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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて行く』  作者: カワカン
弱い黒田

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SS 御着の湯殿

御着の屋敷。

数人の家臣が、廊下の端で話をしていた。


「そういえば、最近、松様をよく見かけるな」

「ああ。以前より、御着へ出入りされるようになった」

「何をしに来られているのだ?」

「さあな」


一人が、声を少し落とす。


「だが、殿がよく相談をしておられるそうだぞ」

「殿が?」

「ああ」

「黒田の姫様に?」

「そうらしい」


別の者が首を傾げる。


「それだけではないぞ」

「まだあるのか?」

「殿は、よく砥堀にも行っておられるそうだ」

「……砥堀?」

「ああ。松姫様がおられるところだ」

「殿が自ら?」

「ああ」


家臣たちは顔を見合わせた。


「いったい、何を相談しておられるのやら」


そのときだった。


「ほれ」

「ん?」


一人が廊下の先を指差す。


「噂をすれば、なんとやらだ」


そこには、こちらへ歩いてくる松の姿があった。


「……松姫様じゃ」

「本当に来られたぞ」


松は、そんな視線など気にする様子もなく、いつものように御着の屋敷を歩いていった。

松は、そのまま政職のいる部屋へ通された。


「今日は何用で私をお呼びになったのです?」


松が腰を下ろすと、政職は少し言いにくそうに口を開いた。


「いや……嫁をもろたんだがな」

「はい」

「数年前に、嫁をな」

「ええ、存じております」


政職は少し間を置いた。


「まあ……身体が、あまり強くはなくての」

「なるほど」

「どうにも、あまり具合がよくないようでな」


松は政職を見る。


「どのような?」

「触ると、手が冷たいのじゃ」

「手が?」

「足も冷たい」


松は少し考えた。


「よくある女の病に、手足が冷たいというのがあります」

「それかもしれん」


政職は頷いた。


「それで、どうすればよい?」

「まずは、温めておやりになるのがよろしいかと」

「温める……」


政職は腕を組んだ。

そして、ふと思い出したように松を見る。


「そういえば、」

「はい?」

「松のところでは、湯に入っておるな」

「ええ。湯殿があります」

「それがよいな」


政職は頷いた。


「あっためるとなると、湯がよい」

「そうですね。身体を温めるのであれば、よいかと思います」


政職は少し考える。


「……どうにかできんか?」

「何をです?」

「御着にも湯殿を作ってくれんか」


松は少し考えた。


「まあ、作ることは可能かと思いますが」

「そうか」

「ただ、」


松は政職を見る。


「湯を沸かすとなると、薪が意外と食いますよ」

「薪が?」

「毎日使うのでしょう?」

「うむ」

「それなりの量になります」


政職は少し考えた。

そして、あっさりと言った。


「それぐらい、小寺からしたら微々たるもんだ」

「……そうですか」


松は少しだけ考える。


「では、作りましょうか」

「頼む」

「どこに?」


政職は答える。


「二の丸にでも作ってくれんか」

「二の丸ですか?」

「うむ。あそこなら嫁も移動が少なかろう」


松は少し考える。


「まあ、作ることは可能かと思いますが……」

「何かあるのか?」

「湯殿にするなら、湯を沸かす場所も必要ですし、水も運ばねばなりません」

「うむ」

「それに、薪も毎日のように必要になります」

「それくらい、小寺からしたら微々たるものだ」

「……そうでしたね」


松は少しだけ苦笑した。


「では、二の丸に作りましょう」

「頼む」

「分かりました」


松は立ち上がる。


「では、職人を手配しておきます」

「うむ」


部屋を出ようとした松が、ふと振り返った。


「奥方様には、まず身体を冷やさぬようにお伝えください」

「分かった」

「湯殿ができるまでは、できる範囲で温めておくとよいでしょう」

「あい分かった」


松は今度こそ部屋を出ていった。

政職は、その背中を見送りながら呟く。


「……何でもできる娘だな」


そして翌日。


御着の二の丸では、さっそく湯殿を作るための場所が測られ始めていた。


翌日。

御着の二の丸では、さっそく湯殿を作るための準備が始まっていた。

材木を運ぶ者。

場所を測る者。

水をどう引くか相談する者。

その様子を、家臣たちが遠巻きに眺めている。


「……本当に作るのか」

「ああ」

「何のために?」

「奥方様のお身体を温めるためだそうだ」


家臣たちは顔を見合わせる。

そして、少し離れたところを歩いていく松を見る。


「また松姫様だ」

「殿も、随分と頼られるようになったものだ」

「しかし、まさか湯殿まで作るとはな」


その頃、松は職人に指示を出していた。


「大きくなくていいわ。湯を沸かす場所と、湯を溜める場所があればいいから」

「承知しました」

「薪を運びやすいようにしておいて。毎日使うものだから」

「はい」


松は頷く。

そして、ふと二の丸の奥を見る。


「……これで少しでも身体が楽になればいいけど」


その頃、政職は妻のもとへ向かっていた。


「もうすぐ、湯殿ができるそうだ」

「まあ……」

「松姫に頼んだ」


妻は少し驚いたように夫を見る。


「また、松姫様に?」


政職は苦笑する。


「うむ」


そして、ぽつり。


「……あの娘に聞けば、何とかなる気がしてな」


御着では今日も、松の姿が見られる。

そしてそのたびに、一つずつ何かが変わっていく。


最近、御着へよく来る松。


その噂は、また少し広がっていった。






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