五話 悪魔と女傑
いつも読んで頂きありがとうございます♪
ストレス発散目的と本格的に書き始めました。
それでも拙い文章力ですが最期までお付き合い下さい。
この作品は完結まで書く!
瞬間的にごく微かな音がした。
「……?」
それに気付いた一人の男が足場の先を覗き込むと、見慣れた量の海水が眼下に流れ込んできたが、聞こえた音はそれとは違う。
「さっきから滅茶苦茶揺れているな。一体何が起きている。」
「さぁな……怪我人は無事なのか?」
「あぁここにいる奴等は……な。」
数百名は居る空間の肉壁からせり出す崖沿いに何箇所かで身を寄せあいながら、煮えたぎっている水面を見下ろしたり、辺りを見渡しながら言葉を交わすが、覇気は無い。
そこに居る誰もが酷く衰弱の一途を辿る。
為す術のない現状はただですら耐え難い。
せり出す崖沿いには多数の冒険者や船乗り達が腰を落としているが、中には重傷者も含まれている。
肩を貸して共に座る者や安静に寝かしつけている者など様々居る中、幾度も揺れたり衝撃に耐えつつ…回復職冒険者達はふらふらになりながらも、怪我人の手当てに終始奮闘するが状況は芳しくない。
「駄目だ……とても間に合わない……畜生。」
下唇を噛み締めた一人の冒険者が空間の天を見上げると、何かの影が降りてくるのが見え、そして気付いた。
その影は一直線に空間の中央あるいは足場の無いその場、せり出された肉壁の前に浮かぶと、その冒険者は皮肉を静かに口走る。
「まさか天使が見覚えのある無精髭の中年男だなんてな。お前さんは来るんじゃないかと思えていたぜ。」
「久しいなゼルファ。あまり時間がないからこれを使ってくれ。」
頭上の何処かに打ち付けたであろうアンカーから垂れ下がる頑丈な鋼製の手綱を巧みに操るテルギースがそう返事を返しながら空間を一周しては方々に非常用の小さな魔道具袋を配り終える。
その後、空間に手綱で円を描きながら声を張り上げた。
「俺はお前等を助ける為にグスタフから遣わされた【八ツ星級】だ!これより紫黒鎧の戦士が怪物の魔石を砕く!その前に胃袋にいるお前等はすべき事を成さねばここで終わる!だからその魔道具の使い方を教えようとここへ来た!生きて家に帰りたきゃ覚悟を示せ!時間がないから説明は一度だけだ!配った袋から中身を全部出せ!」
絶望的な状況がひっくり返った瞬間。
寸前まで瀕死になっていた者も魔道具袋に詰められていた回復薬で一命を取り留め、山積みになる魔道具を不思議そうに見つめるとゼルファが問う。
「一体、何をすればいい!?」
そう叫ぶと、テルギースはにやりと小さく笑みを浮かべ、ある物を持つように指示を出す。
それは先日、グスタフらを呆れさせたお手製の魔道具。
【瑪瑙】と名付けられた物騒極まりない持ち柄がある筒状の代物。
大人の両腕ほどの円周で長さは背丈の半分程、使い方は筒の下部から延びる導火線を焚き付けるだけの至って単純な仕様。
同梱されている小さな火属性魔石は火打石として利用する為にある。
「目標は真上、空間の頂点にあるこの手綱のアンカーを狙え!時計回りに合図を送るから火をつけてぶっ放すだけだ!どうだ!簡単だろ!」
その場は静観してテルギースを見つめていたが、一番槍を名乗り上げるゼルファがいそいそと準備を始めると釣られるように各々が準備を始めだす。
やがて全箇所の準備が整うとゼルファは火を焚き付ける前にテルギースに叫ぶ。
「お前さんはどうするんだ!?アンカーに当たりゃ蛸の胃液に真っ逆さまだろ!」
「心配要らん!風属性の鉄靴が有る!」
そう言葉を両者が交わすとテルギースは勢い良く片手を挙げて、反撃の合図を切る形で空を割いた。
ゼルファは担いでいた魔道具をアンカーに目掛けて構え、もう一人の冒険者が背後で火打石を鳴らすと瞬く間に筒は咆哮をあげながら空間の天で爆発する。
堕ちゆく破片が弱々しく焦げ音を上げる中、テルギースは手綱から手を離して浮遊し別箇所に向けて次発を指揮する。
それからは一糸乱れぬ波の様な畝りを見せ、空間を時計回りに波が起きる。
その直後、空間下で閉ざされていた肉壁が不気味に震えていたが、間もなく空間の頭上から何発もの大きな振動と一発の大爆発音がした。
宙に浮かぶテルギースはそれを聞くや否や自身の魔道具袋から一段と大きな【瑪瑙】を取り出すとそれを音のする方へとぶっ放していた。
幾度もの爆発が止めどなく続いた結果、頂点では黒煙が立ち込めていて少しずつそれが晴れてゆくと空間が清々しくなるように感じ取れた。
薄暗かったそこに光明が筋となって突如姿を現すと空間下より海水が雪崩込み水面が近付いてくるのだが、それよりも前に通信魔道具でテルギースはヴァニラ達に合図を送っていたからか、激しく揺れていた空間は次第に鎮まりかえる。
通信魔道具に手を当てながらテルギースは大声で何かを話していたと思った矢先、皆に少し待つよう伝え光明の方へと飛んでゆく。
少しすると鈍くかなり大きな音が次第に残された者達に届くと、その音は明らかに近付いてくると確信が持てていた。
最後の音がすると見事に空間を塞いでいた肉壁から空が観えた。
その瞬間に絶望からの脱却に別れを告げる事となった彼等は歓喜し、暗黒色の魔素を淀ませながら空と肉壁の境界線に浮かぶ紫黒鎧の戦士の影を拝むとそれは神や天使というのは悍ましく、さしづめ『悪魔』という表現の方が腑に落ちていた。
重低音な声色で此度の討伐戦は皆の抗い、奮闘する心があってこそだと讃えながら天から舞い降りた。
その言葉を聞きながらも皆は喜び、そして海上からの救助は開始された。
★★★
「お前さんは、何者……いや、余計な詮索は無しの約束だったな。」
「あぁ、そうだな。覚えているなら文句は無い。」
大真蛸の討伐から一週間たった穏やかな昼、ようやく海上の後始末からラドック港湾都市の議会やらガルバス国への報告といった面倒かつ慌ただしい状況から抜け出し、平静を取り戻したラドック港湾都市。
その一角にある茶店でグスタフとヴァニラとテルギースは純白の卓を囲んでいた。
作戦決行前、ヴァニラはグスタフから幾つかの話を聞かされていたが、その絶対的で圧倒的な魅力を目の当たりにして、尚更テルギースの生き様に違和感しか感じない。
正直な所、この男一人で大真蛸は本当に何とかなったのかも知れないという安易な想像が容易に思い浮かべられるからだ。
それがどうだ。
ラドック港湾都市の領主やワールローを始めとする近隣都市や隣国にまで、今回の戦果は関わった全員の物とする主旨をガルバス国王は声明を出した。
その総指揮官であったヴァニラは後日、勲功者代表としてガルバス王宮へ招かれる羽目となり盛大な祝賀会に参加するのだが、彼女自身、戦果報告時にテルギースや紫黒鎧の戦士を立てたのたが、テルギースはその場でヴァニラとグスタフに総てを押し付け、紫黒鎧の戦士は謁見というのに姿すら見せなかった不敬者と呼ぶ始末であった。
そんな陰の立役者の要望ともあり、国王は渋々了承した結果ではある。
「ヴァニラ、人には其々思惑がある。俺は陽の目を浴びたくない派でな。」
テルギースがそう言うと不貞腐れながらも握る果実水を黙って飲む彼女はストローから口を離すと、心の中で燻る感覚を吐き出す。
「ヴァニラが功績をあげればモントラル家の株かも上がるってなもんだ。素直に受けとく方が今後の自分にとっても都合良いはずだと思うが?」
グスタフもヴァニラという才女の生い立ちを知らないわけではなく意味深気に諭すと、彼女は深く息を吐いて席を立ち深々と二人に頭を下げ、敬意を表する。
その一連の仕草からは彼女が生来どのような人柄かが垣間見れたのだが、互いに詮索無用としていたテルギースは静かに頷いた後、注文をすべく店員を呼び付ける。
――ヴァニラ・モントラル、後に史上最高の女傑辺境伯と呼ばれる彼女の前祝いとして――
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
極力サボらず毎日マイペースで少しずつ書き出してますが
一身上の都合により不定期更新となります。
また次話読んで下されば嬉しいです♪
書き溜め… …_φ(・_・




