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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて行く』  作者: カワカン
黒田の台頭 1

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閑話 変な浪人2

十数日後

松は、あの浪人を呼び出していた。


「意外とはようございましたな」

「何がでしょう?」

「あなたが知恵のある者だということは、分かりました」


浪人は少し得意げに頭を下げる。


「それはありがたいことで」


「だから、今日は呼んだの」


松は帳面を手にしている。


「……ただね」

「はい」

「いつもより、卵が少ないのよ」

「……」


浪人は、少しだけ目を逸らした。


「鶏は、元気でございます」

「そういう話をしているのではないのよ」


松は帳面を指で叩く。


「餌も変わっていない。鶏の数も変わっていない」

「それなのに、卵だけが減っている」

「……よく見ておられますな」

「毎日見ているもの」


松は浪人をじっと見る。


「卵で、何を仕入れているのかしら?」


浪人は、しばらく黙っていた。

やがて観念したように息を吐く。


「……播磨の情勢でございます」

「やっぱり」

「卵を少々、浮浪者などに渡しましてな」

「その代わりに、世間話を聞いていた?」

「左様です」


浪人は苦笑した。


「米の値、街道の様子、人の出入り……そういった話を」

「でしょうね」


松は、さほど驚いた様子もなく頷いた。


「それで、いろいろ分かったでしょう?」

「ええ。なかなか面白い話が集まりました」

「そう」


松は少し笑う。


「でも――」


浪人を見る。


「あなたが卵を渡していた浮浪者ね」

「はい」

「あれ、私の目よ」

「……」


浪人の顔が止まった。


「私が播磨の様子を見るために置いている者」

「……は?」

「あなた、知らないうちに私の情報網を使っていたのよ」


浪人はしばらく言葉を失っていた。


「つまり……」

「ええ」

「某が卵で買っていた情報は――」

「私のところにも入ってくる情報よ」


浪人は、ゆっくりと頭を抱えた。


「これは姫様……」


そして苦笑する。


「一本取られました」


浪人は苦笑した。


「すべて、姫様の手の上でしたか」

「ふふふ」


松は楽しそうに笑う。


「鶏の世話は、もういいわ」

「おお、それはありがたい」

「あなたが知恵のあり 素直に認めれる人だということは分かりましたから」


浪人は少し姿勢を正した。


「では、何か仕事を?」

「ええ」


松は浪人を見る。


「今の播磨の状況を、あなたはどう見ているの?」


浪人は、少し考えた。

そして、今度は軽口を挟まずに答えた。


「はい」

「某は、黒田はおかしな戦を続けていると思います」

「そう見えるのね。あなたには」

「はい」


浪人は頷いた。


「ですが――悪い戦ではないと思います」

「ほう?」

「むしろ、敵の力を少しずつ削いでいる」

「大軍をぶつけず、砦を抑え、補給を邪魔し、山を使って敵に兵を使わせる」


浪人は地図を思い浮かべるように話す。


「ただ――」


一度、言葉を切った。


「姫様がいなければ、成り立たない戦をしていると思います」


松は黙っていた。

しばらくして、ふっと笑う。


「短期間によくここまで理解したわね」

「卵を使って、いろいろ聞きましたからな」

「なるほど」


松は腕を組む。


「でも――あなたを政務につけるわけにはいかないし」

「……」

「力仕事は嫌」

「はい」

「戦働きも嫌」

「それも、まあ……」

「播磨の人脈は、私のほうがある」

「……」


松はため息をついた。


「知恵はある。情勢も見られる」

「はい」

「でも、使う場所がないのよね」


浪人は黙った。


「せっかく使えるかもと思ったのに……」


松は少し考えてから、


「うちの席は、もう埋まってるのよね」

「……」

「あなた、いる意味ある?」

「姫様……」


浪人は困ったように笑った。


「そこまで言われますか」

「だって、本当のことでしょう?」


しばしの沈黙。

やがて松は、小さく息を吐いた。


「はぁ……」

「官兵衛の話し相手にしかならなくない? あなた」

「……それなら、それで」


浪人は苦笑した。


「某、話すのは嫌いではありませんので」


松は呆れたように笑った。


「……変な人」





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