↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
高岡合戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/50

第五話 高岡合戦 政秀SIDE 撤退

龍野から出陣した赤松の本隊は、夢前川を渡った位置で陣を構えていた。

だが、先鋒へ送った宇野政頼から、いまだに報告が届いていない。

政秀は何度目かになる問いを口にした。


「まだ宇野から知らせは来ぬのか」

「いまだにございません」

「こちらから送った伝令は?」

「それも戻っておりません」


政秀は黙っていた。

先鋒が高岡へ向かってから、すでにかなりの時間が経っている。

これほど待っても報告が来ないのは、おかしい。


「……谷道か」


家臣が政秀を見る。


「谷道、でございますか?」

「最初に黒田が仕掛けてきた場所だ」


政秀は高岡へ続く道を思い浮かべる。

倒木。

枝道。

伏兵。

宇野の進軍を遅らせた、あの谷道。


「あの伏兵、まだ残っているのかもしれぬ」


少数の伝令ならば、途中で止められていてもおかしくない。


ならば――。


「四百を出せ」

「四百でございますか?」

「宇野の後詰めだ」


政秀は即座に答えた。


「同時に、谷道の連絡を開けさせる」


これ以上、伝令を待っているわけにはいかなかった。


四百の後詰めと、撤退してきた宇野隊が向かい合う。


「宇野殿!」

「後詰めか!」


宇野隊の兵たちは、疲労の色を隠せていなかった。


「高岡はどうした!」


問われた宇野隊の兵が答える。


「高岡は落とせませんでした!」

「何だと?」

「小寺の本隊が高岡へ到着しております!」

「小寺が……」


後詰めの将は顔をしかめた。


「政秀様へ知らせるぞ!」

「はっ!」


後詰めの兵たちは、撤退してきた宇野隊を収容しながら、急いで谷道を戻っていく。

その報せがようやく政秀のもとへ届いた。


「申し上げます!」

「言え」

「宇野隊と谷道で遭遇いたしました!」

「宇野はどうした」

「宇野頼久様は討ち死に。先鋒は高岡より撤退しております!」


政秀の顔が険しくなる。


「高岡は?」

「小寺本隊が到着しております」

「……小寺本隊が」


政秀は黙って考えた。

宇野から知らせが来なかった。

こちらから送った伝令も戻らなかった。

そして、ようやく戻ってきた兵たちは、谷道で後詰めと鉢合わせしている。


「……谷で混乱しているな」


政秀は高岡の方角を見る。


「このままでは、小寺の追撃が来る」


もはや、ここで陣を整えている時間はなかった。



政秀は、しばらく高岡の方角を見つめていた。

宇野が撤退した。

小寺本隊が高岡へ入った。

ならば、ここで兵を整えようとすれば、いずれ小寺の追撃を受ける。


「……まずいな」


政秀は決断した。


「陣を捨てる」


家臣たちが顔を上げる。


「本隊は夢前川を渡れ」

「はっ!」

「殿軍を残せ」

「殿軍は、どれほど?」

「追撃を止められるだけ残せ」


政秀は振り返る。


「我らが川を渡り、隊を整える時間を稼ぐ」


命を受けた兵たちが動き始める。

赤松の本隊は、急いで陣を引き払った。

置いていけるものは置いていく。

持ち運べるものだけをまとめ、夢前川へ向かう。

その後ろでは、殿軍が残った。


「急げ!」

「川へ向かえ!」


兵たちが夢前川へ殺到する。

政秀も馬を進める。

ようやく川岸へ着くと、兵たちが次々と川を渡り始めた。


「足を止めるな!」

「渡り終えた者から、向こう岸で隊を整えよ!」


政秀は振り返った。

遠くでは、まだ殿軍が小寺の追撃を食い止めている。

そして、本隊が渡河を終えようとした頃だった。


「……雨か」


空から、一滴の雨が落ちてきた。

続いて、また一滴。

やがて雨脚は、少しずつ強くなっていった。



政秀は川を渡り終えた兵たちを見回した。

まだ隊列は乱れている。

だが、ここまで来れば高岡からは距離を取れる。


「渡り終えた者から、隊を整えよ」

「はっ!」


兵たちがそれぞれの持ち場へ動いていく。

政秀は再び、夢前川の向こうを見た。

先ほどまで自分たちがいた場所に、まだ殿軍が残っている。


「殿軍はまだか」

「まだ戦っております」


政秀はしばらく黙っていた。

ここで追いつかれれば、渡河したばかりの兵をまとめることもできない。

だからこそ、殿軍には時間を稼いでもらうしかない。


やがて雨が強くなる。

川面にも雨粒が次々と落ちていく。


「これで追撃も鈍るか」


政秀はそう呟いた。

だが、雨はまだ降り始めたばかりだった。

その向こうでは、高岡から追ってくる小寺の軍勢がある。

政秀は濡れ始めた旗を見つめながら、兵を整えさせた。


「ここからだ」


一度崩れた軍勢を、ここで立て直す。

そのための時間を、殿軍が稼いでいる。

赤松の本隊は、降り始めた雨の中で再び隊列を整え始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。