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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
伏龍松姫

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第十話 ティータイム

 戦果を高岡へ運び終え、荷の整理も一段落した。

 私はそろそろ砥堀へ戻ることにした。

 今回の仕事は終わった。

 あとは官兵衛たちに任せればいい。


 そう思っていたのだが――。


「官兵衛」

「はい?」

「私、帰るけど……その前にティータイムでもしますか?」

「……てぃーたいむ?」


 官兵衛が首を傾げる。


「なんですか、それは?」

「お茶の時間よ」

「それは分かりますが……」


 私は少し考える。


「二人で、軍議よ要は、」

「二人だけで?」

「ええ」


 私は高岡の荷場を見回した。

 人夫が荷を運び、兵たちが武器を整理している。

 ここで話をしていても、落ち着いて話せそうにない。


「少し静かなところで、お茶でも飲みながら話しましょう」

「……分かりました」


 官兵衛が頷いた。

 私たちは荷場から少し離れた場所へ移動した。

 茶を用意してもらい、向かい合って座る。

 湯気の立つ茶を一口飲む。


「ふう……」

「姉上は、本当に変わった言葉を使われますな」

「いいじゃない。意味が分かれば」

「まあ……そうですが」


 官兵衛も茶を口にする。

 私はその様子を見ながら、少し間を置いた。

 今回の戦いは終わった。


 けれど――。

 これで全部終わったわけではない。


「それでね、官兵衛」

「はい」

「今後どうするつもりなのか、聞いておきたいの」


 官兵衛の表情が少し変わった。


「今後、と申しますと?」

「今回のことよ」


 私は茶碗を置く。


「一つの砦への補給が、今回で切れたでしょう?」

「……はい」

「なら、あの砦はかなり苦しくなる」

「そうでしょうね」

「おそらく――」


 私は官兵衛を見る。


「あの砦は落とせるでしょうね」


 官兵衛は少し考えた。


「私も、そう考えています」

「なら、その次よ」

「次……」

「ええ」


 私は静かに尋ねた。


「その砦が落ちたら、赤松の政秀はどう考えるかしら?」


 官兵衛は茶碗を置いた。


「……高岡を危険視するでしょうね」

「やっぱり?」

「今回、敵の補給を断てたのは、高岡があるからです」


 官兵衛は地図を広げた。


「ここから前線へ兵糧や矢を送り込める。こちらの砦が落ちにくくなっただけではありません」


 官兵衛が、敵の砦を指す。


「姉上が今回襲ったように、敵の補給路へ兵を出すこともできる」

「つまり?」

「赤松方からすれば、高岡を放置するほど戦いが不利になる」

「でしょうね」


 私は頷いた。


「なら、高岡そのものが攻略目標になるわね」

「おそらく」


 官兵衛は地図を眺めた。


「敵が高岡を落とせば、こちらの前線への補給も止まります」

「なら、どう守るの?」

「…………」


 官兵衛は地図の上に指を置いた。


「まず、ここです」


 高岡から少し離れた場所を指す。


「敵がこちらへ向かってくるなら、いきなり高岡まで入らせるつもりはありません」

「ここで迎え撃つ?」

「はい。敵の動きを見ながら、前方で兵を消費させます」


 官兵衛はさらに指を動かした。


「ただし、大軍が来た場合は無理に戦いません」

「退くのね」

「ええ」

「どこまで?」


 官兵衛の指が高岡へ戻る。


「ここまで」

「高岡を最終防衛線にする?」

「そうです」


 私は地図を覗き込んだ。


「つまり、前で敵の勢いを削って、駄目なら高岡へ下がる」

「はい」

「高岡では?」

「荷場を守りながら戦います」

「荷場を?」

「高岡を取られれば、こちらの前線は支えられません。ですから、最後まで守る必要があります」

「なるほど」


 私は頷いた。


「でも、荷場だけ守っても仕方がないでしょう?」

「はい」


 官兵衛は少し考えてから答える。


「高岡の西の谷の南北の山にの周囲に兵を置きます。敵が一方向からだけ攻めてくるとは限りませんから」

「川側は?」

「そこも見ます」


 私は官兵衛の話を聞きながら、地図を眺める。

 どうやら、官兵衛なりに高岡を守る形を考えているらしい。


「それで?」

「はい?」

「敵が 千、二千と来たら?」


 官兵衛は少し黙った。


「その場合は、高岡だけで受け止めるつもりはありません」

「なら?」

「援軍を呼びます」

「どこから?」

「御着へ知らせるのと――」


 官兵衛が少し考える。


「砥堀にも知らせる必要があるでしょう」


 私はそこで笑った。


「そう。そこまで考えているのね」

「当然です」


 官兵衛は地図を畳み始めた。


「高岡を守るだけなら、兵を集めればいい。しかし、ここを守りながら前線も維持するなら、援軍の手配まで考えておかなければなりません」

「うん」


 私は茶を一口飲んだ。


「分かったわ」

「何がです?」

「どう守るつもりなのか、聞いておきたかったの」


 私は笑った。


「それなら、養父に共有しておいてあげるわ」

「高友殿に?」

「ええ」


 私は頷いた。


「高岡が狙われる可能性があるなら、砥堀にも知っておいてもらったほうがいいでしょう?」

「助かります」

「それに――」


 私は茶を置いた。


「こちらから出せる兵の数も伝えておくわ」

「兵の数ですか?」

「ええ」


 官兵衛が少し身を乗り出す。


「今回、姉上が連れてこられたのは三十ほどでしたよね」

「そうよ」

「それでも、かなりの働きでした」

「今回はそれだけで十分だったもの」


 私は何でもないことのように答える。


「でも、必要になればもっと出せるわ」

「どれほどです?」

「養父なら――」


 私は少し考えた。


「五百くらいは連れてこられると思うわ」

「……五百」


 官兵衛の動きが止まった。


「ええ」

「砥堀から、五百ですか?」

「そうよ」

「それほどの兵を……」


 官兵衛はしばらく黙っていた。


「養父は、そうなったときのために兵を整えているから」

「高岡が攻められることを、すでに想定しておられる?」

「まあ、私がこれだけ銭を生んでいるもの」


 私は笑った。


「その銭で兵を雇って、兵を増やしてきたのだから。いざというときに使わなかったら、何のために増やしたのか分からないでしょう?」

「なるほど……」


 官兵衛は地図へ目を落とした。


「では、もし高岡が攻められた場合――」

「養父には、あなたの考えている防御の仕方をそのまま伝えるわ」

「私の構想を?」

「ええ」


 私は頷いた。


「どこで敵を迎え、どこまで下がり、最後は高岡でどう守るつもりなのか」

「それを高友殿に?」

「そうよ」

「そして、砥堀から援軍を出せる兵数も……」

「五百くらい、とね」


 官兵衛は少し考えた。


「それなら、かなり心強いです」

「でしょう?」


 私は茶を飲み干した。


「だから、私はもう帰るわ」

「はい」


「今日聞いたことは養父に伝えておく」

「ありがとうございます、姉上」


 私は立ち上がった。

 高岡の荷場を見る。

 今日ここへ持ち帰った武器と兵糧。

 それを使って、また兵が戦う。

 そして、この高岡そのものも、いずれ敵に狙われる。

 だからこそ、今のうちに互いの考えを知っておく必要がある。


「官兵衛」

「はい?」

「戦は、勝ったところで終わりじゃないわよ」

「……はい」

「今回の勝ちが、次の戦を呼ぶこともある」


 私は高岡を見た。


「だから、次に何が起きるのかを考えておきなさい」

「肝に銘じます」

「よろしい」


 私は笑った。


「では、私は帰るわね」

「お気をつけて」


 こうして、私は高岡を後にする。

 その日の茶の席で交わした話が、やがて本当に役立つことになるとは――。


 このときの私は、まだ知らなかった。



今回は、砥堀でどれくらいの米が取れるのか、少し計算してみました。

現在の姫路市砥堀の行政区域は約621haあります。ただし、これは山林や道路、集落なども含んだ面積なので、戦国時代の砥堀がすべて田んぼだったわけではありません。


そこで、戦国期にはそのうち15%前後の約110ha、つまり約1,100反ほどが水田として利用されていたと仮定しました。

現代の水稲は、1反(10a)あたりおよそ550kg前後の玄米が取れます。これは昔の単位に直すと、おおむね3.6石ほどになります。

もちろん、戦国時代に現代と同じ収量が出るわけではありません。


そこで作中では、

「従来の農法では一反あたり0.7~1石程度」

「塩水選、正条植え、有機肥料などを取り入れる」

「長年の改良によって1反あたり1.2石前後」


というくらいを一つの目安として考えています。

1,100反で一反1.2石なら、

**1,100反 × 1.2石 = 約1,320石**

となります。


1石は体積の単位なので単純に重量へ変換することはできませんが、米の重量として考えるなら、おおよそ150kg前後という目安があります。

つまり1,320石なら、単純換算で約198トン。


もちろん、これは「収穫した米が全部領主のものになる」という意味ではありません。農民が食べる米、翌年の種籾、年貢、備蓄などがあります。

それでも、松姫が九年間かけて肥料、水利、種籾の選別、植え方などを少しずつ改良してきた結果として、


**「以前より明らかに多くの米が取れるようになった砥堀」**


という設定にはできるかなと思っています。

現代農業と比べればまだまだ低い収量ですが、戦国時代の土地で「知っている農法を一つずつ試していく」という形なら、このくらいが物語としてちょうどいいかな、と。


また、作中で**「500人もの兵を動員できるのか?」**と疑問に思われる方もいるかもしれません。


これは、松姫が農業だけを行っているわけではなく、**酒、絹、真綿、布団、漆器、石鹸などの産業も育てている**という設定で考えています。

そのため、兵を維持するための費用を米だけで賄うのではなく、**農業による米の収入と、産業によって得られる銭の両方を使って賄える人数**として、500人という規模を設定しています。


つまり、松姫が九年間で作ってきたのは単なる「よく米が取れる村」ではなく、**米を生産し、加工し、商品を作り、それを銭に変えることのできる土地**です。


なお、石高は実際の収穫重量そのものではなく、土地の生産力を米の量で表したものなので、ここでの計算はあくまで作中設定を考えるための概算です。


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