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第一話 転生した現実と悩む僕

本日二話目

 生まれてすぐ思ったね。ここどこ? って。

 真っ白な壁と天井に囲まれた清潔そうな部屋は見事な造り。

 と言っても、生まれたてで見えるはずは無いから、少しだけ魔力の力を借りている。


 うん、魔力の存在は確認できた。今度の身体には魔力がふんだんにあるみたいだ。

 正直魔力が存在しない世界の可能性もあったからホットした。


 くそっ! 忌々しいが、あの女神のお告げが本当なら、世界が終わるまで三十年。時間が有るようで少ない。

 押し付けられた任務に気が滅入った。

 さて赤子の現状で何が出来るか? とりあえずは情報を仕入れることかな。


 魔力を薄く延ばすと気づいた。広げた魔力は探知の魔術。前は苦手だったのに驚くほど上手く行く。

 ん!?

 どうやら誰かとベッドに寝かされているみたい。

 ……で、ええと、この人が母親かな? 僕に話しかけているけど、ごめん、言葉が理解出来ないや。


 言語は不一致と……。




 翻訳魔術を使おうと思って……。だめだ……眠い。

 この身体はまだ自由にならないみたいだ。

 ううう、ああ……おやすみなさい……。

 任務達成の先は遠い。







         ◇◆◇◆◇◆







 三歳になった。


 名前は焔明人ほむらあきと。両親の意識にそれとなく干渉したらこう名付けてくれた。

 一生懸命『カイト! カイト!』って念じたのに、なんと『アキト』に変換された。

 やはり生まれて二日も経たない身体では無理もあったかと思いながら、一文字だけでも同じで『ト』がついてるから特に違和感は無いと思いたい。


 順調に成長しているのは嬉しい事で、翻訳魔術の助けを借り言葉も覚えることが出来たのだが、ここまでの成長に付いては正直思い出したくないし、赤子時代の鮮明な記憶は封印したいと思う。


 現在は文字の習得に励む毎日。

 幸いなことにこの世界は情報に溢れていて、それほど苦労しなくても知りたいことが手に入れられる。


 あはは、TVに感謝だね。


 目的はもちろん移住可能な新天地を探すため。時間が限られているしね。まずは世界を知らないと。

 この世界の一年はほぼ同等なのは間違いないと思う。ただ時間軸のズレがどうなっているかは不明だ。

 ガイア世界で三十年あるといっても、明日滅亡の日が来てもおかしくないからだ。

 まあ、それは置いておこう。確かめる術も無いしね。







         ◇◆◇◆◇◆







 さて……さらに月日は流れて、現在はと言えば七年の時が過ぎた。

 残り二十三年の現実が圧し掛かる。



「そうか。アキトも大変なんだな」

「……ああ。ホントどうすれば良いのか、厳しい現実に直面しているところ」

「……まあ、頑張れ」

 ブランコに座り足をぶらぶらさせている幼女五歳から励ましの言葉を頂いた。


 何の会話をしているかと言うと、転生に至るまでの状況を説明していた。

 大人の精神を持ちながら小学校に通うのはストレスだ。主に交友関係が苦痛でたまらない。毎日子守をしている感覚なのだから。

 それだけならまだ良いだろう。時間が経って相手が成長すれば解決していく問題だ。

 一番苦痛なのは僕の役割が侵略者だということだ。

 異世界からの転生者で使命を持つ身としては、友達が出来るのもある意味つらい現実なのだ。


 そんな重い事実を五歳児相手にする話題じゃないと言われそうだが、この幼女は只者じゃ無かった。


「でも、この世界にも魔法・・使いがいて助かった。一人知らない世界で、どうしようかと絶望してたから」

「ふふふ、ボクたちも最初にキミを見つけた時は驚いたよ。まさか自分の兄が魔術使いだなんて思っても見なかったから。ああ、食べるかい? 甘くて美味しいよ、最近これが結衣のお気に入りなんだ」


 ポケットから出された飴を受け取り口に放り込んだ。甘い。


「ありがとう」


 傍目から見れば微笑ましい光景だろう。

 もちろん中身が、異世界からの転生者七歳と千年生きる大魔導師五歳で無ければだが。


 五歳児がぶらんこをこぎ、それを見守る兄の姿。まだ五歳ながらもすでに美少女の片鱗を見せ始めている結衣ゆいは僕の妹だ。

 でも彼女の中にはもう一人のユイがいたんだよ。

 どういう理屈で成り立っているかは理解できないけれど、永い悠久の時を過ごす大魔導師ユイ・フロランスの生まれ変わりなのだ。


「異世界の魔法使いか」

「向こうでは魔術師と言うんですけどね」

「女神が存在するんだろ? 見てみたいものだね」

「そのおかげで……酷い目に遭ってますが」

「ん? アキトは今に不満なのかい?」


 整った眉をひそめて口を尖らせたユイ。ジト目で僕を見る。


「あー、言い方が悪かった。イステリアに住んでいた時より、ここは過ごしやすいので現状に不満は無いよ。もっとも一番なのは、家族に恵まれ可愛い妹も出来た事だったりもしますけど」


 これは真実だ。前世では僕は孤児で魔術の才能が無ければ野垂れ死にしたかもしれない。


 転生後は恵まれている。


 もっとも元の世界が滅亡などという事情を抱えていなければ、来る事も無かった世界なのだが。


「そっ! そうか・・・…。可愛い妹か。うん、なら良い。問題ない!」

「ユイから初めて明かされた時は驚いて心臓が止まるかと思いました」

「ふふふ、魔術使いは過去に迫害されてから姿を消しているからね。それより今は兄と妹なのだから、もう少しその……言葉使いを……だな」


 生後間もなくの妹が突然話しかけて来たら驚くだろう。それも明らかに魔力を伴った状態で。大魔導師ユイ・フロランスと聞いたときには自分の事も忘れて腰を抜かすかと「ん? どうかしたの?」


 過去を思い出していたら袖を引かれ意識を戻した。


「むぅ! (鈍感)。まあ良い。話を続けよう」


 諦めとためらいが入り混じった複雑な表情で話をうながす。どうもユイは精神が引っ張られるのか時々子供っぽさを良く見せる。


「魔女狩り? 愚かな行為だね」

「うん、実際に被害に遭ったのは、なんの力も無い人達だ。ボクたちは、罪も無い者が殺されて行くのを見るだけ……とても愚かな事だった」


 どこか遠くを見るユイは悲しそうにしていた。きっとたくさんの悲しい出来事があったのだろう。


 この世界の魔法・・使いは迫害され世界から距離を置いている。その原因となったのは魔女狩りと呼ばれる弾圧だ。

 先天的に魔力を持たなければ使えない魔法は忌み嫌われた。


 僕はこれを一種の思想的暴力と思っている。


 僕の住んでいたイステリアではそれほどでも無いから目立たないが──これは女神信仰が根強いために魔術師の地位が低かったから──他の亜人地域に対して教会の対応は近い物があったのだ。

 目に見えぬ物に恐れを抱いた人間は、恐怖を暴力で塗り替え偽りの支配へと結びつけた。

 事実何度も亜人との間に宗教の名の下に戦争が起き、一部の友好がもたらされたのも近年の事だった。

 だから僕は宗教という存在が嫌いだ。


「姿を消した後は監視、そうアキトの様に目覚めた者を保護するために転生を繰り返していたんだ」


 魔法の素質を持つ者は時々現れるらしい。 その度に監視を行い、必要となれば保護していく。その為の組織があって、事実ユイたち魔法使いは歴史に記される事も無くひっそりと生きていけた。


「でもこれから僕はどうすれば良いのか」

「……そうだな。好きにすると良いよ。ガイアの人たちを呼びたければ呼べば良い」


 少しだけ考える素振りを見せたユイは笑顔で僕に告げた。


「えっ、本当!」

「ああ、アキトは自由だ。何者にも縛られてはいない。欲望と利益のために汚れた世界で、過去に失われたモノは重くて取り返しもつかない……それを踏みにじったんだ。そろそろこの世界も壊れても構わないだろう。だから自重なんて考えなくてもいい。思うとおりにやれば良いんだ。たとえ、それが人類に不利益をもたらそうと、ボクたちは見守るだけで干渉はしないから。ははっ、世界征服なんてどうだい? そうすれば自由に呼べるさ」


 そう言って悲しそうに目を伏せた。


 次の瞬間ユイの金色の目は光を失い結衣と戻る。さすがの大魔導師も、幼い結衣の身体では維持が出来ないらしい。




「……さて、結衣。そろそろ戻ろうか」

 そして僕も兄へと戻っていった。




 この世界で僕はどう生きるか。結論を出せずに移民受け入れのタイムリミットだけが近付いてくる。

 正直に言おう。この世界のどこに百万人を受け入れてくれる場所があるのだと。あれば教えて欲しいものだ。




 くそっ! 女神の奴のおかげでとんだ人生だ。








         ◇◆◇◆◇◆






 この世界は平和だな。誰でも学校で知識を得られる。

 高校生活も最後の歳を迎えて、いまだ自分の立ち居地も決められない。



「ホントなにをしているんだか……」


 そんな思いにふけながら呼ばれているのに気づいた。


「おい、アキト。嫁が来てるぜ」


 僕に向かってからかいの声をかけてくる男子高校生。

 教室の入り口をアゴで示した奴は「早く行ってこいよ」とニヤニヤ気味の悪い顔を見せる。


 彼の名前は藤宮ふじみや たくみ


 僕の数少ない友人で爽やかな雰囲気に育ちの良いイケメンだ。少しは欠点というものを持てよと思う。


 成績は上位で運動神経もすぐれ、日本有数の藤宮財閥の傍系でありながら、なんの不思議か平凡な私立校に通っている。それも兄妹でだ。

 どこまで嫌味な奴なんだ。


 聞けば婿である父親が通っていたのがここ〈聖光学園〉だったとかで、近年じゃ唯の進学校なのに好きにすればと心地よく許してくれたらしい。

 昔は華族も通うほどの威光もあった学校だったらしいけどね。


「もっと、お金持ちの通う学校もあるのに」と言えば「どうせ将来は自由が無いんだ! ならば今だけ自由に生きるんだ!」と力説された。


 我が校は一応『歴史と伝統はある』だがそれだけ。



 で、話は変わるが高校生活を残すところ一年となった昼休み。

 妹の結衣が入学してから昼の時間は一緒に過ごしていた。


「あーあー、良いね。うらやましいよ」

「巧。羨ましかったらお前も来れば?」


 これは毎日のやり取りで、若干うんざりしながら今日も言ってやる。ホント飽きずに絡む奴だと笑いながら。

 わが妹ながら可愛らしさでは群を抜いて、結衣は学園のアイドル的ポジションにおさまった。正直一年の中では一番だと思う。


 人形と見紛う端正な顔立ちと艶やかな黒髪を肩口で切りそろえた美少女。

 しかも学業優秀、所作に品があり料理が上手いと来るから欠点を探すほうが困難だろう。


「ちぇっ! リア充め! 新婚生活の邪魔なんて出来るかっ! けっ、死ね! 今すぐ死ね!」

「妹と飯を食うのをリア充と言うのはどうかな? それを言うなら巧も妹と食えよ」


 そう巧にも妹がいる。二年生で可愛い子だ。

 だいたい妹を嫁とか新婚とか……なんか違うだろ。


「うるせぇ! 僕のは生意気な妹で、結衣ちゃんみたいに健気で兄思いの妹じゃねーよ! くそぅ、さっさと行けよ! 結衣ちゃんが待ってるじゃないか。まったく、オマエは全国の妹萌えに呪われて死ねば良いんだ!」


 文句を言いながら結衣を気遣うとか、友人の良く分からない呪詛に苦笑しながら結衣のもとへ行く。


「お兄様!」


 恥かしそうに教室の入り口で待っていた結衣は、ぱっと華やかな笑顔を見せた。幼き日の『美幼女』だった結衣は順調に進化し、今では立派な『敬語系妹』にジョブチェンジしていた。


「どうかされました?」


 小首を傾げて上目遣いをする仕草は子供の頃からの癖で、変わらないなぁと思いながら「行こうか」と促した。

 べつに結衣と飯を食うのが嫌なわけではないのだ。


 敬語系妹『結衣』だが、これが『ユイ』に変わるとどうなるかと言えば。


「やあ、アキト。玉子焼きは食べないのかい?」と途端にフレンドリーに変わる。

「はいはい、どうぞどうぞ」


 催促に玉子焼きを差し出すと嬉しそうに箸を伸ばした。


「おほほぉー、やっぱり結衣の料理が一番」と金色の目を細める。でも、別に入れ替わらなくても味わえると思うんだが。


 一度それを聞いたところ「満足感が違うの!」と物凄い勢いで言われたので何かが違うのだろう。


 『結衣』は『ユイ』の事を知っている。何時気づいたかしらないけれど、『結衣』の成長と共に『ユイ』を認識したそうで、僕の前では頻繁に入れ替わるのだ。

 だから『結衣』は僕が転生者と知っているはずなのに何も言わない。

 あと、大魔導師ユイ・フロランスは魔法・・を使えるが、『結衣』の時にも使えるかは聞いていない。

 食後、お茶を貰いながら相談にのって貰う。


「結論はまだのようだな」

「ああ、決められないんだ。時間だけが減って行く」

「好きに生きろと言ったのに」

「そう言う訳にもいかないよ」


 何時の間にか『ユイ』も僕の妹と思えるようになって口調も変わった。具体的に言うと『結衣』と同じ扱いを取れと迫られたのだが。


「イステリアと言ったか? そこに何らかの手段で戻れないのか? 決めれないのなら誰かに相談するなり考えたらどうだろう」


 近距離の転移魔法・・・・なら知っているというユイ。


「それなんだよね」


 魔力の多さから一度イステリアに転移で戻って王宮に相談をしようかとも考えた。


「僕も世界を渡るほどの魔術は知らないって言うか想像もつかないよ。代換えの魔術でもあれば良いんだけどね」

「召喚とは違うのか」

「ああ、召喚はもともと違う世界、精霊界なんかから呼ぶんだ。だからイステリアからでも可能だと思うけど、まだ無理。たぶん、イメージをしっかり持たないと失敗する」

「ふむ、ファンタジーだの」


 いやいや、ユイも十分にファンタジーですから。だって千年の大魔導師の生まれ変わりだぞ。


 いま現在僕が取れる手段はいくつかあった。

 女神が転移させるまで何もしないか、環境を整えて僕が呼ぶかだ。

 女神が教えてくれた魔法・・は使える気がしない。後は大規模召喚の魔法陣くらいかな。使えそうなのは。


 召喚の魔術陣に使われる魔力は膨大なため本来は魔術師が共同で行使する。幸いなことに、転生の恩恵か僕の身体には魔力が満ち溢れている。前世よりはるかに多いのだ。

 だから、百万人を呼び寄せる魔術でも可能になるかもしれない。

 でも、まだまだ無理。相手は生身の人間たちだ。リスクが多すぎる。


「でもな、転移でも召喚でも多すぎるんだよ。一人二人なら、いや、もっと多くて五十人が百人でも良い。そのくらいならこの広い世界のことだ、どうにかなると思うんだ。ほら、山奥に隠れたりさ」

「うむ、それは可能だ」

「でもねぇ、さすがにガイアのすべて百万人以上となるときびしい。異世界の住人なんてUMA(未確認動物)の比じゃないもん。隠れて住むにも目立つよな」


 ここが問題になる。どう考えても今の地球上に異世界から百万人が転移してきたら混乱するだろう。未開の土地など無いし、受け入れてくれる国があるとも思えない。


 即座に攻撃されて戦争になってしまうかもしれない。いや嬉々として応戦する騎士団の連中を思い浮かべてぞっとした。世界大戦なんてレベルじゃ無く、あいつらはヤバイ。

 どれくらヤバイかと言えば、素手でドラゴンに喧嘩を売りに行く連中がいるのだ。


「もっともエルフや獣人あたりなら日本ですぐ受け入れられそうな気もするけどね」

「崇められるかもしれんの」

「可愛い女の子も多いしね」

「むぅ! アキトはそういうのが好きなのか?」


 ユイはケモミミが良いのか! しっぽなのか! と騒いでいるがいつもの事だ。

 最近とくに慣れた。


「あぁあああ! アキバに行って仕入れを……」


 まだぶつぶつと何か言っているが無視して考えよう。

 とりあえず移民を受け入れると考えて準備しておくか。ならば第一の目標としてはお金かな。


 これが難しい。


 お金をいっぱい稼ぐにはどうするか。当然まだ子供で親の保護を受けている身では稼ぐとしても知れている。バイトで月に数万円ってところだ。

 いま僕は十七歳で、高校を出て働いたとしても、いや家族は大学は出て欲しいと言っているから──二二として……残り八年! 少なっ!

 国を作れるくらいのお金ってどれくらいなんだろう。百万人だから百億? 僕はこの世界の貨幣価値にいまいち実感が無いのだ。

 というか現実の高校生ならこんなものだろう。




「やっぱり、まずは大人になる事か」

 最低でも成人しないと身動きが取れない。




 ホント何をしてるんだか。時間だけが過ぎていく。

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