↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
高岡合戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/54

第三話 高岡合戦 松姫SIDE 砥堀から高岡へ

砥堀の屋敷に、早馬が駆け込んできた。


「姫様!」


松は書きかけていた帳面から顔を上げる。


「どうしたの?」

「龍野より急ぎの知らせにございます」

「龍野?」

「赤松政秀が、兵を率いて出陣したとのことです」


松の表情が変わった。


「兵は?」

「二千五百ほど」

「……二千五百」


松は立ち上がった。


「目標は?」

「高岡にございます」

「そう」


松はすぐに高友を呼ぶよう命じた。

しばらくして、高友が部屋へ入ってくる。


「赤松が来るそうです」

「聞いた」

「兵を集めてください」


高友は頷いた。


「分かった。どれほどだ?」

「四百五十ほど」

「よし」


高友はすぐに家臣へ招集を命じる。

松もまた、自分の周囲にいる者たちへ声をかけた。

僧兵。

僧。

女衆。

そして、兵五十。


「こちらも支度を」


松は静かに言った。


「高岡へ向かいます」 


砥堀の屋敷では、出陣の準備が進められていた。

高友は家臣を集め、兵の編成を始めている。

松も自分の周囲にいる者たちを集めていた。


「宇兵衛、与助」

「はっ」


二人が松の前へ進み出る。


「出陣の支度をして」

「承知しました」

「はっ」


二人が頭を下げる。

その横には、なぜか次郎も立っていた。

松は次郎を見る。


「……次郎?」

「はい」

「あなた、何をしているの?」

「戦があると聞きましたので」

「だから?」

「私も参ります」


松はしばらく次郎を見つめた。


「……戦場へ出るつもり?」

「はい!」


以前から言っていたことだ。

戦に出たい。

兄を支えたい。

その気持ちは、まだ変わっていないらしい。


「あなたは戦わないわ」

「ですが――」

「駄目」


松が言い切った。


「後ろにいなさい」


次郎は不満そうな顔をした。


「……分かりました」


そのときだった。


「赤松が来ると聞きました!」


善助が駆け込んできた。


「善助?」

「官兵衛様は――」


善助は最後まで言わなかった。

松の話を聞くより先に、踵を返す。


「ちょっと、善助!」


だが、善助はそのまま屋敷を飛び出していった。

松はその背中を見送った。


「……まあ、いいわ」


どうせ遅いか早いかの違いだ。


「終わったら、罰を用意しないと」


松はそう呟くと、出陣の支度へ戻った。

出陣の支度が整い、砥堀の兵たちが次々と屋敷の外へ集まっていく。

高友は四百五十ほどの兵を率いることになった。

松のもとにも、僧兵や僧、女衆、それに五十ほどの兵が集まっている。


「よし。出るわよ」


松が馬に乗ろうとした、そのときだった。

遠くから、一人の伝令が駆けてきた。


「申し上げます!」

「何?」

「赤松の軍勢が、夢前川の対岸に現れました!」


松の顔が険しくなる。


「もう?」

「はい! 高岡より、着陣されたしとの知らせでございます!」


松は一瞬、黙った。

そして――。


「遅い!」

「はっ?」

「二日も前に兵を集めているのよ」


松は馬にまたがった。


「それなのに、いっこうに命令が来ないじゃない」

「姫様、急ぎます」

「ええ。急ぐわよ」


高友も兵たちへ声をかける。


「出るぞ!」


砥堀の軍勢が動き始めた。

高岡までの道を急ぐ。

松は馬上から前方を見据えていた。

赤松は、もう夢前川まで来ている。

ならば、こちらも急がなければならない。


「高岡へ急ぐわよ」


松たちは、そのまま高岡へ向かった




高岡へ着くと、すでに多くの兵が集まっていた。


「姉上、いい頃合いです。」


出迎えた官兵衛が、開口一番そう言った。

松は馬から降りながら、官兵衛を睨む。


「あんたの命令が遅いわ」

「私の?」

「二日も前に招集したのに、いっこうに命令が来なかったじゃない」


官兵衛が一瞬、言葉に詰まる。


「……それは」

「まあいいわ。それより状況は?」


官兵衛の表情が変わる。


「赤松は、すでに夢前川を渡りました」

「もう?」

「はい。こちらへ向けて先鋒を進めています」


そのとき、別の方向から職隆がやってきた。


「もう、目と鼻の先ではないか」

「父上」


職隆も周囲を見渡す。


「先鋒は?」

「母里武兵衛、小兵衛、それに先に来ていた善助が、谷道で遅延を行っています」

「兵は?」

「二百ほど」


松が尋ねる。


「相手は?」

「八百ほどと見ております」

「分が悪いな」


官兵衛は頷いた。


「ですが、勝つ必要はありません」

「時間を稼げばいいのね」

「はい」


その間に、高岡の守りを整える。

官兵衛は高友へ向き直った。


「叔父上、半分をお貸しください」

「分かった」

「俺も側面へ回ります」


そして職隆を見る。


「父上は正面を」

「うむ」


職隆が頷く。

高岡を守るための兵が、それぞれの持ち場へ散っていく。

松は後方へ向かった。

戦うためではない。

怪我をした者を受け入れるためだ。

随願寺から来た僧たちも、松のもとへ集まる。


「僧兵の半数を各地へ」

「負傷兵を見つけたら、後方へ運んでください」

「うちの兵も同じように」

「女衆は訓練通りに」

「随願寺のお坊様方は、女衆について手伝ってください」

「承知いたしました」


松はさらに、一人の男へ目を向けた。


「あなたたちは別に頼みがあります」

「はっ」

「山に入っている官兵衛の手勢と、密に連絡を取って」

「承知しました」

「動きに変化があれば、すぐに知らせてあげて」

「はっ」


男は一礼すると、その場を離れていった。

松は高岡の外へ目を向けた。

遠くから、赤松の軍勢が近づいている。


「……来たわね」


いよいよ、高岡の戦が始まる。



高岡の各所で、兵たちがそれぞれの持ち場へ散っていく。

正面には職隆。

側面には高友と官兵衛。

そして後方には、松と救護の者たち。

遠くでは、赤松の旗が谷道の向こうに見え始めていた。


「姫様」


はるが声をかける。


「なに?」

「救護の用意、整いました」

「そう」


松は後方へ目を向ける。

女衆が布や水、薬などを並べている。

僧たちも、その手伝いに入っていた。

これなら、怪我人が出てもすぐに動ける。

松は小さく息を吐いた。


「あとは、皆に任せるしかないわね」


そのとき、山へ向かった男が戻ってきた。


「姫様」

「どうしたの?」

「官兵衛様の手勢、まだ谷道にて敵を止めております」

「そう」


松は高岡の外へ目を向けた。

まだ戦は始まっていない。

だが、もうすぐ始まる。


「なら、私たちも準備しておきましょう」


松は後方の者たちへ向き直った。


「誰かが怪我をしたら、すぐに運んできて」

「はい」

「敵が来ても、慌てないこと」

「承知しました」


松はもう一度、前方を見る。

赤松の軍勢が、少しずつ近づいている。

高岡の土塁の上では、黒田の兵が弓を構え始めていた。


「……さあ」


松は静かに呟いた。


「始まるわよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。