↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
高岡合戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/52

第九話 高岡 松姫SIDE 捕虜

高岡には、戦場から戻ってきた兵たちが次々と入ってきていた。

捕らえた赤松の兵。

戦場で押さえた兵糧や武具。

使える馬や荷物まで、次々と運び込まれてくる。

高岡の中は、戦が始まる前とは比べものにならないほど慌ただしくなっていた。


「捕虜はこちらへ!」

「荷は奥へ運べ!」

「負傷者は救護所へ!」


兵たちの声が飛び交う。

その指揮を執っているのは源蔵だった。

戦場へ出ている主力とは別に、高岡に残った者たちをまとめ、運び込まれてくるものを受け入れている。

松は救護所から、その様子を眺めていた。


「こちらへ運んで」

「はい!」


女衆が負傷した兵を運び込んでくる。

松は傷を確認し、処置を指示する。

そんな中、ひときわ目立つ一団が高岡へ戻ってきた。

井上の隊だった。

松は顔を上げる。

井上が連れているのは、数人の捕虜。

その中に、一人だけ身分の高そうな男がいた。

しかも、かなりの傷を負っている。

松は立ち上がった。


「その者、怪我をしているわ」


井上の兵が足を止める。


「はる」

「はい」

「この人、先に手当てして」

「承知しました」


はるが捕虜のもとへ向かう。

井上は、捕らえた男を高岡へ収容するため、一時的に戻ってきただけだった。

この大物を引き渡せば、再び黒田の軍へ戻ることになる。

松はまだ、その男が誰なのか知らなかった。



高岡には、次々と戦場から兵が戻ってきていた。

捕らえた赤松兵は、源蔵の指示でまとめられ、武具を取り上げられている。

荷駄も次々と運び込まれてくる。


「その荷は倉へ!」

「兵糧はこちらだ!」

「捕虜はまとめておけ!」


高岡に残っている兵たちが忙しく動き回っていた。

松は救護所で負傷者の処置を続けていた。

そんな中、井上の隊が高岡へ入ってきた。


「戻ったか、井上」


源蔵が声をかける。


「ええ。少しばかり、大物を捕らえましてな」


井上の後ろには、数人の兵に囲まれた男がいる。

その男は腕や肩に傷を負っていた。

松はすぐに気づいた。


「その人、怪我をしているわ」

「はっ」

「はる、手当てして」

「はい」


はるが男のもとへ向かう。

男は周囲を見回した。

そこには僧兵がいる。

女衆もいる。

戦場から運び込まれた負傷者の処置をしている。


男は、そんな高岡の光景を不思議そうに眺めていた。


「……なぜ、こんなところに僧兵とおなごが多くいるのだ」


松が顔を上げる。


「怪我の処置をしているのよ」

「怪我の処置?」

「ええ」


松は男の傷へ目を向けた。


「戦場で怪我をしたのでしょう?」

「……そうだ」

「なら、治すわ」


男は、松の顔をじっと見つめていた。

敵である自分を、まるで味方の兵と変わらぬように扱っている。

そのことが、どうにも不思議だった。


「そなたは……黒田の姫か?」

「そうだけど」

「なるほど」


男は、周囲を見回した。

僧兵が負傷者を運び、女衆が傷の手当てをしている。

戦場でありながら、そこには妙な落ち着きがあった。


「戦場で、このようなことをしているとはな」

「怪我人がいるんだから、手当てするでしょう」

「敵であっても?」

「ええ」


松は即答した。


「死んでしまったら、何もできないもの」


男は、少しだけ笑った。


「面白い姫だ」

「そう?」

「私なら、敵を助けるなど考えもしない」

「そういう人もいるでしょうね」


松は気にする様子もなく、はるへ指示を出した。


「そこ、もう少し強く押さえて」

「はい」


男は再び松を見る。


「名を聞いても?」

「松」

「松殿か」

「そう」

「ならば、松殿」


男は少し身を起こした。


「一つ、聞きたい」

「何?」

「夫はいるのか?」


松の手が止まった。


「……いないけど」


男の口元に笑みが浮かぶ。


「ならば、私の妻にならぬか」

「嫌よ」


即答だった。


男が目を丸くする。


「……早いな」

「だって、あなた捕虜でしょう?」

「それはそうだが」

「それに、会ったばかりじゃない」

「確かに」


男は苦笑した。


「しかし、私は本気だ」

「私は本気で嫌」


松はそう言って、また傷の処置へ戻った。

男はしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。


「なるほど……これは面白い」


その様子を、少し離れたところで井上が見ていた。

松はふと井上へ目を向ける。


「井上」

「はい」

「この将って、誰?」

「宇野政頼の弟、頼家ですな」


松は頼家を見る。


「そうだろう……」

「そうだ」


松は少し考える。


「ふーん」


先ほどまで高岡を攻めていた赤松の先鋒。

その先鋒を率いていた将の弟が、今は目の前で傷の手当てを受けている。


「先鋒を率いていた将の弟か」


頼家は黙って松を見ていた。

松は、その視線に気づいたのか、井上へ顔を向ける。


「井上」

「はい」

「これ、ちょうだい?」


井上が眉を上げる。


「……姫様?」

「この人」


松は頼家を指した。

井上は少し困った顔をする。


「姫様、某の武功を横取りされては困ります」

「そういう意味じゃないわ」


松は首を振った。


「小寺の殿から褒美をもらうでしょう?」

「まあ、そうなりましょうな」

「それで、この人の命をもらって、私に売ってほしいの」


井上は黙った。

頼家本人も、目の前で自分の命について話されていることに気づいている。


「……そういうことですか」


頼家が呟く。


「この者の命を嘆願して、買ってくださると」

「そういうこと」


松は頷いた。

そして井上へ尋ねる。


「いくら欲しい?」


井上は少し考えた。


「銭より……」

「何?」

「某の嫁が欲しがっているものがございましてな」

「通が?」

「はい」


井上は松を見る。


「姫様が作らせている真綿の布団が欲しいです」


松は目を瞬かせた。


「真綿の布団?」

「ええ。嫁が欲しがっておりまして」


松は少し考える。


そして、あっさり頷いた。


「じゃ、それと交換ね」

「よろしいので?」

「ええ」


井上は頭を下げる。


「ありがたく」


その目の前で、自分の命が真綿の布団一枚と交換された頼家は、何とも言えない顔をしていた。


「……私の命が、布団一枚か」

「2枚よ 嫌ならやめてもいいわよ」

「いや」


頼家は即座に答えた。


「ありがたく受けよう」


松は頼家へ向き直った。


「頼家」

「はい」

「あなたの命は助命されるわ」


頼家は松を見る。


「ただし、条件があるの」

「条件?」


松は、救護所の外へ目を向けた。

そこには、捕らえられた赤松兵たちがいる。


「あなたが率いていた兵たちにも、手伝ってもらいたいの」


頼家の表情が変わった。


「何をさせるつもりだ」


頼家の問いに、松はあっさりと答えた。


「ただの労力よ」

「労力?」

「ええ。砥堀で人手が必要な仕事を手伝ってもらうの」


頼家は、しばらく松の顔を見る。


「戦に使うわけではないのか」

「そんなことはしないわ」


松は首を振った。


「半年でいいわ」

「半年……」

「半年働いてもらったら、あなたも兵たちも解放する」


頼家は、救護所の外へ目を向けた。

そこには、自分とともに捕らえられた兵たちがいる。


「兵も?」

「兵もよ」


松は迷いなく答えた。


「あなたから兵たちに話して。半年だけ、私たちの言うことを聞いてもらうの」

「そして半年が過ぎれば、全員を帰すと?」

「ええ」


頼家は黙った。

敵として捕らえられた以上、命を奪われてもおかしくない。

それどころか、自分だけ助かって兵たちが殺されることもある。

それが、半年働けば全員助けるという。


「……ただでは無理だ」


頼家が言った。

松は少し笑った。


「じゃあ、ただじゃないわ」

「?」

「あなたの命の助命が条件よ」


頼家は松を見る。


「私の命と、兵たちの労力を交換するということか」

「そういうこと」

「半年働けば、全員助かる」

「約束するわ」


頼家はしばらく考えた。

やがて、静かに頭を下げる。


「分かりました」

「半年間、某と兵たちを使ってくだされ」


松も頷いた。


「ええ」

「半年が過ぎれば、約束通り解放していただけるので?」

「もちろん」


松は、はっきりと言った。


「あなたたちが約束を守るなら、私も約束を守るわ」


頼家は再び頭を下げた。


「承知しました」


松は、はるへ目を向ける。


「この人は傷が治るまで休ませて」

「はい」


その頃、井上は捕虜の収容を終えていた。


「では、某は戻ります」


松が振り返る。


「ええ。気をつけて」


井上は兵を率いて、再び黒田の軍へ戻っていった。

高岡では、源蔵の指揮のもと、今も兵たちが忙しく動いている。

捕虜が運び込まれ、物資が整理され、負傷者が救護所へ運ばれてくる。


松はそれを眺め、そして再び目の前の負傷者へ向き直った。

戦場はまだ終わっていない。

それでも、高岡では次の戦いに備えるための仕事が続いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。