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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
高岡合戦

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第十一話 高岡合戦 政秀SIDE 青山

夜が明けた。

青山に陣を置いた赤松軍にも、昨夜の嵐の爪痕が残っていた。

雨はまだ小降りながら降り続いている。

濡れた衣服を着たまま、兵たちが重い身体を起こしていた。

政秀は陣内を見渡す。

疲れている。

当然だ。


龍野を出てから、山を越え、谷道を進み、高岡まで攻め寄せた。

そして黒田の妨害を受け、先鋒を失い、さらに小寺の本隊から追われてここまで退いてきた。

そのうえ、昨夜の嵐である。


「……ひどい有様だな」


政秀は、濡れた旗を見上げた。

だが、それでも兵たちはここまでついてきている。


「まずは隊を整えよ」


政秀は家臣へ命じた。


「先鋒の兵も、集められるだけ集めろ」


まだ戦える。

そう思っていた。

ここで時間をかければ、崩れかけた軍も立て直せる。

少なくとも、そう考えていた。



青山に退いた赤松軍は、少しずつ隊列を整え始めていた。

政秀は、戻ってきた兵たちの顔を一人ずつ見ていく。

疲労は明らかだった。

だが、まだ戦える。


「先鋒の損害は?」


家臣が答える。


「かなりの数を失っております」

「宇野の隊は?」

「政頼様の隊も、相当に削られております」


政秀は黙った。

谷道での妨害。

伝令の途絶。

小寺本隊との遭遇。

そして撤退。

先鋒が崩れたことで、軍全体にも少なからず動揺が残っている。


「……まずは、乱れを直せ」

「はっ」


兵たちが隊列を組み直していく。

政秀は青山の先を見た。

小寺も黒田も、昨夜の嵐を越えている。

だが、向こうも同じように疲れているはずだ。


「しばらくは、動いてこまい」


そう思った。

今は、こちらが隊を整える時間だ。

先鋒を失った混乱さえ収めれば、まだ戦える。

政秀は、そう考えていた。


青山の陣に、物見が駆け込んできた。


「申し上げます!」


政秀が顔を上げる。


「何だ」

「小寺・黒田の軍が、こちらへ向かっております!」


政秀は、思わず立ち上がった。


「何?」

「間違いないのか」

「はい。こちらへ進んでおります」


政秀は青山の先へ目を向けた。

雨はまだ降っている。

兵たちは疲れている。

それは向こうも同じはずだった。


「……この雨の中を、来るというのか」


政秀には理解できなかった。

こちらは先鋒を失っている。

向こうも、昨夜の嵐で疲弊しているはずだ。

それでも小寺は来る。


「数は?」

「小寺の本隊を中心に、黒田の兵もおります」


政秀はしばらく黙っていた。


「迎え撃つ」


そう言うしかなかった。


「いそぎ、隊列を整えよ」

「はっ!」


赤松の兵たちが動き始める。

まだ乱れは残っている。

だが、ここで逃げれば、そのまま追われることになる。

政秀は青山の先を睨んだ。


「来るならば、ここで止める」


赤松の旗が、雨の中で再び立ち上がった。


青山の先に、黒田と小寺の兵が姿を現した。

雨の中を、ゆっくりと進んでくる。

政秀はその動きを見つめていた。


「来たか……」


赤松の兵たちも、次々と武具を整えていく。

だが、先鋒を失った影響は隠せない。

隊列の一部には、まだ乱れが残っていた。

それでも、ここで退くわけにはいかなかった。


「迎え撃て!」


政秀の声が響く。

赤松の兵が前へ出る。

やがて、両軍の距離が縮まった。

矢が放たれる。

雨の中を矢が飛び交う。

黒田・小寺の兵が押し寄せ、赤松の隊列へ食い込んでくる。


「押し返せ!」


政秀が叫ぶ。

赤松の兵も応じる。

一度は踏みとどまった。

だが、次第に赤松の隊列が押され始める。

疲労が、ここで出た。

先鋒を失った傷も、まだ癒えていない。

兵たちの動きが鈍い。


「殿!」


家臣が駆け寄る。


「このままでは、持ちません!」


政秀は戦場を見渡した。

ここで踏みとどまれば、本隊まで崩れる。

それだけは避けなければならない。


「……退くぞ」

「はっ!」


政秀は青山から軍を退かせ始めた。


黒田と小寺の兵は、それを追う。

だが、深追いはしない。

職隆の狙いは、赤松を討ち果たすことではない。

夢前川を渡るため、その道を開けることだった。


政秀も、兵をまとめながら後退していく。


「急ぐな!」

「隊列を崩すな!」


まだ完全な敗走ではない。

だが、青山に留まって戦い続けることもできない。

先鋒を失い、嵐に打たれ、それでもここまで退いてきた兵たちに、これ以上の戦を強いることはできなかった。

やがて赤松の旗が、青山の向こうへ遠ざかっていく。


黒田・小寺の兵も足を止めた。

職隆は、その先を見つめる。


「……よし」


赤松は退いた。

これで、夢前川を渡る道が開いた。

だが、川の水はまだ引いていない。

職隆は兵たちを振り返った。


「渡るぞ」


兵たちは、重い身体を動かし始めた。

嵐の翌朝に始まった一戦は、赤松を退かせることで終わった。

そして黒田・小寺の兵たちは、再び増水した夢前川へ向かっていった。


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