九話 鳥と鼠
いつも読んで頂きありがとうございます♪
ストレス発散目的と本格的に書き始めました。
それでも拙い文章力ですが最期までお付き合い下さい。
この作品は完結まで書く!
「精が出ますね、マルゼー。」
パノラの国営冒険者専用施設の敷地内にある鍛練場にてマルゼーに声をかける一人の男。
鍛え上げられた両腕で黒い鋼の大剣を軽く振り抜き終えるとマルゼーは振り返り、男と挨拶を交わす。
「先の行商、ミナホビが負傷したようだが、シュラムもザザックも居ながら怪我人が出るとは……。」
「先日、ツィーズ様から報告を受けております。まがりなりにも【十一足】の名誉に授かる者達。実に嘆かわしい。」
「手厳しいな、だが皆がマルゼーのように無類の強さではない。そうあまり責めてやるものでもなかろう。」
「いいえ、リッド侯爵。強さに貪欲ではないからこそ取るに足らない賊如きに遅れを取るのです。名誉を授かった以上、常勝無敗であり続けねばなりません。甘言は一切無用。強者で有り続けるのならば……ですがね。」
リッド侯爵は頑なに強さを求めんとするマルゼーに対して、半好半嫌の念に囚われるが、それでこそベルラ・マルゼーであり、ブレない信念が今の彼を形成させていると改めて認識する。
「それはそうと、本題なんだがマルゼー。例の報酬の件なんだが、お陰様で私が欲していた物は手に入れる事ができた。残りの戦利品を全て渡そうかと考えているのだが……。」
リッド侯爵がそう言うとマルゼーは首を横に振り、拒否する。
そのやり取りに見事予見していたリッド侯爵は切り口を変えてみせる。
「ふむ、ならばこれは如何かな?」
そう言って小さな魔道具袋から漆黒色の合金を取り出してはマルゼーに手渡す。
「これは、嬉しいですね。これなら是非頂きたく存じます。」
「ははっ。もとよりそのつもりだ。そうでも言わねば私も気が晴れないからね。是非受け取ってほしい……が……。」
表情を曇らせるリッド侯爵はその合金素材から武具強化に昇華させられる職人がパノラには居ない事を語った。
パノラ〝一〟の鍛冶師といえどもそう容易く請け負えない理由は、マルゼーの鍛えに鍛えられた黒鋼の大剣にある。
極限まで合成を重ねた武具や道具の限界突破、すなわち更なる改良はこの世界において危険がついて回る。
素材を溶解してから魔力と練り合わせる〝合成〟製法は通常の鍛造製法とは難易度が格別に違ってくる。
素になる道具に馴染ませたい素材を魔素化し溶かした物を混ぜ込み、魔力で統合、そこから鍛冶品なら鍛造、縫製品なら縫い付け、宝飾具なら圧縮など、各々の製作に沿った製法で掛け合わせた素材の魔素を定着させようやく完成するわけだが、それにも作り手の腕次第で出来栄えの精度や合成回数に限界はある。
安全に武器強化出来る平均強化回数は十回と云われており、そこを既に黒鋼の大剣は到達しており、これより回数を重ねるのはパノラ〝一〟の職人でも難しい。
ましてや、国一番の冒険者とも呼び名が高い相手の最早、代名詞とも呼べる大剣を破壊してしまう危険性が高いとなると、誰でも二の脚を踏んでしまう。
「なるほど、ならば腕の立つ鍛冶師を探さねばなりませんね……。」
「そう、そこでだ……ガルバスに赴くと良い。君がパノラを離れるのは少し不安だが、より高みを目指す為だ。何より、ガルバスにはより優れた鍛冶師が居るらしいからね。」
「左様でございますか。それは、楽しみだというもの。その鍛冶師の名はなんと言うのです?」
「〝アズール〟だそうだ。それもかなり若い鍛冶師らしい。国を跨げどその名声が届くとは一体どんな御仁か、しかと見てきてくれないか?私も興味があるのだ。それと、もう一人捜してほしい。」
これはあれだ、立場上、私的な興に時間を割けない分、密偵をやれと言われたようなものだとマルゼーは考えたが、国一番の冒険者に人参ぶら下げて動かす所は、流石リッド侯爵だとも感じ、その狙いにあえて乗ってみるのも悪くないとさえ思えていた。
それに冒険者としてパノラ大国ですべき事も一頻り区切りはついており、王や冒険者協会からは後進の育成の打診が来ているが、性に合わないとも感じていて、近頃は身の振り方を考え始めた矢先に、この機会は有難い。
依頼主からの直接的な依頼ともなれば、冒険者協会での煩わしい手続き不要、冒険団を持たない主義の単独冒険者であるマルゼーは報酬も仲間内で揉める事は無い上に金払いの良く義理堅い侯爵が依頼主とあらば、王宮や協会から避けていられる。
「了解した。ならば、早速支度してガルバスへ向かうとする。」
「君の事だからそう言うと思っていた。長旅になるであろうからこれらを持っていってくれたまえ、必要品が入っているし、馬車は既に準備してある。」
★★★
高い隔壁に囲まれた施設の抜け道から三名の若い男達が息を切らせながら猛ダッシュで施設外周を駆け抜ける。
その内の一名は先を走る二名から距離が離れていたが、追いついた頃には先に座り込んでいた二名は汗に塗れて木陰で伏せていた。
「はぁっ……はぁっ……兄さん達……逃げすぎでしょ……。」
「馬鹿いうな……サイラス……あんな血も涙もない場から……連れ出してやっただけでも……有難く思え……なぁ、エスバル。」
「そうだぞ……ノラン兄さんが言う通り……何が楽しくて……あんな……汗臭い場に……僕のような恵まれた者が居なくちゃならない……。」
「そうは言う……けど……父上の命であれば……逃げるのは……不味……ッウゥ!」
三兄弟の末っ子サイラスが訓練前に採っていた栄養素を出し切ると、兄達は慌てふためき、サイラスを心配する。
身体を休めながら長兄ノランは不平を鳴らすとそれに便乗して次兄エスバルも共鳴するがサイラスは反論した。
意外な反応に兄達は驚いて見せたが、エスバルは弟が正気を失ったと喚くが、間を置いてノランが問いただした。
「ここ最近思うんだけど、冒険者なんて不遇の職だって思ってた。でも案外そうではないのかもって思える。身体張って魔物を退治したり、民の助けになったりしてるのは大変だよ。それに、教官ってただ恐いだけの血も涙もない化物かと思ったけど、存外そうでも無いしさ。」
三男のサイラスがそう言うとノランは黙ったままで、エスバルは猛反論する。
「でもでも、あの父上が頼る御人だよ?鍛練だって真面目に踏ん張れば、ちゃんと評価も指摘もしてくれる。」
「はっ。あの父上だぞ?他に頼れる存在が居なかったに決まっている。あんな粗野な蛮族にしか頼めない程、世間からは嫌われているからな。」
「……。」
サイラスとエスバルが其々の思いの丈を語り合う中、ノランはひたすら両者の言葉に耳を傾けていた。
「なんで、さっきから黙ってるんだよ、ノラン兄。」
「ん?あぁ……エスバル、サイラス……お前達は冒険者ってどう思う?」
ノランがそう聞くと、弟達は即座に返答するが、どちらの意見もノランにとっては在り来りなものである。
そもそも、高位貴族家に生を受けたならば、一攫千金とも云われる冒険者稼業は無縁。
最低限の礼儀と秩序さえ守っていればその生涯は約束されたものなのだが、如何せん自覚がその常識を許してくれない。
「そもそもだ、エスバルが特に家柄を盾に無茶苦茶してるからこうなったんだぞ。僕とサイラスは政や学問にただ打ち込んでいただけだ。」
「なっ……俺のせいかよ!そりゃ毎晩遊び回っちゃいるが、俺も俺なりに街の事考えているさ!嘘じゃねぇ!」
「聞こえてくる噂は女性絡みばかりだけど?」
三兄弟の流れるような会話であるが、ノランがそれを壊す。
「歓楽街で何人もの娼婦を泣かせているのは何処の誰だ。毎度毎度、迷惑だ。」
「ここんとこは静かにしてる!髭のおっさんのせいで歓楽街に行く体力なんて毛頭ないんだ!」
「だからエスバル兄さんは毎晩、侍女達を呼びつけてるんだ。」
「貴族の男だからな!というか、俺の所有物だ!俺がどうしようが関係無いだろ!」
粗野な蛮族と一体どう違うのか、ノランとサイラスの大きな吐息が合致していた。
「えぇい!大体、俺等の性根叩き直すって言ってた割に、あのおっさんは実のところ大したことねぇだろ!冒険者ですら無い俺達がこうして怠けているというのに、追いかけて来やしねぇ!」
怠惰の自覚があるのならばもう少し真面目に父親の面子も考えるべきとサイラスが呟くと、ノランは無言のまま目を閉じて仰向けに寝転んで上空を気持ち良さそうに渡る鳥を眺める。
「……鳥は良いな。」
その一声に、罵り合うエスバルとサイラスは、ぴたり、と会話を辞め、長兄を見る。
「鳥なんだよ……冒険者何ていうのは。そして僕等は……。」
意味がわからないといった感じでエスバルもサイラスも顔を見合わせていたが、その場にてノランは寝入った。
そこから少し後、付近から突如として現れた人影にエスバルとサイラスは驚いたのだが、ノランは目を覚まさない。
「見た処、君等はガルバスの民か?」
――予期せぬ出逢い、それは後に小さな運命の芽吹きでもあった――
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
極力サボらず毎日マイペースで少しずつ書き出してますが
一身上の都合により不定期更新となります。
また次話読んで下されば嬉しいです♪
書き溜め… …_φ(・_・




