第二話 高岡合戦 赤松政秀軍 先鋒隊宇野SIDE 高岡へ
山間の谷道を、赤松の兵八百ほどが進んでいた。
先頭に立つのは、宇野政頼。
「このまま進め」
「はっ!」
高岡までは、そう遠くない。
そう思っていた。
だが――。
「止まれ!」
先頭の兵が声を上げた。
道の先に、倒木が横たわっている。
「なんだ、これ」
「道を塞いでおります!」
政頼は馬上から倒木を見た。
「退かせろ」
「はっ!」
兵たちが倒木をどかし始める。
その間にも、後ろから次々と兵が詰まってくる。
「……」
政頼は周囲の山を見上げた。
ただの倒木にしては、出来すぎている。
「進めばいい」
頼久はそう命じた。
だが、これが始まりだった。
倒木を退かし、兵たちは再び谷道を進み始めた。
だが、しばらくもしないうちに、また先頭が止まる。
「どうした!」
「道が分かれております!」
兵が前へ出る。
一本道だったはずの谷道から、細い枝道がいくつも伸びていた。
「どちらだ?」
「こちらかと」
兵の案内で進む。
だが――。
「止まれ!」
その先は行き止まりだった。
「……戻るぞ」
来た道を引き返す。
その途中、山の中から矢が飛んできた。
「伏兵だ!」
兵たちが身構える。
だが、姿は見えない。
何本かの矢が飛んできただけで、すぐに静かになった。
「追うな!」
政頼が叫ぶ。
「進め!」
また兵が動き出す。
だが、道を塞ぐ倒木。
枝道。
伏兵。
そのたびに足を止められる。
「……またか」
政頼は苛立ちを隠せなかった。
敵は大きな戦を仕掛けてこない。
ただ、こちらの足を止めている。
「時間を使わせているのか……」
政頼はそう呟いた。
高岡へ近づいている。
だが、思うように進めない。
それでも、兵を止めるわけにはいかなかった。
「構わん。確実に進め」
政頼は前を向いた。
「一つずつ抜けていけばいい」
谷を抜ける。
それまで何度も足を止められていた兵たちだったが、ようやく道が開けた。
「……抜けたか」
政頼が前方を見る。
その先に、高岡が見えた。
堀。
土塁。
そして、その上に立つ黒田の旗。
「あれが高岡か」
政頼は目を細めた。
思ってたよりも、守りが整っている。
ただの荷場ではないようだ
周囲の地形も含めて、守るために手が入れられている。
「黒田め……」
政頼は高岡を見つめた。
ここまで来るだけでも、かなりの時間を使った。
だが、ここで止まるわけにはいかない。
「兵を整えろ」
「はっ!」
政頼は高岡の正面を見据える。
正面から黒田を引きつける。
その間に、別働隊を回せばいい。
「頼久」
呼ばれて、武将が前へ出る。
「はっ」
「お前に三十使わせる」
「三十でございますか」
「うむ」
政頼は高岡の北側へ目を向けた。
「山裾を進め」
「高岡の北へ回り、火をかけろ」
「その間、我らは正面から黒田を引きつける」
「承知いたしました」
三十の兵が分かれていく。
政頼はその背中を見送った。
「これで高岡の気を散らせる」
そして、正面の高岡へ向き直った。
「我らも進むぞ」
高岡の正面で、赤松の兵が動き始めた。
「進め!」
兵たちが前へ出る。
政頼は高岡の土塁を見据えていた。
だが、しばらくしても北側へ回した三十から報告が来ない。
「……まだか」
政頼は苛立ったように呟いた。
「政頼様」
伝令が駆けてくる。
「何だ」
「北へ回した頼久様の兵ですが……」
「どうした」
伝令は息を整える。
「三十、討ち死ににございます」
「……」
政頼の顔から表情が消えた。
「三十が?」
「はい」
高岡の北側にも、黒田の備えがあった。
火をかけるどころか、近づくことすら許されなかったらしい。
「……黒田め」
政頼が高岡を睨む。
そのとき、別の伝令が駆けてきた。
「申し上げます!」
「今度は何だ」
「高岡の北東より、小寺の本隊がこちらへ向かっております!」
政頼は目を見開いた。
「小寺が……」
そして、すぐに判断する。
「来たか」
このまま戦えば、正面には高岡。
その後ろからは小寺本隊。
しかも、政秀の本隊とは離れている。
「政秀様へ伝令を出せ」
「はっ!」
「小寺本隊が来たと伝えろ」
伝令が駆けていく。
だが、待てども返事は来ない。
「……まだか」
時間だけが過ぎていく。
政頼は再び伝令を呼んだ。
「もう一度送れ」
「はっ!」
だが、やはり返事は来ない。
政頼は高岡を見た。
その向こうからは、小寺の旗が近づいている。
「……もう無理だ」
政頼は決断した。
「撤退する」
「はっ!」
赤松の兵たちは、来た谷道を引き返し始めた。
赤松の兵たちは、来た道を引き返していく。
谷道の入口へ向かう足取りは、来たときよりも速かった。
政頼は何度も後ろを振り返る。
高岡の土塁の向こうから、黒田の旗がこちらを見ている。
そして、そのさらに北東。
小寺の本隊が近づいていた。
「……高岡を目前にして、退くことになるとはな」
誰に言うでもなく、政頼は呟いた。
だが、これ以上ここに留まるわけにはいかない。
政秀の本隊と合流しなければならない。
「急げ!」
赤松の兵が谷道に向かっていく。




