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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
弱い黒田

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第6話 赤松政秀、動く

「赤松政秀が動きました」


その報せが届いたのは、おたつを送り出した日の昼だった。

松は手にしていた文を置いた。


「……政秀が?」

「はい」


職隆も眉を寄せる。


「どこからの報せだ」

「龍野からです。すでに砥堀の宇兵衛殿、高岡の源蔵殿にも知らせが届いております」

「二人は?」

「すでに兵を集め始めております。ただ、指揮を待つとのことです」


職隆は頷いた。


「そうか」


その場にいた官兵衛が口を開く。


「ならば、高岡へ参ります」


職隆が官兵衛を見る。


「源蔵殿が集めた兵を受け取り、領境まで出るつもりです」

「うむ」


職隆は続ける。


「砥堀は休夢に任せる」

「分かった」

「宇兵衛が集めた兵を率いてくれ」


休夢が頷く。


「任せておけ」


職隆は一度、松を見る。


「わしは姫路で。こちらでも兵を集める」


そして、


「御着へ早馬を出せ。政秀が動いたとな」

「承知しました」


それぞれの役目が決まっていく。

官兵衛は高岡。

休夢は砥堀。

職隆は姫路で。


そして松は――。


「私は砥堀へ戻ります」


職隆が見る。


「何をする?」

「高岡に救護所を設けます」

「戦になってから準備していては間に合いません」

「砥堀から必要な物資と人を集めて、高岡へ送ります」


職隆は少し考えた。


「分かった」


松は立ち上がる。


「では、すぐに取りかかります」


戦になるかもしれない。


だからこそ――。


**戦が始まる前に、戦の後を用意しておく。**


松は砥堀へ戻るため、すぐに人を呼び始めた。



砥堀へ戻った松は、屋敷へ入るなり女中たちを呼び集めた。


「これから高岡へ物を運びます」


集まった者たちが顔を見合わせる。


「高岡へ、でございますか?」

「はい。救護所を設けます」


女中の一人がすぐに頷く。


「はい。いつもの救護所でよろしいですね」

「ええ。今回も高岡です。」

「承知しました」


高岡へ向かう人員を選ぶ者。

松はその一つ一つを確認していく。

その様子を、休夢が少し離れたところから見ていた。


「……松」

「はい?」

「ずいぶん手際がよいな」

「戦になってから考えていたら、間に合いませんから」


松はそう答えた。

そして、ふと手を止める。


「お養父様」

「なんじゃ?」

「高岡には、官兵衛がいます」

「うむ」

「だからこそ、こちらで準備しておかなければなりません」


休夢は黙って松を見る。

松は再び人々へ指示を出し始めた。

その顔には、先ほどまでの不安はなかった。

ただ、自分にできることを一つずつ片付けている。

やがて、屋敷の前に荷が積み上げられていく。

そして松は、その荷を確認しながら呟いた。


「これでたいるでしょうか」


休夢が答える。


「足りなければ、また送ればよい」

「私は 官兵衛のところに先に行く 後はまかせた。」


松は頷いた。


「そうですね」


夕方ごろ

屋敷の外から、馬の蹄の音が響いた。


**ぱかっ、ぱかっ、ぱかっ――。**


松が顔を上げる。

高岡からの伝令だった。

屋敷の外から響いた馬の蹄が止まった。


「松姫様!」


駆け込んできた伝令に、松が振り向く。


「高岡からですか?」

「はい!」


伝令は息を整えながら頭を下げた。


「官兵衛様と休夢様が、すでに領境へ兵を進めております」

「そうですか」


松は頷く。


「兵は?」

「源蔵殿が集めた者たちを合わせ、すでに陣を整えております」

「分かりました」


松は安心するでもなく、すぐに次を尋ねた。


「政秀方は?」

「南に進路を取っています」

「そう……」

松は安心するでもなく、すぐに次を尋ねた。


松は少し考える。


「官兵衛様は?」

「すでに南へ進路を取り、政秀を追っております」

「……そうですか」


松は小さく息を吐いた。


「ならば、私たちは高岡へ送るものを急ぎましょう」


伝令が再び頭を下げる。

そして馬へ戻っていった。

松は、その背中を見送る。


松は屋敷の中へ視線を戻す。


そこでは、まだ人々が高岡へ送る物資をまとめている。



一方、高岡。


源蔵が集めた兵を前に、官兵衛は領境を見つめていた。

兵たちは緊張した面持ちで立っている。

まだ敵の姿はない。

しかし、戦が始まる可能性は誰もが理解していた。


遠くから聞こえていた馬蹄の音が、次第に近づいてくる。

官兵衛は領境から目を離さない。

やがて一頭の馬が、領境の陣へ駆け込んできた。


「官兵衛様!」

「何だ?」

「龍野に入ってる者からの知らせです!」


官兵衛が振り返る。

伝令は、息を整えながら告げた。


「政秀方の兵が、南へ向かっているとのことです」


官兵衛の目が細くなる。


「南……」


隣にいた休夢も地図へ目を落とした。

官兵衛は一瞬だけ考えた。

そして、すぐに口を開く。


「室津だ」


休夢が顔を上げる。


「室津だと?」

「今日、浦上の婚礼が行われているぞ」


官兵衛は地図を指でなぞった。


「今朝、おたつを送り出したばかりだ」


その言葉に、休夢も状況を理解する。


浦上の婚礼。

そこへ向かって政秀方が南へ進んでいる。


「政秀が室津を狙っているなら――」


官兵衛は立ち上がった。


「追わなければならない」


休夢が官兵衛を見る。


「まだ、室津へ向かっていると決まったわけではないぞ」

「分かっています」


官兵衛は即答した。


「ですが、外れていたとしても追いつけば分かる」


そして、


「もし本当に室津なら、ここで待っている時間が惜しい」


官兵衛は兵へ向き直る。


「高岡に留まる兵を残す」


源蔵が頭を下げる。


「承知しました」

「残りは私についてこい」


兵たちが動き始める。

馬が引かれ、槍が整えられる。

官兵衛は最後に伝令を見る。


「姉上に私は南に向かうと 伝えてくれ」


「分かりました。」


官兵衛は馬へ乗る。


「では――」


一度だけ、領境の陣を振り返る。


そして、


> 「南へ向かうぞ!」


兵が動き出した。

領境の陣を離れ、南へ。


その先にあるのは――室津。


そこでは今まさに、おたつが浦上の娘として迎えられようとしている。


そして同じ頃。

砥堀では、松のもとへ新たな知らせが届こうとしていた。



砥堀。

高岡へ送る荷物の確認を終えた松は、庭先に立っていた。


そして、それらを運ぶ人足。

次々と荷がまとめられていく。


「こちらは高岡へ」


松は一つ一つ確認していく。

そのときだった。


「姫様!」


再び、馬の音が聞こえた。

松が振り返る。

駆けてきたのは、高岡から戻った伝令だった。


「どうしました?」

「若様より、申し上げます」


松の表情が変わる。


「はい」


伝令は頭を下げる。


「政秀方の兵が、南へ向かったとの知らせを受け、若は領境から出られました」

「……南へ?」

「はい」

「どこへ向かわれたのです?」

「室津へ」


松は、一瞬だけ目を伏せた。

やはり。

官兵衛も同じところへ辿り着いた。


そして――。

そこには、おたつがいる。


今朝。

自分の手で送り出したばかりの娘。


「……おたつちゃん」


松が小さく呟く。

伝令は続ける。


「若は、政秀が室津を狙っているなら、追わなければならないと」


松は黙って聞いていた。


「高岡には兵を残し、残りを率いて南下されました」

「そうですか」


松は頷く。


それから、少しだけ空を見上げた。


「間に合って……」


声が止まる。

そして、静かに祈るように言った。


「おたつちゃん」

「どうか、無事で」


もう一度、目を閉じる。


「官兵衛……」


松の指が、わずかに握られる。


「間に合って」


風が吹いた。

庭の木々が揺れる。

その向こうでは、高岡へ送るための荷が、まだ運ばれている。

戦はまだ始まっていない。


けれど――。


**もう、誰も止まってはいなかった。**


高岡から官兵衛が南へ。

姫路では職隆が兵を集める。

砥堀では休夢が兵をまとめ、松が救護の準備を進める。


そして室津では――。


お辰の婚礼が始まろうとしていた。


**1564年一月十一日。**


黒田の姫として送り出されたお辰のもとへ、

赤松政秀の軍勢が迫ろうとしていた。



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