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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
伏龍松姫

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第九話 戦果の使い道

 高岡へ戻ると、荷場にいた者たちが一斉にこちらを見た。

 私たちが持ち帰った荷の量が、それなりに多かったからだ。


「姉上?」


 官兵衛がこちらへやってくる。


「戻ったわよ」

「はい。それで……」


 官兵衛は、次々と運び込まれていく荷を見て目を見開いた。


「これは……」


 槍の穂先。

 刀。

 矢じり。

 そして兵糧。

 さらに、敵が砦へ運ぶはずだった荷がある。


「かなりの戦果ですね」

「ええ」


 私は頷いた。


「敵の補給隊を襲ったから、このくらいはあるわ」


 官兵衛は荷を一つずつ確認していく。


「矢じりもこれだけ……」

「使えるものは使えばいいでしょう?」

「はい。これは高岡の兵に回せます」


 官兵衛の顔が、少し嬉しそうになる。

 どうやら、私の判断は間違っていなかったらしい。

 その横では、武兵衛についてきた地侍たちも荷を下ろしていた。


「皆、此度はよくやってくれた」


 官兵衛が彼らを見る。


「敵の補給を断ち、これだけの戦果を得たのだ。褒美を出そう」

「ありがたき幸せ!」


 地侍たちが頭を下げる。

 官兵衛は一人ずつ、その働きに応じて褒美を渡していく。

 私は少し離れたところから、それを眺めていた。

 武兵衛たちは、自分たちの働きが認められたことを喜んでいる。

 まあ、それは当然だろう。

 戦場に出て、命を懸けたのだ。

 何もないというわけにはいかない。

 やがて、官兵衛が私のところへやってきた。


「姉上にも、何か褒美を――」

「別にいらないわ」

「しかし……」

「いらないものはいらないわよ」


 私は首を振った。


「私の兵たちに、何かもらえればそれでいいわ」

「兵たちに、ですか?」

「ええ」


 私は、少し離れたところで休んでいる自分の兵たちを見る。


「私についてきてくれたんだから、その者たちに何かしてあげて」


 官兵衛は少し考えたあと、頷いた。


「分かりました」

「それより――」


 私は官兵衛を見る。


「官兵衛」

「はい?」

「あなたの側近の武兵衛がね」

「はい」

「主君にとって最大の戦果を優先しようとしなかったわ」


 官兵衛の表情が止まった。


「…………」

「どういう教育をしているのかしら?」


 官兵衛は何も言わない。

 私は武兵衛へ目を向けた。


「武兵衛は、首を取ろうとしたのよ」

「……はい」

「首を持ち帰れば武功になるからと」


 官兵衛の顔が、少し険しくなる。


「なるほど……」

「でもね」


 私は、先ほど運び込んだ戦果を指した。


「こっちのほうが、あなたにとって価値があるでしょう?」


 槍の穂先。

 刀。

 矢じり。

 兵糧。


「これだけあれば、高岡の兵の装備を整えられる」

「はい」

「兵糧があれば、その分だけ兵を食べさせられる」

「はい」

「なら、首を一つ持って帰るより、こっちを持って帰ったほうがいい」


 官兵衛は戦果を見つめた。


「……おっしゃる通りです」

「でしょう?」


 私は頷いた。


「なのに、あなたの側近は首を取ろうとした」

「…………」

「あなたの家臣が、自分の武功を優先するような教育を受けているのなら問題よ」


 官兵衛の顔が少し険しくなる。


「武兵衛は――」

「まあ、武兵衛だけを責めるつもりはないわ」


 私は言葉を遮った。


「戦国の武士なら、首を取って武功にしたいと思うのも分かるもの」


 武兵衛が少し顔を伏せる。


「でも、あなたは違うでしょう?」


 官兵衛を見る。


「高岡を作った意味も知っている」

「はい」

「ここが前線を支える場所だということも知っている」

「はい」

「なら、何を持ち帰れば一番得なのか、考えれば分かるでしょう?」


 官兵衛はしばらく黙っていた。


「……姉上の言いたいことは分かりました」

「ならいいわ」


 そのときだった。


「若がそんなはずありません!」


 突然、横から声が飛んできた。

 私はそちらを見る。

 一人の若い足軽が、官兵衛の前へ出ていた。


「…………」

「若は、誰よりも黒田のことを考えておられます!」


 私はしばらく、その若者を見た。


「……誰?」


 官兵衛が少し困ったように答える。


「最近、使え始めた者です」

「名前は?」

「善助です」

「ふーん」


 私は善助を見る。

 若い。

 まだ足軽になったばかりといったところだ。


 そして何より――。

 今、官兵衛と私が話している。

 その間に、許しもなく割って入ってきた。


「善助、と言ったわね」

「はい!」

「あなた、今の話を聞いていたの?」

「はい!」

「なら、どうして口を挟んだの?」

「若を侮られたと思ったので!」


「…………」


 私は善助を見つめる。

 忠義はある

 それは分かる。


 だが――。


「ちょっと、こっちへ来なさい」

「はい?」


 善助が一歩近づく。

 私はその足元へ目を落とした。


 そして――。

 こつ。


「痛っ」


 善助のすねを、足先で軽く蹴った。


「な、何を……」


 こつ。


「痛っ!」

「主君とその姉が話しているところへ、勝手に割って入らない」

「ですが……」


 こつ。


「痛い!」


 私は善助を見上げる。


「忠義と無礼は別でしょう?」

「…………」


 善助が固まった。

 官兵衛は、何とも言えない顔をしている。


「姉上……」

「なに?」

「その辺で……」

「まだ三回しか叱ってないわよ」

「三回もです」

「細かいわね」


 私は善助から離れた。


「まあ、忠義があることだけは分かったわ」


 善助は、すねを押さえながらこちらを見る。


「……ありがとうございます」

「でも、それだけじゃ駄目よ」


 善助が顔を上げる。


「主君を守りたいなら、主君の邪魔をしないことも覚えなさい」

「…………はい」


 私は官兵衛を見る。


「あなたの側近もそうだけど、家臣は主君のために動くものよ」


 官兵衛が黙って頷く。


「自分がどう評価されるかより、主君に何が必要なのかを考える」


 私は善助を見る。


「それができるようになってから、口を挟みなさい」

「はい……」


 善助は小さく頭を下げた。

 私は官兵衛へ視線を戻した。


「まあ、善助についてはこれからね」

「……そうですね」


 官兵衛は苦笑した。

 私は善助を見る。

 まだ若い。

 忠義があるのは分かった。

 けれど、忠義だけでは家臣は務まらない。


「善助」

「はい」

「今の話、分かった?」

「はい」

「なら、次から気をつけなさい」

「承知しました」


 善助が頭を下げる。

 私はそれを確認すると、官兵衛へ向き直った。


「それにしても、黒田本家はずいぶん人材が豊かなのね」

「……どういう意味です?」

「この前、蔵の銭を空にするのかって小言を言われたばかりでしょう?」

「…………」

「それなのに、こんな若い足軽を雇っている余裕があるんだもの」

「姉上、それは善助のことを言っているのですか?」

「そうよ」

「善助は――」


 官兵衛が何か言いかける。

 私は手を上げて止めた。


「まあ、いいわ」


 私は荷場へ目を向ける。

 先ほど運び込んだ武器や兵糧が、すでに仕分けされ始めている。

 矢じりはまとめられ、槍の穂先も数えられている。

 兵糧も高岡の蔵へ運ばれていく。


「これで高岡の軍備は少し良くなるでしょう?」

「はい」


 官兵衛が頷く。


「大変助かります」

「なら、それでいいじゃない」


 私は武兵衛を見る。


「武兵衛も、これで分かったでしょう?」

「はい」

「首を持ち帰らなくても、主君の役に立つ戦果はあるのよ」

「肝に銘じます」


 武兵衛が頭を下げた。

 私は満足して頷く。


「よろしい」


 官兵衛が苦笑する。


「姉上は、戦場から戻ってきても家臣の教育までされるのですな」

「だって、放っておいたら困るでしょう?」

「誰がです?」

「あなたが」

「……私が?」

「そうよ」


 私は荷場を指した。


「高岡を作って、補給を整えて、ようやくここまで来たのでしょう?」

「はい」

「なら、ここで働く人間にも、それに見合った考え方をしてもらわないと」


 官兵衛は少し黙った。

 そして、静かに頷く。


「……確かに」

「でしょう?」


 私は笑う。

 高岡は、ただ荷を置く場所ではない。

 兵を食わせ、武器を揃え、前線へ物を送り出す。

 そして、敵の補給を奪い、それをこちらの力へ変える。

 今日持ち帰ったものも、そのために使われる。

 私は積み上げられた戦果を見る。


「さて」

「はい?」

「次は、この戦果をどう使うかね」


 官兵衛が荷場へ目を向ける。


「まずは武器を整え、兵糧を数えます」

「そうね」


 私は頷いた。


「それから、また敵の荷が来るでしょう?」

「……また狙うおつもりですか?」

「もちろん」


 官兵衛が苦笑する。


「姉上らしいですな」

「だって、一度うまくいったんだもの」


 私は高岡の先に続く道を見る。


「二度目も上手くいくとは限らないけれど――」


 私は笑った。


「やってみなければ分からないでしょう?」


 こうして、高岡には初めての敵から奪った戦果が蓄えられた。


 そして私はまだ知らなかった。

 この小さな中継地が、これから少しずつ――。


 **戦場そのものを動かす場所になっていくことを。**


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