第一話 高岡合戦 政秀SIDE 龍野 1563年夏の終わり
龍野城。
1563年、夏の終わり。
赤松政秀は、広間に集められた兵を眺めていた。
二千五百。
これだけの兵を動かすのは、それなりの覚悟がいる。
だが、今ならばやる価値がある。
高岡ができてからというもの、小寺方の動きが変わった。
周辺の砦が次々と小寺方の手に落ち、こちらの勢力は少しずつ押し込まれている。
このまま高岡を放っておけば、さらに厄介なことになる。
政秀は地図へ目を落とした。
「まずは高岡だ」
指が高岡の位置を示す。
「あれを焼く」
そして、そのまま西へ進む。
「その後、姫路を取る」
そこまで言うと、政秀は立ち上がった。
「出るぞ」
こうして二千五百の兵が、龍野を出陣した。
目指すは高岡。
その先にある姫路だった。
山道を進む。
赤松の旗を掲げた二千五百の兵が、山間の道を抜けていく。
政秀は馬上から前方を見ていた。
「もうすぐ山を抜けるな」
「はい」
やがて木々の向こうに明るい空が見えてきた。
山を抜ける。
その先に広がっていたのは、青山だった。
政秀は馬を止める。
「……」
周囲を見渡す。
小寺の兵も。
黒田の兵も。
まだ見えない。
「敵の姿がないな」
「はい」
ここまで来れば、そろそろ敵と遭遇してもおかしくない。
政秀がそう考えていると、前方から物見の兵が駆け戻ってきた。
「申し上げます!」
「言え」
「黒田は、いまだ高岡におります」
「黒田が?」
「はい」
政秀は眉を寄せた。
「小寺は?」
「まだ御着を出ておりません」
政秀はしばらく黙っていた。
そして、ふと口元を緩める。
「……在田襲撃が効いたか?」
先日の在田への襲撃。
その対応に小寺の兵が足を取られているのだろう。
黒田も高岡から動けていない。
小寺の援軍も、まだ来ない。
政秀は高岡の方角を見た。
「好機だ」
政秀は地図を取り出した。
「高岡へ向かうなら、山を回るか」
家臣が頷く。
「はい。ですが、その道では時間がかかります」
「そうだな」
政秀は地図を眺める。
高岡へ向かうには、山を迂回する道もある。
だが、それでは小寺が兵を出す時間を与えてしまう。
「菅生川沿いを南へ進む」
「夢前川を渡るおつもりですか?」
「ああ」
政秀は迷わなかった。
「渡河するぞ」
軍勢は菅生川に沿って南へ進んだ。
やがて夢前川が見えてくる。
「渡河の準備をせよ」
「はっ!」
兵たちが川へ入り、次々と対岸へ渡っていく。
二千五百の兵が渡河を終えるまで、政秀はじっと周囲を警戒していた。
だが、敵は現れない。
「小寺はまだか」
そこへ、再び物見が駆けてきた。
「申し上げます!」
「どうした」
「小寺の軍は、いまだ御着を出ておりません」
「黒田は?」
「高岡にて兵を集めつつあります」
政秀は川の向こうへ目を向けた。
「……黒田が動き始めたか」
それでも、小寺の軍はまだ来ていない。
政秀は地形を見渡した。
「ならば、急がねばならぬ」
山を大きく迂回している時間はない。
「このまま進む」
「はっ」
政秀は高岡の方角へ目を向けた。
「黒田が兵を整える前に、高岡へ届くぞ」
夢前川を渡り終えた政秀は、周囲の地形を見渡した。
「……山を迂回している時間はないな」
高岡までの道を考える。
このまま山を回れば、安全ではある。
だが、その間に小寺の軍が御着を出れば、高岡で黒田と合流される。
そうなれば、二千五百の兵だけで高岡を攻めるのは難しくなる。
「ここで兵を分ける」
政秀の言葉に、家臣が顔を上げる。
「五百をここに置け」
「北周りの守りにございますか?」
「うむ」
「残りは?」
「先鋒として進ませる」
政秀は前方へ目を向けた。
そこには、山間を抜けて高岡へ続く道がある。
「この整えられた谷道を使う」
「はっ」
「先鋒は高岡へ向かえ」
政秀は地図を広げた。
「本陣はここだ」
指で渡河地点を示す。
「この場所に本陣を置く」
「承知いたしました」
「五百は本陣のその北を守り、残りは先鋒に続かせる」
政秀は高岡の方角を見た。
黒田は、まだ高岡にいる。
小寺は、まだ御着を出ていない。
ならば、今しかない。
「急げ」
先鋒の兵が動き始める。
整えられた谷道を、赤松の兵が次々と進んでいく。
政秀はその背中を見送った。
「高岡を焼くぞ」
先鋒の兵たちは、谷道を進んでいく。
その後ろでは、本陣が渡河地点を固めている。
五百の兵も、命じられた場所へと散っていった。
政秀は馬上から、高岡のある方角を見つめていた。
「黒田はまだ高岡にいる」
「はい」
「小寺はまだ動いていない」
「そのようです」
政秀は静かに頷いた。
「ならば、先に高岡を取る」
先鋒の旗が、谷道の先へと消えていく。
政秀も馬を進めた。
「高岡を焼き、姫路まで一気に取るぞ」
赤松の軍勢は、高岡へ向けて進み始めた。




