第九話 飾磨の米
御着。
職隆は、政職の前に座っていた。
「殿、一つお願いがございます」
「なんだ?」
「飾磨の港で、米の買い付けを増やしていただけませぬか」
政職は、少し意外そうな顔をする。
「米を?」
「はい」
「松が買うと言っておるのか?」
「左様です」
政職は職隆を見る。
「……松は、米に困っておるのか?」
「いえ」
職隆は首を横に振った。
「松が困っているのは、鉄でございます」
「鉄?」
「はい。宍粟の国衆から鉄を仕入れる代わりに、米を渡すようで」
政職は少し考える。
「なるほど」
「そのための米を、飾磨の港から買い付けたいとのことです」
「瀬戸内から運ばせるのか」
「左様です」
職隆は頷いた。
「飾磨なら、海から米を入れられますゆえ」
政職は、ようやく話を理解したように頷いた。
「なるほど」
政職は、しばらく考えていた。
「鉄を買うために、米を集めるか」
「はい」
「宍粟の者たちは、米を欲しておるのだな」
「そのようでございます」
政職は顎に手を当てる。
「……不満と恩か」
職隆が顔を上げる。
「殿?」
「政秀の徴収に不満を持っている者へ、松が米を渡す」
政職は小さく笑った。
「その代わりに鉄を買う」
そして、ぽつりと。
「宍粟は、こちらにつくかもしれんな」
職隆は黙った。
政職は、面白そうに笑う。
「ふふふ……松もしたたかな者だ」
「物資を集めているだけのつもりであろうが――」
政職は職隆を見る。
「人の心まで動かしておる」
職隆は苦笑した。
「松には困ったものです」
「何がだ?」
「物資の調達を任せたら、調略に近いことをしているとは」
政職は、ふっと笑った。
「まあ、よい」
そして少し考える。
「多少はこちらでも持ってやろう」
職隆が顔を上げた。
「よろしいので?」
「構わぬ」
政職は笑う。
「松には湯殿を作ってもらうことになっているからな」
「それに、宍粟の者がこちらへ傾くというのなら、悪い話でもあるまい」
職隆は頭を下げた。
「ありがとうございます」
「わかった。そのようにしておこう」
後日。
宍粟の国衆のもとへ、知らせが届いた。
「小寺からも、米を出していただけるそうです」
「……小寺からも?」
「はい」
国衆は思わず聞き返した。
「本当ですか?」
「殿より、そう仰せつかっております」
国衆は、しばらく黙っていた。
松姫からは、
「そこまで多くないから、気をつけてね」
と言われていた。
それでも、小寺からも米が回ってくる。
さらに使者が続けた。
「殿から、これからも小寺をよしなに、とのことでございます」
「……」
国衆は深く頭を下げた。
「ありがたきお言葉」
使者が去ったあと、国衆は一人、米の入った蔵を見る。
政秀の徴収。
領民の飢え。
そして――松から示された、別の道。
政秀に従わなくてもいい。
その選択肢に、今度は小寺まで加わった。
「……これは、考えねばならんな」
国衆は、静かに呟いた。




