第一話 廣峯への約束
1564年1月中旬 姫路にて。
松は、廣峯の善右衛門と向かい合っていた。
「昨日は、私のような者にまで評定の席を設けていただき、ありがたく存じます」
善右衛門は深く頭を下げる。
本来なら、黒田の評定に加われるような身分ではない。
だが昨日は、黒田の配慮によって、特別に席が設けられていた。
「黒田の御心は……痛いほど、分かりました」
松は静かに頷く。
「黒田は、廣峯、おたつ殿の献身を忘れませぬ」
「……」
「何年かかろうとも、雪ぐつもりです」
松は善右衛門をまっすぐ見た。
「いましばし、黒田に変わらぬ忠義をお願い申し上げます」
善右衛門は、しばらく黙っていた。
そして、ふと松へ尋ねる。
「おたつは……姫路で、どのように過ごしておりましたか?」
松は少し考えてから答える。
「短い期間でしたが――」
「黒田の娘として、日々努め過ごしておりました」
善右衛門は目を伏せる。
「……左様でございましたか」
松は頷く。
「おたつ殿が黒田のために尽くされたことも、廣峯が黒田を支えてくださったことも、決して忘れません」
「はい」
「ですから――」
松は静かに善右衛門を見る。
「もうしばし、お待ちくださいませ」
善右衛門は深く頭を下げた。
「承知いたしました」
「廣峯は、変わらず黒田に忠義を尽くしましょう」
松は、その言葉を静かに受け止めた。
善右衛門は、深く頭を下げた。
「……承知いたしました」
松は静かに頷く。
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
善右衛門は顔を上げる。
「おたつは、よき姉をもったものです」
松は少し目を伏せた。
「……そうでしょうか」
「はい」
善右衛門は微笑む。
「おたつが黒田の娘として過ごせたのも、松姫様がおられたからでしょう」
松は答えず、ただ小さく頷いた。
「廣峯は、変わらず黒田に忠義を尽くします」
その言葉を聞き、松は静かに頭を下げた。
「……よろしくお願いいたします」




