SS 青山・広畑の在地の衆
小寺家の評定の間。
幾人もの家臣が集まり、播磨の地図を囲んでいた。
職隆も、その一人として地図を見つめている。
ここしばらく、政秀との戦が続いていた。
一度ではない。
二度。
大きく兵をぶつけている。
職隆は地図の上へ目を落とした。
「……政秀との戦も、すでに二度、大きくぶつかりました」
評定の場に、静かな空気が流れる。
職隆は地図の一点へ指を置く。
「このままいけば――」
指が、山間から青山、そして広畑へと動く。
「また、この辺りが決戦の場となるのは明白です」
何人かの家臣が、地図へ目を向けた。
職隆は、そのまま黙って地図を見つめていた。
職隆の言葉に、評定の間が静かになった。
誰も反論しない。
これまで二度、大きく兵をぶつけた。
ならば次も、この周辺が戦場になる可能性は高い。
職隆は地図から顔を上げた。
「なればこそ、今のうちに手を打っておくべきかと」
「手を打つ?」
「はい」
職隆は地図の上へ指を置いた。
「**あの地の在地衆を、まとめる必要があると思います**」
家臣の一人が首を傾げる。
「在地衆を?」
「ええ」
職隆は頷いた。
「あの者たちは、あの土地を知っております」
「道も、山も、村の様子も」
「我らが兵を出してから調べるより、あらかじめ彼らをこちら側へまとめておいたほうが、戦になったときに動かしやすい」
別の家臣が口を挟む。
「しかし、高岡があるではないか」
職隆はすぐに答えた。
「高岡だけでは足りぬ、という話ではございません」
そして、高岡へ目を向ける。
「高岡は砦へ物資を入れる中継となっております」
「兵糧や武具など、必要なものを運び入れられる」
職隆は静かに言った。
> **「高岡は、物で砦を支えることができます」**
そして、青山、広畑へと指を移した。
「ですが――」
「こちらは、別の支え方ができるはずです」
職隆は、青山から広畑へと指を動かした。
「この地には、そこに根を張る者たちがおります」
「在地の者たちか」
「はい」
職隆は頷いた。
「道を知り、山を知り、村々の様子を知っている。敵がどこから来るかも、どこを通れば兵を動かせるかも、我らより詳しいでしょう」
「なるほど……」
職隆は、さらに地図上の砦へ目を移す。
「砦そのものを増やす必要はありません」
「大事なのは、そこを支える者たちです」
「高岡から物資を運び入れる」
「そして青山、広畑の在地の者が、それぞれの砦を支える」
職隆は、砦と砦の間を指でなぞった。
「兵を出すだけではありません。敵の動きを知らせ、道を伝え、必要とあれば近くの砦へ人を回す」
そして静かに言う。
> **「高岡が物で砦を支えるなら、青山と広畑は、人で砦を支えるのです」**
評定の者たちが、地図を見直す。
これまで点でしか見ていなかった砦が、少しずつ繋がって見え始めていた。
「……なるほど」
評定の間にいた者たちも、職隆の意図を理解し始めていた。
職隆は地図から顔を上げる。
「ですが、これには一つ問題がございます」
「なんだ?」
「在地衆をまとめる者が必要です」
その言葉に、皆が黙った。
それぞれの土地に、それぞれの有力者がいる。
彼らを一つにまとめ、砦同士を繋ぐ。
ただ命じるだけではまとまらない。
職隆は地図を見ながら続ける。
「戦になってから、あの者たちを集めるのでは遅いでしょう」
「今のうちから話を通し、誰がどの砦を支えるのかを決めておく必要があります」
「……誰に任せる?」
職隆は少しも迷わなかった。
「黒田にお任せいただきたい」
評定の間に、少しざわめきが起こる。
職隆は続ける。
「高岡も、すでに黒田が預かっております」
「高岡から物を運び、青山、広畑の在地衆をまとめる」
「それぞれを繋げれば――」
職隆は、地図の上を指でなぞった。
> **「この地一帯を、ひとつの防御の網として機能させることができると思います」**
しばしの沈黙。
やがて、小寺が口を開いた。
「……よかろう」
職隆が頭を下げる。
「ありがたきことにございます」
「その役目、黒田に任せる」
「はっ」
職隆はもう一度、深く頭を下げた。
評定が終わり、職隆は地図を見つめる。
高岡、青山、広畑。
これまで別々に存在していた土地が、これから一つの線で結ばれていく。
**次の戦が来る前に――。**
黒田は、この地の人をまとめ始めることになった。
評定を終え、職隆は一人、廊下へ出た。
頭の中には、先ほどの地図が残っている。
高岡、青山、広畑。
そして、その周囲にある砦。
これまでは、それぞれが別々に守っていた。
だが、これからは違う。
高岡から物が届く。
青山と広畑から人が動く。
砦同士が互いに支え合えば、敵も容易には踏み込めなくなる。
職隆は静かに息を吐いた。
「……黒田も、忙しくなるな」
だが、不思議と嫌ではなかった。
むしろ――。
**次に政秀が動く前に、こちらが先に動けばいい。**




