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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
高岡合戦

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SS 武兵衛、姫様に褒められたい

砥堀の屋敷。

松姫のもとを訪れた武兵衛は、庭にいる善助を見つけた。


「善助」

「武兵衛殿」

「姫様にお会いしたいのですが。呼んでもらえますか?」

「承知した。少々待ってくだされ」


善助が歩き出す。

その背中を見て、武兵衛はふと足を止めた。


「……善助」

「何だ?」

「その背中のものは、いったい?」


善助の背中には、大きな土俵が載せられていた。

しかも、かなり重そうだ。


「これか?」


善助は苦笑する。


「姫様からの罰だ」

「罰?」

「勝手に先に高岡へ行ったからな」


そう言って、善助は土俵を背負ったまま歩き続ける。


「一日中、これを背負って庭を歩いておれ、と」


武兵衛は土俵を見つめた。


「……一日中?」

「一日中だ」

「……」

「今日で3日目だ」


武兵衛は何とも言えない顔になった。

やはり、松姫は厳しい。

そんなことを思っていると、善助が振り返った。


「姫様を呼んでくる。そこで待ってくだされ」


武兵衛は頷いた。

だが、その顔には先ほどとは別の緊張が浮かんでいた。

今日は、どうしても松姫に聞いておきたいことがあった。



善助が屋敷の中へ戻っていくのを見送り、武兵衛は庭先で待っていた。

やがて、松が姿を見せる。


「武兵衛?」

「はい」

「今日はどうしたの?」


武兵衛は、少しだけ視線を逸らした。


「いや……その……」

「何?」

「先の戦のことで、少しお聞きしたいことが」


松は首を傾げる。


「戦?」

「はい」


武兵衛は一度息を整えた。


「小寺の殿より、褒美をいただくような武功を挙げましたが……」

「ええ」

「……あれは、よかったのでしょうか」


松は、武兵衛の顔を見る。

何を気にしているのか。

すぐには分からなかった。

だが、武兵衛の歯切れの悪さを見ているうちに、少しずつ察しがついてきた。



松は少し考えたあと、あっさりと言った。


「別動隊の将を討ったのでしょう?」

「はい」

「いいじゃない」


あまりにも簡単な返事だった。

武兵衛は、少し目を見開く。


「……それだけですか?」

「それだけって?」

「いや、その……」


武兵衛はまた言葉に詰まった。

松はそんな様子を見て、ふっと笑う。


「そのあとも、よかったわよ」

「そのあと?」

「ええ。高岡へ報告を入れたでしょう?」

「はい」

「あなたが将を討ったこと、高岡の中にも伝わっていたわ」


松は、そのときの様子を思い出す。


「みんな、声を上げていたわよ」

「……そうですか」


武兵衛の表情が、ほんの少し緩んだ。

自分が何をしたか。

それが高岡の者たちにも伝わっていた。

そして、松も知っている。

それだけで、武兵衛には十分だった。


……のだが。

松は、そんな武兵衛をじっと見た。


「ねえ、武兵衛」

「はい?」

「あなた、私がどう思うか気になって、わざわざ来たの?」

「……」


武兵衛の顔が固まった。

松は、固まった武兵衛の顔を見て、ふっと笑った。


「かわいいところあるわね」

「……」


武兵衛は何も言えない。


「仕方ないわね」


松が一歩近づく。


「褒めてあげるわ」


そう言って、松は武兵衛の頬へそっと手を添えた。

武兵衛の身体が、ぴたりと止まる。

そして、そのまま髪をぐしゃぐしゃと撫でる。


「よくやったわ、武兵衛」

「……」


武兵衛はされるがままになっていた。

胸の奥が、少しだけ熱くなる。

思っていたより、ずっと嬉しかった。


だが――。

松が手を離す。

武兵衛は、少しだけ名残惜しそうにその顔を見る。


「……これだけです?」


松は目を丸くした。


「あら」


そして、楽しそうに笑う。


「それ以上は、官兵衛にしてもらいなさい」


武兵衛は真顔になった。


「それがしに、そんな趣味はありません」

「ふふっ」


松の笑い声が、庭に響いた。


その後、武兵衛はしばらくその場に立ち尽くしていた。

頬に触れられた感触が、まだ残っている。

髪も、ぐしゃぐしゃになっている。


「……」


松はそんな武兵衛を見て、楽しそうに笑った。


「どうしたの?」

「いえ……」


武兵衛は髪を整えながら、少しだけ俯く。


「ありがとうございました」

「何が?」

「褒めていただいたことです」

「そう」


松は頷く。


「なら、これからも頑張りなさい」

「はい」


武兵衛は今度こそ、しっかりと答えた。

屋敷を出るために歩き始める。

その背中を見送りながら、松は小さく笑った。


「……本当に、かわいいわね」


庭では、善助が相変わらず土俵を背負って歩いている。


「姫様ぁ……そろそろ、よろしいでしょうか……」

「まだよ」

「……はい」


その声を聞きながら、武兵衛は屋敷を後にした。

武功を立てた男が、その日の一番の目的を果たした。


**姫様に、ちゃんと褒めてもらうことを。**




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