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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて行く』  作者: カワカン
黒田の台頭 2

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閑話 申し開き

官兵衛は、神妙な顔をして父・職隆の部屋の前に立っていた。

しばらく襖の前で黙っていたが、意を決して声を掛ける。


「父上、よろしいですか?」

「入れ」

「失礼します」


官兵衛が部屋へ入る。

職隆は官兵衛の顔を見ると、すぐに尋ねた。


「姉上のことですか?」

「……はい」

「何か分かったのか?」

「いえ……」


官兵衛は職隆の前に座る。

そして、しばらく口を開けなかった。

職隆が怪訝そうに見る。


「どうした?」


官兵衛は一度、深く息を吸った。


「……その前に、申し上げておかねばならないことがあります」

「何だ?」


官兵衛は俯いたまま、重い口を開く。


「……姉上と、関係を持ってしまいました」


部屋に、沈黙が落ちた。

職隆は、しばらく何も言わなかった。

官兵衛も顔を上げられない。

やがて職隆が口を開く。


「……そうか」

「はい」

「それで、松は出ていったのか?」


官兵衛は少し迷った。


「……おそらく」

「なぜ、そう思う?」

「姉上は……私の子を身ごもって、一人で泥をかぶるつもりで出て行ったのではないかと」


職隆の眉が動く。


「……お前の子か?」

「はい」


職隆は官兵衛をじっと見つめる。

だが、声を荒らげることはなかった。


「そうか……」


少し考え、


「それなら、松が播磨を出た理由としては分からんでもない」


と呟く。

官兵衛は黙って頭を下げた。

職隆はしばらく考えたあと、ふと顔を上げる。


「しかし」

「はい?」

「なぜ、弥八郎まで一緒に出ていった?」


官兵衛は答えられなかった。

職隆は、答えられずにいる官兵衛を見つめた。


「弥八郎は、松に雇われていたのであろう?」

「はい」

「ならば、松がいなくなれば食い扶持もなくなる」

「……そうですね」

「それで松についていったのかもしれんな」


職隆は腕を組む。


「だが、それだけとも限らん」

「松と弥八郎が、もともと何か約束していた可能性もある」


官兵衛の表情がわずかに強張る。


「あるいは、本当に二人で駆け落ちしたのかもしれん」

「……分かりません」

「でなければ、ほかにも松に雇われている者もついていっただろうに なぜか弥八郎のみだ」


官兵衛には、それしか言えなかった。


職隆も頷く。


「そうだな。今のところは、何も分からん」


そして、少し考えてから続ける。


「松が、お前の子を身ごもって出ていった」

「はい」

「それなら、それで理由はつく」


だが、


「弥八郎まで一緒となると、話が変わってくる」


官兵衛は黙って聞いていた。

職隆はため息をつく。


「駆け落ちなのか、お前の子を身ごもったから出ていったのか。それとも別の理由があるのか……」

「……」


「今の話だけでは、判断できんな」


職隆は官兵衛を見る。


「結局、本人に聞かねば分からん」


職隆は、しばらく考え込んでいた。


「……まあ、今ここで考えても仕方がない」

「はい」

「松がどこへ行ったのかも分からんのだ」


職隆は官兵衛を見る。


「ならば、まずは探すことだ」

「承知しました」

「松を見つければよい。弥八郎も一緒におるなら、二人から話を聞けばよい」


官兵衛は頭を下げる。


「はい」


だが、職隆が話を進めようとしたところで、官兵衛は黙り込んだ。


「……」


職隆が怪訝そうに見る。


「どうした?」

「いえ……」


官兵衛は言葉を選ぶ。


「弥八郎には、私からは……何も」

「何?」

「……いえ、何でもありません」


官兵衛には言えない。

職隆は官兵衛の様子を見ながらも、それ以上は追及しなかった。




職隆は、官兵衛の顔をじっと見つめた。


「……まあ、今は考えても仕方がない」

「はい」

「松を探す」


職隆は、はっきりと言った。


「見つけたら、連れ戻せ」

「承知しました」

「なぜ出ていったのかも、弥八郎がなぜ一緒にいるのかも」


職隆は一度言葉を切る。


「本人の口から聞けばよい」


官兵衛は深く頭を下げた。


「……はい」


そして職隆は、もう一つの問題へ目を向ける。


「だが、お前にも罰はある」


官兵衛が顔を上げる。


「……罰、ですか?」

「そうだ」


職隆の声は静かだった。


「姉上とのことを罰するのではない」

「……」

「お前は、もっと早く儂に報告できたはずだ」


官兵衛は黙る。


「知っていながら、一月も黙っていた」

「……申し訳ありません」

「それが問題だ」


職隆は淡々と告げる。


「とりあえず、お前は一月、謹慎しておけ」

「……承知しました」


官兵衛は頭を下げる。

職隆はそれ以上責めなかった。


ただ一言だけ。


「そのあと松を探せ」

「はい」


官兵衛は静かに答えた。



戸が閉じる。

廊下を歩きながら、先ほどの職隆の言葉を思い返す。

一月の謹慎。

それは、姉上とのことへの罰ではない。


報告を怠ったことへの罰だ。

官兵衛は小さく息を吐いた。


「……まずは、姉上を探さねばな」


だが、どこへ行ったのかは分からない。


弥八郎も一緒だ。

そして、父上もまだ真実を知らない。

官兵衛は足を止める。


「……戻ってきたら、全部聞かれるのだろうな」


そう呟いて、また歩き出した。

松がどこにいるのか。


なぜ出ていったのか。

なぜ弥八郎までついていったのか。


その答えを知っているのは

松本人だけだった。



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