三話 海上戦Ⅰ
いつも読んで頂きありがとうございます♪
ストレス発散目的と本格的に書き始めました。
それでも拙い文章力ですが最期までお付き合い下さい。
この作品は完結まで書く!
――荒れ狂う海上を大きく揺れる三隻の戦艦が一つ、【銀夜叉】の甲板の上で悲鳴に近い叫びをあげたケビンが人目をはばからず泣き崩れたのは数々の伝説を積み重ねてきた紫黒鎧の戦士が海の怪物の仕業によって海中へと引きずり込まれる光景を目の当たりにしたからではなく、彼が咄嗟にケビンを庇った際に千切れ落ちて足下に転がる装飾品を視界に捉えたからで、同時に過去の一片、一片の意味が全て繋がってしまった為だった――
★★★
ワールロー冒険者協会に大勢の冒険者が今日も集う中、気配を絶ちながらテルギースは忍び足で専任受付ミィの下へと顔を出すと、ミィは飛び跳ねるように肩をすくめて驚く。
先日の【八ツ星級】への昇格試験を経て久方ぶりの大物級冒険者誕生に歓喜しようとしたが、彼女の口元に人差し指を近づけてはそれを制止する様にテルギースは柄にもなく格好をつけてみせる。
ミィも気を保ち直すと小声でテルギースに言伝をし密かに奥の部屋へと案内する。
案内先の一室ではグスタフと補佐役数名がテルギースを待ち構えおり、そして顔を合わせる。
「ミィ、貴方もこの場に居なさい。」
グスタフの側近の一人にそう言われてしまうとミィもその場に留まる他なく立ち尽くす。
その部屋は【七ツ星級】以上の冒険者しか立ち入れない応接間なのだが、そこに案内される意味とは国家に仇なす案件や緊急事態が起きた場合に限る為に先日ケビンと話をしたばかりのテルギースにはその中身には大方察しがついていて、グスタフも話が早いと安堵した。
近頃、ガルバス近海に大型の海洋魔物の出現が確認されて以降海洋生産にかなりの被害が広まりつつあると報告があり、ワールローの高級冒険者の招集が始まっていた。
冒険者が群雄割拠するここワールローにおいて緊急依頼としては破格の依頼料を上乗せされているのだが、瞬く間にその噂が広まると大勢の冒険者が依頼内容の確認にと足を運んで来ていたのだった。
「ラドック港湾都市にてラドック冒険者協会支部長のヴァニラが指揮しているが、既に海洋団の大型戦艦二隻が沈められて死傷者、行方不明者多数と報告がある。近海の国ユロンやリオールに援軍要請をしているが、正直な話、有象無象が集まった所で討伐出来るかわからん。【八ツ星級】昇格早々危険な任務になると思うから準備に必要な物があるなら言ってくれ、此方で用意出来るものは用意する。」
グスタフは冒険者相手だと歯にもの着せずな言いぶりになるのは相変わらずだが、度々この手の緊急重要案件については毎度それなりに冒険者達の無事を案ずる性格なのは長い付き合いでテルギースも充分理解している。
今回の件はそれだけ切迫していると彼の態度から判断できた。
「なら魔物の詳細と、このリストにある素材をラドック港湾都市に送ってほしい。」
そのリストにグスタフ達が目を通すと、ある魔道具の生成素材だと判断出来たが幾つかはテルギースが既に準備していると知ると呆れて物を言う気が逸れた。
当然、テルギースは予備分として素材を確保しておきたくて求めたのだ。
戦闘に必要な物が多くあるに越したことはない。
「成程……これならデカブツに一泡吹かせられるか……見た処雷槍に似てるな。」
「あぁ、その素材があればグスタフが知っている物の威力の十倍は少なくとも出せる。」
冒険者協会の面々は、ぎょっと目を丸くしたが、そんな危なっかしい物の開発をいつの間に仕出かしたのかと呆れるグスタフはそれでもテルギースの事だから何とかなると完全に信じ切って動揺の〝ど〟の字も見せないで冷静に判断すると、直ぐ様にラドック港湾都市の冒険者協会に手配をかけた。
「奥の転移装置を使え。三秒後にはラドック港湾都市の冒険者協会だ。」
「そっちの方もかなり物騒だな。国家間の勢力が崩れかねないんじゃないか?」
「今やお前はこの国の宝なんだ。出し惜しみする方が不利益だ。それに、こうしている間にも被害が広まる可能性が高い。悠長に事を構えてられるほど俺の器量はデカくない。」
「荷馬車で三日を三秒ね……。相変わらず自由国家の底が見えなくて退屈せずに済みそうだ。」
「ならさっさと功績上げて【九ツ星級】に成り上がってみせろ。更に驚けるぞ。」
互いに不敵な笑みを浮かべながらもテルギースは奥の転移装置に案内されながら姿を消し、残った職員等はグスタフに問いかけた。
「彼一人で行かせて大丈夫でしょうか……久方の【八ツ星級】とはいえ、増援がたったの一人なんて。」
「心配ないさ。それに近年活発化している問題も放っておけないからな、他の戦力をこれ以上割くわけにいかない。既に数日前から送り込んだ【五ツ星級】や【六ツ星級】はともかく、ヤール達【七ツ星級】にも怪我人が出たとなれば……情報通りの魔物ならテルギース一人が妥当な判断だと後々判るさ。」
余裕綽々なグスタフに違和感しか感じ得ないガルバスの冒険者協会重役達は互いが互いに探るように其々が視線を合わせていた。
★★★
「何が三秒だ、あの野郎……三分の間違いだろ。」
強烈な船酔いにあった気分で確実に転移中に吐いていた。
転移装置による魔力障害は少なくとも有るのだろうと織り込んでいたが、それはテルギースの想定以上の余波であった為、転移早々気分が悪い。
「お待ちしておりました。テルギース様ですね。私はここラドック冒険者協会支部副長のカミラと申します。以後お見知りおきを。グスタフ本部会長から話は伺っております。流石は【八ツ星級】冒険者ですね、生半可な実力者なら転移早々魔力波長の影響により半日以上寝込むんですよ。先日来られた【七ツ星級】の方々はヤール様以外がそうでしたから。」
そういう規模の話ならしっかり説明意義を果たせとグスタフに心の中で恨んだテルギースだが、ともあれ僅か数分でワールローからラドック港湾都市までの二十里あまりの距離を飛び越え、かの冒険者協会に着くには着いた。
案内役に導かれ、港湾の船舶場にある大きなドックに足を運ぶとラドック冒険者協会の支部長ヴァニラと対面を果たす。
ヴァニラは開口一番にテルギースの足先から顔まで二度、三度と見渡すと目を細めた後、視線を出撃前の最終検査が施されている大戦艦へと向け現状を話し始める。
テルギースはその態度の在り方に、以前グスタフから聞いた情報を脳内で照らし合わせると目の前の知的で気の強そうな女性指揮官の信用も信頼も間違い無く皆無なのだと感じ取れた。
「呉越か……。」
そう呟いた言葉が聞こえたのか一瞬、ヴァニラの説明が止まると同時に小さい舌打ちが聞こえ振り返った彼女の睨みを利かせた表情を見た。
が、直ぐ様に戦艦の設備や機能、海の怪物の性質や行動パターンの解析結果など降り注ぐ矢の如く、情報を次々と語り終えると、少し疲れたと一言だけ最後に言い放ち何処かへと立ち去っていった。
「ここ数日、戦況が芳しく無く、ラドックの腕の立つ冒険者達や各方面の援軍勢力も皆疲弊や怪我をしておりまして、支部長も色々気が立っているので無礼な態度や物言いになりました事、御詫び申し上げます。」
「まぁ、無理もありませんよ。どうかお気になさらず。」
★★★
ラドック港湾都市のドック施設の一室で罵声と怒声が響く。
その矛先はグスタフであるが彼は落ち着いた声色で和んでいるかのように流暢に問い返していたが、ヴァニラの心頭は沸点から落ちる様相を見せないでいた。
「貴様!この街が危機的状況に陥る中、冴えやしない中年冒険者なんぞ寄越しおって!我々を愚弄してるのか!」
「だから、事前に説明していただろ?【八ツ星級】を援軍に送るって。」
「たかが一人の冒険者に何ができると言うんだ!?ヤールの一団ですら半壊なんだぞ!」
「報告では援軍勢力の海上戦の経験不足だと聞いているし、必要な準備を怠った結果だろ。勢いだけの若い冒険者達は始末が悪くて面倒だ。」
「前線にいる皆は生命張って闘っているんだぞ!何だその言い草は!海の安寧を誰が齎していると思ってんだ!?あぁっ!?」
「……そんじゃ、聞くがね、ワールローとラドックの境界、魔峡の安寧は何処の、誰が、保っていると?それだけじゃない、四方に延びる交易路の安全維持もだ。たかが一つの決死戦で支部とはいえ長であるお前がガタガタ抜かすな……と言いたいが、だからこそあの男を向かわせた。結果示す前から舐め腐ってんじゃねぇよ。どうせお前の事だから、蔑んだ目で見下してからの塩対応が目に浮かぶよ。嫌いだもんな、黒髪の中年親父冒険者。特に口と顎髭が無精髭な奴。」
図星を突かれたヴァニラは言葉に詰まりながらも心の中で言いたい放題言いやがると嘆きつつ、一呼吸終えた後に冷静を取り戻そうと沈黙し、やがて口を開く。
「……そんなにエグいのか?奴は。」
「あぁ。一人で送り込めるほどにな。」
何の迷いも感じさせない返答にヴァニラは毒気を抜かれたかのように次第に溜飲を下げ始め、落ち着きを取り戻した頃テルギースの詳細をグスタフから聞き出すとその内容に驚くしかなかった。
「仮にそれらが嘘では無いとしてもだ、クラーケン程のデカブツに、たった一人で何が出来る……陸地のように落とし穴や罠を張るのは難しい上に、海中へと引きずり込まれたら最後なんだぞ、厄介この上ない。」
「そうだな、心配は要らないとだけ伝えておこう。テルギースはそこらの魔物や冒険者が束になっても敵わないからな。」
ヴァニラからすればグスタフという男を嫌というほど昔から理解している。
ゆえに、本来ならばその男が信頼する理由は語らなくとも理解できていた筈で如何に己が焦燥と冷静を欠いていたかが伺い知れる。
「で、話の本題に移っていいか?」
グスタフが連絡用魔具でそう言いだすとヴァニラは一つ返事をする。
「俺が知っている大真蛸の怪物はクラーケンより大きかった。表皮はとにかく弾力性に富み並の力技じゃ弾かれるし、人の魔法なんざ蝿の様なもんだ。やたらと魔力耐性がある。それと触手を使って獲物を丸呑みするが噛み砕かない習性だ。胃袋の中はとにかく広い空間で胃液の酸に浸かり続けない限り物は溶けやしない。幸い戦艦の破片やそのものを呑み込んでいるなら尚更足場は有るだろうと踏んでる。奴はそこを狙うつもりだし、海中にあえて突っ込んでいったらその場から即座に退避しろ。距離にして約一……いや、余裕を見て二鏈程即座に後退してその後の救助準備を整えておくこと。以上だ。」
オクトロンの対処法にやけに手慣れているグスタフの説明に半ば従うしかないヴァニラ。
それもその筈でグスタフは過去、三度もオクトロンの討伐に成功している。
ヴァニラがラドック港湾都市冒険者協会支部の長に就いた頃、過去の報告書で見たことがある。
今回直に目の当たりにした標的より遥かに大きかったという事実と当時対処にあたった冒険者はグスタフを含め、たった五名の勇士。
それゆえ世代が違えど事細かに記されていた討伐記録を読み返していた事もあり、今回、人海戦術に加えて当時の記録より優れた海洋戦技術があると自負していただけに容易く処理出来る腹積もりでいたからこそ、通信相手の偉業に舌を巻くしかない。
★★★
テルギースがラドック港湾都市に到着してから二日後の明朝、沖合いにいる巡視船からオクトロンの出現を確認したと一報が入るとドック内は慌ただしさを極める。
【銀夜叉】を含む大戦艦三隻の出撃準備が整う中、ヴァニラはテルギースを【銀夜叉】の操舵室に呼び、船長ら乗組員達と作戦の場を設けていた。
作戦の内容に少なくとも残りの二隻の船長、操舵員達は度肝抜かれたように驚く様は通信魔道具を伝って感じ取れたが、ヴァニラとテルギースはあっけらかんとした様相である。
「作戦の指揮に預かる私が言っちゃなんだが、この作戦で本当にいいんだな?」
「あぁ、問題ない。それに万が一、不測の事態が起これば救援を呼ぶから安心してくれ。」
ヴァニラ以外は底知れぬテルギースの自信に半信半疑な上に疑問も持つのだが、ヴァニラだけは明確に違っていた。
作戦会議終了後の出撃間際に甲板にてテルギースを呼ぶ声に彼は振り向くとそこにはケビンが立っていた。
驚くテルギースはケビンに怒鳴りつけそうになったが、一瞬の内にその思いを掻き消す。
「俺だって漁師の端くれだ、生命賭けるぜ。」
テルギースの内心は不安で満たされそうになるが、最早時すでに遅し。
「そうか、なら夕食は蛸料理だな。」
「……不服か?今回の討伐報酬に目が眩んだとか、テルが居るからとかじゃない。俺も進むしかないんだと思えたからここに来たんだ。」
なまじ付き合いが長いだけに表情の微妙な変化すら嗅ぎ取ってしまう元相棒に脱帽するテルギース。
「作戦は?」
「……お前はもう冒険者じゃないんだから冒険者風情を気取るな。漁師として乗組員として役割を果たす事、いいな?」
「……まっ、仕方ねぇな。天下の【八ツ星級】冒険者にそう言われちゃな……気を付けろよ、毎度腹の中は安全だとは限らねぇんだから。」
そう言い残しケビンは配置へと向かう中、テルギースはその姿を目で追っていた。
報告にあった位置に近づくと小回りの利く高速巡視船がオクトロンと交戦しながら非常に巧妙く立ち回り、時間を稼いでいたが、三隻の大戦艦が見え始めた頃合いを境にオクトロンから距離をとると入れ替わるようにオクトロンの敵視が大戦艦三隻に向く。
『これより、作戦を開始する!全速前進!』
ヴァニラの号令により三隻の大戦艦は左右と中央に進み三角形の交戦ラインを敷くと左右に回り込んだ【竜水】と【白滝】の二隻から巨大な銛が数発ずつ射られオクトロンの表皮に突き刺さる。
ダメージが通っている証としてオクトロンも抵抗を示し、激しく海面は揺れるが、【銀夜叉】は作戦通りに海の怪物目掛けひたすら直進し、瞬く間に距離を詰めた。
オクトロンの撓る触手が届かない距離に位置するも、あろうことかオクトロンは【銀夜叉】目掛けて大型魔法を撃ち込んでくる。
「面舵一杯!回避!」
間一髪直撃を避けた【銀夜叉】だったが、甲板に居たテルギースは不味いなと一言放つ。
潮の流れが大型魔法により不規則に乱れ大真蛸の触手攻撃範囲に戦艦はすっかりと引き込まれている。
咄嗟にテルギースは通信魔道具でヴァニラを含む操舵室の面々に作戦変更を告げた。
これよりは予断の許されない一発勝負とテルギースは吐き捨て、大真蛸までおよそ半鏈の距離にある【銀夜叉】の甲板から海中へと飛び込む。
その判断は、オクトロンの攻撃により【銀夜叉】が真っ二つに別れぬようにする作戦らしいのだが、荒れ狂う海面を遡るようにヴァニラ達は退避に全力を注ぐ。
かたやオクトロンも是迄の行動パターンからすると【銀夜叉】を破壊にかかっても良いはずだが、今回は何故かそれがなく、幾ばくかの緊迫した猶予が【銀夜叉】に与えられていた事は肌で感じ取れていた。
三隻が図ったようオクトロンから距離を取り始めて少し、海中から痺れるような振動が伝わると、何度か海中から巨大な飛沫が上がり、直後オクトロンは叫び暴れ始め、【銀夜叉】はうねる海面により大きく上下へと船体を揺らすのだが、船長の操舵術が的確かつ絶妙で難を幾度も乗り越える。
それでも一難去ってはまた一難。
より暴れる海の怪物は強烈に海面を断ち切るように触手を四方八方に叩き付けると、その飛沫が【銀夜叉】に届いてしまう。
テルギースの無事を乗組員達はただ祈る事しか出来なかった。
より酷く、海面は揺れ、船も気を抜けば転覆、座礁するのではないかと思えるほど高低差を耐え抜き緊張の連続である。
退避途中に牽制射撃として数発ずつ巨大な銛を撃ち込んではそれぞれ二鏈ほどの距離まで下がろうとしたが距離を詰められた【銀夜叉】だけはどうしても遅れをとってしまい、八本の触手の内、一本の巨大なそれは甲板を捉えた。
凄まじい威力と振動に船員達は気を吐くのだが、船体は思いの外頑丈であったものの、怪物が放った魔の手は甲板上に絡みつく。
その厚みたるや人の三倍以上あろうかという触手の目と鼻の先には乗組員達が居たがその中にケビンも含まれていた。
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
極力サボらず毎日マイペースで少しずつ書き出してますが
一身上の都合により不定期更新となります。
また次話読んで下されば嬉しいです♪
書き溜め… …_φ(・_・




