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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
高岡合戦

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SS 砥堀 二百人の捕虜

御着での論功も終わり、松姫は砥堀へ戻ってきていた。

その後ろには井上と、捕らえられた宇野頼家。

さらに黒田本家が捕らえた赤松兵と、養父・高友の隊が捕らえた兵たちが続いている。


その数、およそ二百人。

砥堀へ入る一行を、村人たちは驚いたように眺めていた。

松はそんな視線を気にする様子もなく、そのまま砥堀の外れへと向かう。

やがて、一行は何も建っていない荒れ地へたどり着いた。


松は馬を止める。


「ここよ」


頼家が周囲を見渡す。

建物はない。

人が住めるような場所にも見えない。


「姫様……ここは?」


松は馬から降りた。


「あなたたちが暮らす場所よ」

「……ここで?」

「ええ」


松は目の前の荒れ地を指した。


「ここに、あなたたちの宿舎を建てなさい」

「砥堀に牢はないわ」


松は淡々と言った。

頼家が目を瞬かせる。


「……牢が、ない?」

「ええ。だから、自分たちで建てなさい」


二百人の兵たちが、ざわめき始める。


「宿舎を建てるのに必要なものは、こちらで用意してあるわ」


松は懐から地図を取り出した。


「大工の棟梁は、砥堀の者に頼んであるの」


地図を広げ、いくつかの場所を指で示す。


「材木は、ここ。それから、ここにも買い付けを入れてあるから、受け取りに行って」


頼家は地図を覗き込む。


「……我らが、材木を?」

「そうよ」

「そして、この場所に宿舎を?」

「ええ」


松は当然のことのように頷いた。


「棟梁の指示を聞いて建てなさい」


頼家は、後ろに並ぶ兵たちを振り返った。

戦場で捕らえられた二百人。

殺されるわけでもない。

牢へ押し込められるわけでもない。

その代わり、自分たちが暮らす場所を、自分たちで作れという。


「……承知しました」


頼家が頭を下げる。


「では、兵たちを動かします」

「頼むわ」


松はそう言って、荒れ地を見渡した。

これから半年。

この二百人には、ここで働いてもらう。

ならば、まずは暮らす場所から整えなければならない。



宿舎の建設が始まると、二百人の兵たちはすぐに仕事へ取りかかった。

砥堀の大工たちが棟梁の指示を出し、捕虜たちは材木を運び、柱を立て、地面を整えていく。

頼家もその中に混じり、兵たちの様子を見ながら指示を出していた。

そのとき、遠くから荷車の音が聞こえてきた。


「姫様!」


松が振り返る。

砥堀の屋敷から来た宇兵衛が、何人かの者と荷車を引いている。

荷車には、袋に詰められた米が積まれていた。


「持ってきました」

「ありがとう、宇兵衛」


松は荷車のところまで歩いていく。

そして頼家を呼んだ。


「頼家」

「はい」

「これ、当分の食糧ね」


頼家は積まれた米を見る。

二百人が食べるには、それなりの量が必要になる。


「……我らの食糧ですか?」

「そうよ」

「捕虜なのに……」


頼家が思わず呟く。

松は不思議そうに首を傾げた。


「働いてもらうんだから、食べてもらわないと困るでしょう?」


頼家は返す言葉がなかった。

宿舎を自分たちで建てさせる。

材木も自分たちで運ばせる。

だが、食べるものはきちんと用意されている。

どうにも、これまで知っている捕虜の扱いとは違っていた。



宿舎が形になり始めると、松は次の仕事を考え始めた。


「頼家」

「はい」

「手が空いた組から、こちらへ来て」


松が指したのは、砥堀の外れを流れる川だった。


「ここ、土砂が溜まっているでしょう?」


頼家が川を見る。


「川浚えですか」

「ええ。宿舎が終わった組から、順番にやってもらうわ」

「承知しました」


頼家は兵たちへ指示を出す。

宿舎を建てる者。

材木を運ぶ者。

そして、手の空いた者から川へ向かう者。

気がつけば、二百人が休む間もなく仕事を与えられていた。


それから数日。

川浚えが終われば、今度は道の補修。

道が終われば荷運び。

荷運びが終われば水路の泥さらい。

次から次へと仕事が出てくる。

頼家は、ある日ふと松に尋ねた。


「姫様」

「何?」

「……我らに仕事をさせるため、仕事を作っておられませんか?」


松は少し考えた。


「作っているというより、後回しになっていた仕事を片付けてもらっているだけよ」

「そうなのですか?」

「砥堀は人手が足りないもの」


松は何でもないことのように言った。


「二百人もいるなら、片付けられる仕事は片付けてもらわないと」


頼家は黙った。

なるほど。

そういうことなのか。

自分たちは捕虜として連れてこられた。

だが松姫は、二百人をただ閉じ込めておくのではなく、砥堀に足りなかった人手として使っている。


そして、その仕事は思っていたより多かった。



やがて、砥堀で後回しになっていた仕事が、少しずつ片付いていった。

川浚えも終わった。

道も整った。

荷運びも、水路の泥さらいも進んでいる。

二百人の手があると、仕事の進み方が違った。


「姫様」


頼家が、松のところへやってきた。


「砥堀の仕事は、かなり片付いたようですが」

「そうね」


松も周囲を見る。

以前は人手が足りずに後回しになっていた場所が、次々と整っている。


「なら、次の仕事を探しましょう」

「次、ですか?」

「ええ」


松は何でもないことのように答えた。


「本家に聞いてみるわ」


それから数日後。

松のもとへ、黒田家から新しい仕事が届いた。

砥堀から少し離れた村の道普請。

さらに荷の運搬。

水路の整備。

松はそれらを見て、二百人の中から必要な人数を割り振った。


「頼家、この仕事は三十人」

「はい」

「こちらは二十人」

「承知しました」


頼家は兵たちへ指示を出していく。

ところが、それでもまだ人が余る。

そして、いつの間にか。


「姫様、姫路のほうからも人手を借りたいとの話が……」


松は書状を受け取った。


「姫路から?」

「はい」


松は少し考える。

そして、二百人のほうを見る。


「……人手が余っているなら、出しましょう」


頼家は思わず松を見る。


「姫様」

「何?」

「我らは、いつの間に……」


言葉を選ぶ。


「砥堀だけではなく、姫路の仕事まで?」


松は笑った。


「仕事があるなら、働いてもらえばいいでしょう?」


頼家は黙った。

捕虜として連れてこられたはずだった。

それが今では、仕事を求められる側ではなく、仕事を割り振られる側になっている。

そして松は、さらに書状へ目を落とした。


「何人、何日必要かしら」


やがて松は、その仕事を引き受ける代わりに、銭を受け取るようになる。


**砥堀の二百人は、いつしか「捕虜」から「人手」へ。**


そして松は、その人手を外へ出して銭を得る仕組みを作り始めていた。



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