇぞ!」
『了解!』
局長の言葉に敬礼をする特魔隊員たち、俺はこの後、学校に戻ることはなかった。




