二話 前進の足音
いつも読んで頂きありがとうございます♪
ストレス発散目的と本格的に書き始めました。
それでも拙い文章力ですが最期までお付き合い下さい。
この作品は完結まで書く!
ワールローの冒険者協会の一室にある応接用の長椅子に座る一人の男は弱冠二十歳であるもののこの世界において十五歳で成人としてみなされる為に、幾ばくかの幼さが残りつつも立派な成人。
端正な顔立ちに均整のとれた筋肉質な身体つき、戦闘時なびかぬように結わえられた金色の長髪、淡い翠の瞳に着こなす純白の外套の両肩辺りに縫い付けられている黄色の星型の紋。
その男の名は国内外問わず街娘たちを虜にするシュラム・フォンテーヌ。
パノラ大国屈指の大貴族、フォンテーヌ家が出自であり、先日の大行商隊の護衛責任者でもある。
だが本来の気品満ち溢れる様相とは相反し、その表情はどこか暗く曇る。
そうこうすると部屋の入り口扉が開き二人の男がシュラムの方へとやって来るとシュラムはその場を立ち上がり二人に一礼を交わすと今度は三人が同時に卓を挟むように両脇の長椅子に腰を落とした。
一人は白髪に長い顎髭が特徴の年輩者で、もう一人は筋骨隆々というよりは切れ長の目を観て分かる通り如何にも知的溢れる御仁の二人。
ガルバスの老年宰相バウスナークとガルバス冒険者協会の会長グスタフである。
「シュラム君、お疲れの処、呼び出してしまって悪いね。」
「いいえ、此方こそ先日の件で正式な御礼を申し上げる間もなく大変な無礼を働いてしまいました。此度の良き機会、この場をお借りして謝意と謝罪を述べさせて頂きたく存じます。」
バウスナークとシュラムがそう言葉を交わし一頻り会話を終わらせるとグスタフは一呼吸の後、本題であるパノラ大行商隊の襲撃事件の詳細を改めて確認する。
ワールロー北街道にて交戦した野盗団を率いていた元【四ツ星級】の男の正体はシュラムの向かいに座る二名により明らかにされた。
ヌーノス・ヨハンソン。
かの襲撃事件の主犯であり率いていた野盗団の頭領である事は捕縛した残党からの証言により確定しており既に潜伏拠点も突き止めガルバス、パノラの騎士達により被害総額の九割近くの商材や資産は押収出来ている。
だが、問題は件の主犯ヨハンソンの謎が残る。
ヨハンソンはガルバス国内の地方都市出身で、実家は平民であったものの両親共にその街一の商家勤めで重職であった為、ヨハンソンは幼少時から二十一歳までの間、商才を磨いていたらしい。
大陸暦五五八年、遡る事二十五年前、切っ掛けは謎ではあるものの一念発起し数人の仲間と共に冒険者に転職、その後僅か二年足らずで【四ツ星級】冒険者となる才気の片鱗を示したが、突如として表舞台からその姿を消した。
瞬く間に冒険者の格を駆け上がっていく、その勢いを知る者は皆当時のヨハンソンを一様にこう語る。
――稀代のお人好し――
品行方正と生真面目が取り柄で冒険者界隈では珍しい性格の持ち主だったと。
失踪から二十五年経った今なぜ彼は悪事に手を染めたのかバウスナーク、グスタフ、シュラムの三名は国内外における行商潰しに関係しそうな事件の洗い出しや犯罪心理の観点からも探りを続ける方針を固める。
「時に、父君はご健勝かね?」
一通りの確認と状況の整理を終えたグスタフが世間話へと移行したのは三名が顔を合わせてから半日程過ぎた頃で、それまで曇っていた表情とは明らかに違う表情でシュラムは頷いた。
「噂は度々耳にしていた。ツィーズの三男坊が冒険者として頭一つ抜けたってな。」
「ありがとうございます。グスタフ様の事は昔から父によく聞かされていました。そんな御仁からお褒め頂けるのは冒険者冥利に尽きます。」
シュラムの父、ツィーズ・フォンテーヌは現フォンテーヌ家の当主であり、若き日はグスタフと同じ冒険団に所属しては鎬を削った仲である。
「当時パノラで指折りの魔法剣士だった君の父上とはどっちが先に名を上げるか競い合っていてな、所属していた団が解散してからも毎年連絡だけは取り合っていたんだ。君が護衛任務についたと知らせを聞いた時は嬉しく思ったし、だからこそ到着予定時間になっても姿が見えなかったのは気になっていたんだ。」
「左様でございましたか。ご心配おかけし誠に申し訳ございません。」
「いやいや、俺は結局荷運びの手伝いと死傷者の運搬しか出来なかったからな。あまり役に立てていない。それにツィーズに報告するのを……その……少しばかり躊躇ってしまっている。」
旧友の子息、特に三男のシュラムについては彼が幼少の時からえらく誉める話を何度も吹き込まれ、如何にシュラムが父親に愛されているかを知るが故にグスタフは今回の件の報告をツィーズに未だ連絡出来ずにいた。
「チキンめ。」
間髪入れずに間を縫うようにバウスナークがそう口ついたが、グスタフは苦笑いに終始した。
「我が一団も含め、あれほどの痛手を被るとは予想外でした。何より、同格のミナホビが深傷を負うとは……ですが、グスタフ様の計らいにより幾つもの生命を救えたのは事実です。感謝しかありません。」
青年の眼差しと屈託のない微笑みにバウスナークもグスタフも心を射られた感覚がしたが、よりグスタフの方が父親を知る分感傷深く感じていた。
「ミナホビ殿は順調に回復なさっておられるので今暫くこの都市で待たれよ。」
バウスナークが神妙に、静かにそう諭すとシュラムも一安心したのか先の曇り程の陰を見せなくなっていたが、同時に足踏みせざる得ない状況に打ちひしがれる。
「それにしても紫黒鎧の戦士か……。」
不意に遠く離れた場を見つめながらバウスナークがそう呟くとグスタフも天井を見上げながら過去を振り返る。
初めてその名を耳にしたのは十年前、大陸暦五七三年頃からしばしば聞こえていたのはバウスナークもグスタフも知るところである。
「実際、その戦士には我々は何度も助けられているんですがね……どれだけ調べても素性が見えてこないんですよ。」
参ったと言わんばかりに咥えていた葉巻をふかしながらグスタフは天井に向かって煙を吐くとバウスナークも諜報部隊の成果がまるで無い事を小さく嘆く。
「実際、都市伝説の存在を目の当たりにして感じたのですが、あの戦士は異常でした。何と言うか……修羅に塗れたような雰囲気を醸し出していたと言うか……。」
「君も耳にしたのは、『悪には死を』……だったか?」
「えぇ、謁見の場でも申し上げました通りあの戦況に身を投じていた皆がしかと聞いておりました。」
【七ツ星級】が束になっても蹴散らされかけた相手を一振りで打ち砕いた様は人外領域から一歩踏み出始めた若人や玄人達の目にすら畏ろしく感じ取れたのだった。
大国屈指の精鋭である武闘派集団である彼等であっても紫黒鎧の戦神ぶりに妥当な形容詞が見当たらないような気さえさせていた。
「あれだけの実力者が素性知れずなんて信じ難いのです。」
★★★
「テル!今日は売れ残ちまったから買ってけ!」
快活な声色が賑やかな市場通りに紛れる形で響くと、テルと呼ばれた男は露店の魚屋に並ぶ商品を立ち止まりつつも品定めをする。
「なんで、この時期の剣魚がこんな値段するんだよっ!ぼったくりにも程があるんじゃないか?」
「それがよぉ……ここ何日も沖合いで不漁続きなもんで相場が爆上がりしてんのよ、んな訳でどうか、我らが出世頭テルギース様!我が一族の助けと思ってここは一肌脱いでくださいな!」
陽気に懇願する店主を不思議そうに見ながらも事の真相を聞くや否やテルギースは冒険者協会に依頼したかと尋ねたが、店主は漁場組合の方で既に冒険者協会と動いているとテルギースに伝えると彼は後で協会の掲示板に目を通す算段を思いついていたが、店主がそんな彼を見て、柔らかな口調で問いかける。
「なぁ……お前はまだ冒険者続けるのか?」
いつも気丈が良い性格の店主が不意に見せた悲しげな雰囲気を察してかテルギースはおどけたように問い返す。
「その問いは漁師に向かって何時まで海に出るつもりなんだと言ってるようなもんだぜ、ケビン。まだまだ働かなきゃならねぇだろ?」
そう返したテルギースの視線は商品棚に陳列されている新鮮な魚に向けられていた。
ゴツゴツした指先で頬を軽く掻く店主ケビンは心なしか、やってしまった、とほんのりとした恥辱を感じつつ無言を貫くと両者の間をほんの少しの沈黙が制した。
「仕方ない……昔の誼だからな。ほれ、これ買うから機嫌治せよ。」
「本気か!?さすが大将だぜ!」
寸前の通夜のような沈黙を掻き消すかのようにテルギースは一際大きな剣魚をケビンに差し出すが、手渡す寸前に引きつけ、しっかりと捌いてくれよと注文をつけた。
お安い御用と言わんばかりにケビンは直ぐ様に真横にある調理台で剣魚を捌き始めた。
「悪かったな……変な気を遣わせて。」
「お互い様だろ。で、義足の調子はどうなんだ?」
「そろそろ買い替えなきゃなとミディアも言ってたからそのつもりだ。最近じゃ魔導保険のお陰で生活には困らなくなったし生きやすく過ごさせて貰ってるさ。」
穏やかな表情で魚を捌きながらケビンは自身の義足に視線を送ってからテルギースに視線を送ると、テルギースと視線が合う。
「ブライトンの奴は元気なのか?」
「ははっ、奴はどんな事が起きてもピンピンしてるからな。ありゃあ首だけになっても笑い続けるもりだぜ。はいよ、剣魚の刺身だ。」
保護羊皮の魔道具に包まれた刺身を受け取るとケビンはテルギースを一服に誘う。
ケビンの露店からほんの少しだけ離れた場には噴水のある憩いの広場があり、休日の昼下がりの時分は人通りが多いが、この日に限っては少なく互いに広場の噴水前にある長椅子に腰を落とした。
「今日も生きてる。」
ケビンの黄昏染みた一言に視線を送らずにテルギースはそうだな、と言って遠くを見渡す。
柔らかな風が二人を撫でるように通り抜けてゆく中、ケビンは妻のミディアや自身の子らの近況を語り、テルギースは笑う。
何気ない会話に没頭するのは楽しい時間だが、いよいよ本題をケビンは言いづらくも切り出した。
「なぁ、テル。俺は……いや、俺だけじゃない、お前さんには幸せになってもらいたいんよ。だから一人で悩むな。辛すぎる。」
「……悩んじゃいないさ。決めた事を貫いているだけだ。」
「……。とてもそうは見えんな。偶に見るお前の顔つきはあの時を思い出せるんだ。ミディアだけじゃない、馴染みの連中は皆これでも心配してんだよ。それだけはどうか忘れてほしくないんだ。」
「……どうした?今日はやけに感傷に浸るじゃないか?……ってそういや、もうそんな時期か……。」
長椅子に座る二人の距離は拳一つも離れていないはずなのだが、互いにその間は遠くかけ離れているように思えた。
「皆に伝えておいてほしい。俺は相変わらず、ほそぼそと泥すすって地べたを這いずり回ってるし、何ら変わっちゃいないから心配するだけ無駄だと。」
「……解った。とは言えねぇがそれが本心なんだろうな、皆には俺から伝える。が、テルお前は変わっちまったよ。変わったんだ、あの日から。」
旧友の一言は重みに溢れていたがテルギースはそれを受け止めては密かに胸の奥にしまう。
「それと、これ。【八ツ星級】昇格の祝いの品だ。喰らえ化物め。」
ケビンはそう言いながらテルギースの懐めがけて魔道袋をふわりと放り投げる。
「ほぅ、ケビンにしちゃえらく気が利くじゃないか。正直、誰からも祝われることは無いと思っちゃいたんだが。」
「何馬鹿な事をほざいてんだか。俺らが如何に本気でテルを想っているか身を以て知りやがれ。」
ケビンから渡された宝飾具は高価な魔道具の中でも希少価値が高い護符として分類される魔道具の首飾りで装飾模様はテルギースがかつて討ち取った悪獣天馬の角をあしらい象られていた。
かつての仲間達と持ち合わせを出し合って手に入れた経緯を知らされるとタリスマンを持つテルギースの手が少しばかり震え、それを見つめる視界は滲んでいた。
そんな彼を見て見ぬふりを続けるケビンは空を眺めながら人は生きてナンボだとボヤく。
そこに貴族も貧民も冒険者も関係無いと言い切りながら――
そして、テルギースは小さく呟く。
もう戻れない、進むしかないんだと。
そう口走るテルギースの鼓動は幾ばくの烈しさを静かに纏っていた――
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
極力サボらず毎日マイペースで少しずつ書き出してますが
一身上の都合により不定期更新となります。
また次話読んで下されば嬉しいです♪
書き溜め… …_φ(・_・




