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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて行く』  作者: カワカン
黒田の台頭 2

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第四話 政秀 散る

青山。

朝靄の向こうに、幾重もの旗が並んでいた。

赤松政秀率いる兵、およそ二千。


その前方。

黒田勢が陣を構えている。


「……一五〇〇ほどか」


政秀は馬上から、じっと敵陣を見つめた。

その奥には土器山。

そこに小寺の本陣があるようだ。


「小寺も出ておるか」


側近が答える。


「はい。ですが、まだ動きはありません」


政秀は土器山を一瞥した。

小寺が主家として兵を出してくる。

それは分かっている。


だが――


「小寺は、そう恐れることもあるまい」


政秀は正面へ視線を戻した。

問題は黒田だ。


黒田の兵は、自分たちより少ない。


「一五〇〇に対して、こちらは二千」


政秀は静かに呟く。

前回よりこちらの兵は少ない。

それでも、これだけあれば十分だ。


「全力で当てれば……」


政秀は槍を握り直す。


「黒田など、ひとたまりもない」


そして、前方を睨みつけた。


「進め!」


鬨の声が、青山に響き渡った。



政秀軍が動き出す。

二千の兵が、青山から黒田の陣へ向かって進んでいく。


「進め!」


鬨の声が重なり、地面が揺れる。

政秀は馬上から前方を見ていた。

黒田の兵は、こちらの動きを見ても退かない。


「……逃げぬか」


ならば好都合だった。


「そのまま押し潰せ」


政秀の命が伝わる。

龍野の兵が、一斉に速度を上げる。

やがて、両軍がぶつかった。

槍と槍。

怒号と悲鳴。

政秀は後方から戦場を見渡していた。


黒田の兵は少ない。

それでも、思ったほど簡単には崩れない。


「押せ!」

「押し込め!」


兵たちが叫ぶ。

政秀も前方を睨む。


「まだだ」


黒田の陣は、じわじわと押されている。

少なくとも、そう見えた。


「このまま押せば――」


その時。

戦場のどこかから、


**ドンッ!**


という大きな音が響いた。

馬が驚いて嘶く。

政秀が眉をひそめた。


「……何だ、今のは」


だが、戦場は止まらない。

再び兵たちの怒号が響く。

政秀は前を向いた。


「構わぬ」

「押せ!」


二千の兵が、さらに黒田へ食らいついていった。




黒田の陣は、まだ崩れない。

政秀は馬上から戦場を見つめていた。


「……意外と粘るな」


数ではこちらが上。

それでも黒田の兵は、押されながらも陣を崩さない。


「押せ!」


政秀が声を飛ばす。


「さらに押し込め!」


龍野の兵が前へ出る。

黒田の兵が下がる。

だが、完全には崩れない。


「まだだ!」


政秀は苛立ちを覚えながらも、勝敗そのものを疑ってはいなかった。

このまま押し続ければいい。

二千の兵を、惜しみなくぶつける。

そうすれば、いずれ黒田は耐えられなくなる。


その時だった。

また、


**ドンッ!**


遠くで爆発音が響いた。

政秀が顔を上げる。


「……またか」


一体、何をしている。

黒田の陣から聞こえてくるようにも思える。

だが、正面の戦線は動いている。

政秀は気に留めなかった。


「黒田を押し潰せ!」


兵たちの声が響く。


「押せぇ!」

「進め!」


戦場はさらに激しくなる。


しかし――


政秀は、ふと違和感を覚えた。


「……おかしい」


黒田は、確かに押されている。


だが、崩れない。


一五〇〇しかいないはずの兵が、まるでこちらの攻撃を受け止めることを最初から知っていたかのように、一定のところで踏みとどまっている。


「なぜだ……」


その時。

遠くから、一人の兵がこちらへ駆けてきた。


「政秀様!」


政秀が振り向く。


「何事だ」


兵は息を切らしながら、必死に声を絞り出した。


「南の山の抑えの兵が突破されました!」

「何だと?」


政秀は思わず聞き返した。


「敵兵、およそ一三〇〇!」

「一三〇〇……だと?」


その数を聞いた瞬間、政秀の顔が強張った。

正面にいる黒田軍は、およそ一五〇〇。


ならば――


「どこから、それだけの兵が……」


言葉が終わるより早く、


「敵襲!」


別の兵が叫んだ。


「本陣です!」


政秀が振り返る


南から黒田の旗が迫ってくる。


「なっ――」


黒田の別動隊が、本陣へなだれ込んできた。

周囲の兵が慌てて槍を構える。

だが、あまりにも突然だった。


「政秀様をお守りせよ!」

「敵を止めろ!」


怒号が飛び交う。

その中を、一人の武者が駆けてくる。


「我は黒田家臣、井上之正!」


大音声が戦場に響いた。


「赤松政秀殿とお見受けいたす!」


政秀は刀へ手を掛けた。

だが、すでに周囲には黒田の兵。


逃げ道はない。

井上が槍を構える。


「お命、頂戴いたす!」


一瞬だった。

政秀の身体が、ぐらりと揺れる。


そして――


地へと崩れ落ちた。


「政秀様!」


誰かの叫び声。

井上は政秀の首を取り上げる。

そして高々と掲げた。


「――討ち取ったり!」


その声が、戦場へ響き渡った。

政秀の兵たちが、一斉に振り返った。


「政秀様が……殿が討たれたぞ!」


動揺が、瞬く間に広がっていく。


だが――

一人の男が、井上の掲げた首を見て叫んだ。


「殿の首を渡すな!」

「取り返せ!」


別の者も叫ぶ。


「政秀様の首を取り返せぇ!」

「殿を敵に渡すな!」


逃げかけていた兵たちが、今度は黒田へ向かって走り出した。

井上が首を抱える。


「来るぞ!」

「首を守れ!」


黒田の兵が周囲を固める。

そこへ、元政秀家臣たちが殺到した。

槍が交わる。

刀がぶつかる。


「殿を返せ!」

「邪魔をするな!」

「取り返せぇ!」


もはや勝敗など関係なかった。

彼らが求めているのは、ただ一つ。


主君の首。


しかし黒田兵も退かない。


「渡すな!」

「一人たりとも近づけるな!」


激しい乱戦の中、元政秀家臣たちは次々と討たれ、ある者は傷を負いながらもなお前へ進む。


やがて――

その勢いも途切れた。

青山の戦場に、静けさが戻っていく。

龍野軍は崩れ、兵たちは散り散りに逃げていく。


その中で、黒田の兵が政秀の首を守っていた。

誰も、それを奪うことはできなかった。


こうして――


赤松政秀の戦は終わった。


そして青山には、黒田の勝鬨だけが響いていた。


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