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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
高岡合戦

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第四話 高岡合戦 戦端

高岡の外から、鬨の声が響いた。


「来たわね」


松は救護所の前で立ち上がった。

遠くには、赤松の旗が見える。

先鋒の兵が、谷道を抜けて高岡へ向かってくる。


「姫様、前方より敵が参ります」

「ええ」


松は高岡の土塁へ目を向けた。

すでに兵たちは持ち場についている。

正面には職隆。

側面には高友と官兵衛。

そのさらに前では、武兵衛たちが敵の足を止めている。

だが、赤松の先鋒も止まらない。


「弓を構えよ!」


高岡の上から声が響く。

赤松の兵がさらに近づく。


次の瞬間――。

矢が一斉に放たれた。

空を裂く音とともに、矢の雨が赤松の兵へ降り注ぐ。


「進め!」


赤松側からも声が上がる。

兵たちが土塁へ向かって押し寄せてくる。

戦が始まった。

赤松の兵が、高岡の土塁へ向かって押し寄せてくる。

矢が次々と放たれ、土塁の前に兵が倒れていく。

それでも赤松の先鋒は止まらない。


「進め!」


怒号とともに、さらに兵が前へ出る。

高岡の兵も弓を放ち続ける。

土塁の上からは、敵の動きがよく見えていた。


「左手、来ます!」

「構えよ!」


官兵衛の声が飛ぶ。

高友の兵が側面へ回り、赤松の兵を迎え撃つ。

正面では職隆の兵が敵を押し返していた。

松は後方の救護所から、その様子を見ていた。


「まだよ」


周囲の女衆や僧兵が身構える。


「今は動かなくていいわ」


だが、戦が始まってしばらくすると、松のもとへ最初の負傷兵が運ばれてきた。


「姫様!」


「こちらへ」


矢を受けた兵だった。


「腕に刺さっています」

「横に寝かせて」


松はすぐに傷を確認する。


「矢が刺さったままね」

「はい」

「では、ここで処置する」


別の負傷兵も運ばれてくる。


「こちらもお願いします!」

「順番に。動ける者から前へ戻すわ」


戦場では、まだ怒号が響いている。

その一方で、高岡の後方では救護所が動き始めていた。



救護所へ運ばれてくる負傷兵は、少しずつ増えていった。


「矢を受けています!」

「こちらへ」


松は傷を確かめる。


「腕ね。上を縛って」


女衆がすぐに紐を取る。


「きつくしすぎないで。そう、そのくらい」


別の者が酒と真綿を持ってくる。


「傷の周りを清めて」

「はい」


松が処置をしている間にも、次の負傷者が運ばれてくる。

矢傷。

切り傷。

打撲。

血を流している者もいる。


「この者は動かせる?」

「歩けます」

「なら、処置が終わったら後ろへ下がって休ませて」

「はい」

「こちらは?」

「肩を斬られております」

「傷は深くないわ。押さえて」


松が次々と指示を出す。

処置を終えた者の中には、再び前線へ戻ろうとする者もいた。


「もう行くの?」

「はい。まだ戦えます」

「無理はしないで」

「承知しました」


兵が立ち上がり、前線へ戻っていく。

松はその背中を見送った。

救護所は忙しくなっていた。

それでも、戦場そのものはまだ動いている。


「押せ!」


前方から怒号が響く。


「赤松を押し返せ!」


矢の飛び交う音。

兵たちの叫び声。

金属がぶつかる音。

松は一度だけ顔を上げた。

そのときだった。


「母里武兵衛様!」


前方から、大きな声が響いた。


「宇野頼久、お討ち取り!」


救護所にいた者たちが、一斉に顔を上げる。


松も手を止めた。


宇野頼久。

赤松先鋒にいた武将の名だった。


「……討ち取ったのね」


松はそう呟いた。

これで、赤松の先鋒も少しは揺らぐはずだ。



宇野頼久が討ち取られたことで、赤松の先鋒は次第に後退し始めた。


「姫様!」


救護所へ伝令が駆け込んでくる。


「赤松の先鋒が、引き始めました!」

「そう」


松は処置を続けながら、前方へ目を向けた。


そのとき、別の兵が駆けてくる。


「申し上げます!」

「何?」

「小寺本隊が見えました!」

「小寺が?」

「はい! こちらへ向かっております!」


松は立ち上がった。

これで流れが変わる。

高岡を攻めていた赤松の先鋒にとって、正面の高岡だけでも厄介なのだ。

そこへ小寺の本隊まで加われば、戦い続けるのは難しい。


「来たわね」


前方から、さらに大きな声が響いた。


「赤松が退いていくぞ!」


職隆と高友の兵が、後退する赤松の先鋒を追っていく。


「追え!」

「逃がすな!」


小寺の本隊も前へ進み始めた。

高岡を包んでいた緊張が、一気に動き始める。

だが、高岡には官兵衛が残っていた。

その隣には、家臣の源蔵もいる。

松は救護所を離れず、次々と運ばれてくる負傷者の処置を続けた。


しばらくして、高岡へ入ってくる一団が見えた。


「あれは……」


小寺政職だった。

五十ほどの兵を率いて、高岡へ入ってくる。

政職は高岡の様子を見渡すと、官兵衛へ声をかけた。


「あっぱれだ、官兵衛」

「殿」

「よく守ったな」


政職はそう言ってから、松へ目を向ける。


「そなたが、黒田の松姫か」

「はい」

「戦場で会いまみえるとはな」


政職は、松の周囲を見渡した。

僧兵。

僧。

女衆。

そして、負傷者たち。


「僧兵とおなごを連れて、何をしておる?」

「救護です」


松は短く答えた。


「そうか」


政職は頷く。

そして官兵衛へ向き直った。


「官兵衛、そなたも追い首に加われ」

「はっ」


政職はそのまま本隊のもとへ戻っていった。


官兵衛もすぐに後を追おうとする。


「姉上」

「なに?」

「高岡をお願いします」

「分かったわ」


官兵衛は源蔵へ向き直った。


「源蔵」

「はっ」

「父上たちが捕らえた捕虜や、押さえた物資を高岡へ運んでくれ」

「承知しました」

「負傷者が戻ってくる。そちらも頼む」

「お任せください」


官兵衛は頷くと、政職の後を追って高岡を出ていった。

松はその背中を見送った。


「さて……」


救護所へ目を戻す。

戦はまだ終わっていない。

前方では、赤松の兵を追う黒田と小寺の兵が動いている。


一方、高岡へは捕虜や押さえた物資が運び込まれ始めていた。


「こちらへ運んで」

「はい!」


女衆が捕虜を受け入れ、僧兵たちが負傷者を運ぶ。

物資も一つずつ高岡の中へ運び込まれていく。

戦場で勝つだけではない。

戦が終わったあとに残るものも、片付けなければならない。


松は忙しく動き続ける人々を見渡した。


「みんな、頼んだわよ」


高岡は再び、戦の後始末を始めていた。




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