第二話 錬金術と科学とパソコン
説明回で短いです。
「ふふふふふ……真理を見つけてしまったかもしれない」
興奮に体が震える。
中学という場で科学という神のかけらに出会った僕はのめり込んで研究を続けた。それこそ使命も忘れて夢中になったと言っても良い。
僕の得意とする分野、錬金術は科学との相性が良かったからだ。
試行錯誤で分子原子の組み換えを身に付けた僕は「科学って……すげーな!」と正直に思った。
錬金術はいわば自然学の集大成でその範囲は広い。大きく分けると錬成と化合が主になる。
もちろん、他にもあるけどね。
以前なら。そう前の世界での話だけれど、錬成は異なった物を一つにしたり取り出したりといわば鍛冶に近く、化合は魔法薬など素材を変質させて効果を持たせていくと考えられていた。
もちろんその手段には魔術が必要で、いわば力技で成し遂げる。魔術とは神の使う技を人が扱える様に簡略化したものだ。
だから限界も多く、人知の及ばない範囲は神の領域で、探求することも理解する事も放棄していた。女神の恩恵として授与されるという考え方だ。
だから魔術研究が遅れていたのかもしれない。
ところがこの世界には科学という学問があって、魔力を用いないで現象を解明していた。
たとえば、この世界の物理学者が物事を解明して行くと物理学が生まれた。
元の世界には無かった発想とアプローチで実に新鮮な学問。化学も同様で様々な仮説を採用し、物質の構造や性質を解明することで知見を積み上げる学問である。
非常に論理的で理に叶った手段。
でもそれは一面の理解でしかない。なぜなら魔力があるからだ。
大魔導師ユイ・フロランスによれば魔法は迫害されたと言う。
神だかなんだか知らないけれど、魔法を迫害してしまった世界では、魔力は認識されていない。
でも実際には魔力はあって、きちんと作用している。目に見えないだけでね。
だから僕のように魔力の存在を知っていて、実際に行使出来る者が科学を学んだ場合。
「錬金術は分解と結合だったんだ!!!!」
物理法則に魔術効果を持たせたものが錬金術や魔術なのだと理解してしまうのだ。
そう、知ってしまえば何のことでは無い。
そして素粒子こそが魔力で、分子原子を自由に──制約はありそうだが──組み換えると考える事が出来る。
もちろん、それ以外にも作用してそうだけど、今は置いておこう。
歴代の魔術学者が悩んでいた問題も、素粒子──素粒子の一部かもしれない──が魔力とすれば解決する。それが錬金術の真理で魔法の仕組み。
もっともまだ仮説だ。証明されて無いから。でも理論理屈としては正解だと思う。
そのうちきちんと魔力を観測したいな。
魔術行使のときに魔力を科学的に観測できれば実証できるのだが、現状ではその方法は無い。
それにしても────。正しい理論に基づく魔術行使。イメージが重要な魔術でこの違いは大きい。実感として変わったことが理解できたもの。最小魔力で最大威力。いまならイステリア一の宮廷魔導師も裸足で逃げ出すだろう。
なんて偉そうに言っているけど、一から自分で見つけたわけじゃない。
誰かが見つけた理論や現象を錬金術に取り入れただけなのだから。
ああ、ジョアンと二人で研究していたときこれに気づいていたら新たな発想で魔道具ももっと進化してのに。
ジョアンの専門は魔法陣の研究だった。
魔法陣とは魔術だけでは対応出来ない部分を神の言葉とされる〈神聖文字〉で描き表す技法だ。
ジョアンは特に、平面に書かれた魔法陣を立体に組み替えるのを目標にしていた。
錬金術の考え方で「形には意味がある」という考え方があった。
特定の図形が魔術的作用をする事があるからだ。この世界にあるヘキサグラム何かが例になるだろう。魔法陣では良く使われているのだ。
〈神聖文字〉を図形化するのは難しい。
けれどジョアンは、スクロールなどの平面より、自由度と作用が効果的になるように立体化して、相互に補わないかと考えた。
これが実現すれば凄い事で、巨大な魔道具の小型化や複数の効果を持た組み合わせが簡単になる。
例えば温水を出す魔道具を作るとしよう。
まず水を作る魔法陣、続いてそれを温める魔法陣と最低でも二つ必要になる。実際にはもっと細かく、例えば温度はどれくらいとか水の量とか、組み込まなければならない魔法陣の数はどんどん増えていく。
ジョアンはそれを組み合わせて簡略化するのが目標だったのだ。
複雑な文様を立体的に組み合わせて簡略化。言葉にすると簡単だが、その組み合わせは無限にある。試行錯誤しながらは膨大な時間がかかった。それこそ一生を費やしても足りないくらい。
ところがこの世界にはパソコンがある。
それこそスーパーと名が付く特別な物じゃなくても、目の前の汎用品。
そう机の上のノートパソコンを使えば、複雑な図形も文様の組み合わせもあっという間で「ほらね」っと、さっそく出来た魔法陣を画面に出す。
くるくると回して確認しながら3Dプリンターで造形に入らせた。
CADってすげー! 3Dプリンターはもっとすげー! ジョアンも来れば良かったのに。
こう思ったのは正直な僕の気持ちだ。あんなに苦労していた事が簡単に出来る事実。
出来た立体魔法陣。財政的事情から手作りの3Dプリンターで樹脂製は、とても脆いのだけれど問題は無い。
錬金術なら、イメージさえ出来れば完成後に材質を変えられる。
いま作ったのは父親から貰ったマグネシウム燃料電池のキットを改良したものだ。
シート状のマグネシウムに塩水で発電する。おもちゃなので、そのままだと幾らも発電できない。でも立体魔法陣を応用すると格段に変わった。
「発電量は充分、再生も問題なし。実用レベルはクリアか」
恐るべし3Dプリンターの威力である。
ちゃちゃっと立体魔法陣を組み込んだだけで、商品化レベルまでの試作品を完成させるとは。すでにおもちゃレベルは超えている。
塩水の補給さえすれば、ずっと発電しそうだ。
マグネシウム燃料電池と反応式は同じでも同時に再生が可能だから塩水を切らさなければ常時発電する。
使用済みマグネシウムの再生は巨大なエネルギーが必要だ。
本来なら半導体レーザーなどで高温化させ真空中で還元させるのを、魔法陣を使って魔力により錬金する。温度を上げる必要も無く真空にする事も無い。魔法陣は電気などのエネルギーで動かす訳じゃないから、巨大な施設を作る事も無い。
放電で生成された水酸化マグネシウムを金属マグネシウムに変えるなどまさに錬金術の得意とするところなのだから。
ただし魔術とはいえ無限では無い。
空気中から集められる魔素の効率は魔石無しでは酷く悪いし、使用済みマグネシウムの再生を行うたびに、少しずつ金属マグネシウムを消費していく。
残念な事に錬金術は必ず対価を必要とするのだから。
大部分は塩水を対価にしているけど、足りない分は金属マグネシウムを減らすのだ。
それでも画期的な技術だろう。
いつかジョアンに会えたら自慢してやろう。 手に取った魔法陣を眺めながら、そう僕は心に決めた。
「さて、問題はこのままでは世に出せないって事だな」
地球の物理法則を無視する物など世界がひっくり返る。要するにエネルギー保存の法則さえ無視する錬金術を使うには、理論という理由をつけなければならないのだ。
面倒なことだがこうして見ると錬金術の存在は危険だ。異世界からの転生者で高校生の僕でもそれくらいは想像できる。
夢の永久機関が実現するかもしれない錬金術。と言っても、実際は僅かずつ消費しているので永久機関に見えるだけなのだが、どうすれば良いのか。
「うん、封印しておこう」
ひとしきり考えた僕は、とりあえず先送りする事に決めたのだった。
アキトの錬金術の考察回。科学知識は学生(高校生)レベルなので間違いもあるかと。なので知識が増えれば、新たに気付く場面も出て来るかと思います。
次話は週末までお待ち下さい。




