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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて行く』  作者: カワカン
黒田の台頭 1

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第三話 鉄の調達

評定から数日。

松は机に広げた帳面を眺めていた。

兵を動かす。砦を整える。武具を揃える。米も要る。銭も要る。

そこまでは、なんとかなる。


だが――。


「……鉄が足りない」


松は小さく息を吐いた。

鉄は、いくらあっても困らない。

武器を作るにもいる。農具を作るにもいる。普請にもいる。

これから黒田が兵を増やしていくなら、なおさらだ。


「引き受けたはいいけど……」


松は帳面を閉じた。


「鉄の調達だけは、どうにもならないわね」


そのとき、廊下から声がした。


「姫様。宇野頼家殿がお見えです」

「……頼家?」


松は顔を上げた。


「通して」


ほどなくして、宇野頼家が部屋へ入ってくる。


「失礼いたします、姫様」

「ええ。どうしたの?」

「普請の進捗をご報告に」


頼家が書付を差し出す。

松はそれを受け取り、目を通した。


「……うん」


数字を確認する。


「いい感じね」

「ありがとうございます」


頼家が頭を下げる。

松は書付を机へ置いた。

だが、その視線は再び帳面へ落ちた。


「…………」


頼家はそんな松の様子を、黙って見ていた。


「姫様は、何かお悩みですかな?」

「え?」


松は顔を上げる。


「……そんなに分かりやすかった?」

「少々」

「そう」


松は苦笑した。


「ちょっとね。鉄の調達に手こずっているの」

「鉄でございますか」

「ええ」


松は再び帳面を開く。


「米や銭なら、どうにかなるのよ。必要なだけ買えばいいもの」

「ですが、鉄は?」

「そう。鉄はそう簡単にはいかない」


松は指で帳面を叩いた。


「これから兵を動かすなら、武具も要る。普請にも使う。農具だって必要になる」

「はい」

「しかも戦をするなら、こちらだけが欲しがっているわけじゃないでしょう?」

「……確かに」

「敵に回っているところから買うわけにもいかないし」


松はため息をついた。


「どこかに、まとまった鉄があればいいんだけど」


すると頼家が、少し考えるように目を伏せた。


「……それがしに、つてがございます」

「つて?」

「はい」


頼家は松を見る。


「**鉄が取れているところがございます**」


松の表情が変わった。


「……どこ?」

「ただ――」

「ただ?」

「その地は今、食うに困っております」


松は眉を寄せた。


「鉄は取れるのに?」

「はい」

「それは、どういうこと?」


頼家は少し考えてから答えた。


「鉄を採取することはできます」

「なら、問題ないじゃない」

「いえ」


頼家は首を横に振る。


「その地は、先の戦で兵も人手も取られております」

「……」

「さらに米や銭まで求められておりますゆえ」


松は黙って聞いていた。


「鉄を採取することに人手を回せば、食うものを作る者が足りなくなる」

「かといって、畑へ人を戻せば鉄が掘れぬ」

「そういうことでございます」


松は帳面に目を落とした。


鉄はある。

人もいる。

だが、その人たちには食べるものが必要だ。


「……なら」


松が顔を上げる。


「ほかの土地から米を買って、そこへ送ればいいんじゃない?」

「米を?」

「ええ」


松は続ける。


「向こうは鉄を持っている。でも、米が足りない」

「こちらは米を買える」

「なら、米と鉄を交換できないかしら」


頼家は少し驚いた顔をした。

だが、すぐに頷く。


「それがしにお申し付けいただければ、鉄を売っていただけると思います」

「本当?」

「はい」

「それなら――」


松の顔が明るくなる。


「鉄の問題は解決ね」


しかし頼家は、まだ何か言いたげだった。


「……姫様」

「なに?」

「一つ、問題がございます」

「まだあるの?」

「はい」


頼家は苦笑した。


「**鉄は取れますが、製鉄まで手が回るとは思えません**」


松は目を瞬かせた。


「……ああ」


そして、ようやく意味を理解する。


「取ることに人手を集中させれば、姫様のご希望の鉄は用意できます」


頼家は続けた。


「ですが、そこから鉄を作るとなれば、また人手が必要になります」

「なるほど」


松は腕を組んだ。


「取る人と、鉄を作る人を同じところで用意しようとするから足りなくなるのね」

「その通りにございます」


頼家は頷いた。


「ですから、向こうでは鉄を掘ることだけに人手を使わせるのがよろしいかと」

「掘ることだけ?」

「はい」

「鉄を取る」

「そして、こちらへ運ぶ」


松は地図へ目を落とした。


「製鉄は……こちらでやる」

「はい」

「なるほど」


松は少し考える。

向こうで鉄を取る。

そのために米を渡す。

そして取り出した鉄をこちらへ運ぶ。

製鉄に必要な人手は、黒田側で用意する。


「そうすれば、向こうの人たちは採取に集中できる」

「はい」

「こちらも、鉄を手に入れられる」

「左様にございます」


松は頷いた。


「なら、そうしましょう」


頼家が顔を上げる。


「よろしいので?」

「ええ」


松はあっさりと言った。


「**鉄を取るところと、鉄を作るところを同じにする必要なんてないもの**」

「向こうには米を渡す」

「こちらには鉄を運んでもらう」

「そして――」


松は帳面へ手を伸ばした。


> **「製鉄できるように、こちらで手配するわ」**


頼家は静かに頭を下げた。


「承知いたしました」


松は新しい紙を取り出す。


「まずは炉を作れる者ね」

「それから炭」

「運ぶ道も必要か……」


一つ片付いたと思った問題が、またいくつにも分かれていく。

松は紙に次々と書き込んでいった。


「……鉄って、手に入れるだけでも大変なのね」


頼家は苦笑した。


「戦をするというのは、そういうことでございましょう」


松はその言葉に、ふと手を止めた。

そして、もう一度帳面を見る。


「……本当に、戦って大変ね」


小さく呟いた。


松は書き終えた紙を眺めた。


「……やることが増えたわね」

「申し訳ございません」

「頼家が謝ることじゃないでしょう」


松は苦笑する。


「鉄があるのに、作れない。それなら作れるようにすればいいだけよ」


そう言って、紙を頼家へ差し出した。


「まずは、鉄を取る場所と量を確認して」

「承知いたしました」

「それと、向こうへ渡す米の手配もするわ」

「はい」

「鉄鉱石が届いたら、こちらで製鉄する」


松はそこで少し考えた。


「……製鉄できる者、探さないとね」

「それがしのほうでも探してみましょう」

「お願い」


頼家が頭を下げる。


「では、失礼いたします」

「ええ」


頼家が部屋を出ていく。

一人になった松は、もう一度帳面を開いた。


戦をする。

そのために兵がいる。

兵を動かすために米がいる。

武器を作るために鉄がいる。

鉄を得るためには、米がいる。

鉄を作るには、人がいる。


「……」


松はしばらく黙っていた。

そして、小さく呟く。


> **「戦って……本当に、お金がかかるのね」**


机の上には、先ほどまでなかった新しい仕事がいくつも並んでいた。

松は筆を取り直す。


「……まあ、やるしかないか」


そしてまた、帳面に文字を書き始めた。



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