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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
伏龍松姫

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第八話 戦果

 二度目の襲撃が終わると、辺りには静寂が戻っていた。

 先ほどまで兵たちが駆け回っていた道には、倒れた敵兵と、途中で放棄された荷が残っている。

 私は周囲を見渡した。


「……結構、死んだわね」


 武兵衛も周囲を見ながら答える。


「この狭い道で、前後から挟撃しましたからな」

「そうね」


 逃げ道の少ない場所で、前と後ろから同時に攻撃した。

 敵にとっては、かなり厳しい状況だっただろう。


「二度目も、かなり討てたわね」

「はい」


 武兵衛が頷く。


「負傷した者を抱えて戻ろうとしていた者もおりましたから」

「ああ……」


 私は先ほどの光景を思い出した。

 一度目の襲撃で倒れた仲間を助けようとしていた。

 荷の状態を確かめ、負傷者を連れて帰ろうとしていた。

 そこへ、こちらが再び襲いかかったのだ。


「それなら、なおさらでしょうね」


 私は倒れた兵たちを見る。

 戦場とは、こういうものなのだろう。

 誰かを助けようとする者まで、戦いに巻き込まれる。

 私はしばらく黙っていた。

 だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。


「さて」


 私は立ち上がる。


「戦果を確認しましょう」

「はい」


 兵たちが動き始める。

 置き去りにされた荷駄。

 兵糧。

 矢。

 そして、先ほど隠した武器。

 槍の穂先。

 刀。

 矢じり。

 持ち帰れるものを一つずつ確認していく。


「これは高岡へ持って帰れるわね」

「はい」


 武兵衛も荷を確認している。

 すると、彼が刀を抜いた。


「では、首を――」

「……待って」


 私は武兵衛を見る。


「首なんか持ち帰らないわよ」

「ですが……」


 武兵衛は少し困った顔をした。


「武功になりません」

「武功?」


 私は首を傾げた。


「首を取ると、武功になるの?」

「はい」

「持って帰ったらどうなるの?」

「褒美がございます」

「どれくらい?」


 武兵衛は少し考えてから答えた。


「まあ……銭が数貫ほどもらえるかと」

「ふーん……」


 私は周囲を見渡した。


 そして、少し考える。


「あなた」

「はい」

「その銭、誰が出すの?」


 武兵衛は一瞬、言葉に詰まった。


「……若が」

「若って、官兵衛?」

「はい」

「官兵衛が褒美を出すの?」

「いえ。若から主君へ申し上げて、褒美をいただくことになるかと」

「ふーん……」


 私は少し考えた。

 首を取る。

 それを持って帰る。

 武功として認めてもらう。

 そして褒美として銭をもらう。

 なるほど。

 そういう仕組みなのか。


「でも」


 私は、足元に置かれた荷を見る。

 そこには、先ほど奪った兵糧がある。

 さらに、その横には集めた槍の穂先や刀が並べられている。


「官兵衛は、首をもらって嬉しいかしら?」

「……」


 武兵衛が黙る。


「それより、こっちのほうが喜ぶでしょう?」


 私は槍の穂先を指した。


「なぜです?」

「これ、高岡で使えるもの」


 私は兵糧を見る。


「こっちは兵糧」


 そして、矢じりを見る。


「これも使える」

「……確かに」

「首は一つ」


 私は倒れている敵兵を見る。


「でも、こっちは高岡の兵を強くできる」


 武兵衛は、集められた戦果を見つめた。


「首を持ち帰れば、武功になる」

「ええ 大物ならね」

「しかし、武器や兵糧を持ち帰っても、個人の武功にはなりにくい」

「そういうことね」


 私は頷いた。

 どうやら戦国の武士にとっては、首を持ち帰ることにも意味があるらしい。


 けれど――。


「あなた、直臣なのでしょう?」

「はい」

「なら、主君が最大に喜ぶことを優先した方がいいわよ」

「主君が……」

「ええ」


 私は高岡の方角を見る。


「官兵衛が欲しいのは、首かしら?」

「…………」

「それとも、高岡の軍備が良くなることかしら?」


 武兵衛は答えなかった。

 だが、しばらく考えたあと、ゆっくりと頷いた。


「……後者でしょうな」

「でしょう?」


 私は笑った。


「なら、今日は、首なんていらないわ」


 私は、集められた武器と兵糧を見る。


「首を持って帰る余裕もないでしょう?」

「……確かに」


 武兵衛は苦笑した。


「これだけの荷を運ぶだけでも、人手が要りますからな」

「でしょう?」


 私は槍の穂先を指す。


「これも高岡で使える」


 次に矢じりを見る。


「これも」


 そして兵糧を見る。


「兵糧だって、兵が食べる」


 私は武兵衛を見る。


「首を一つ持って帰るより、こっちを持って帰ったほうが、官兵衛は喜ぶでしょう?」

「はい」


 武兵衛は頷いた。


「それに、あなたが数貫の銭をもらうために、主君が銭を出すのでしょう?」

「……はい」

「なら、その銭を出させるより、今ここにあるものを持って帰ったほうがいいじゃない」

「……なるほど」


 武兵衛は、改めて戦果を見渡した。


「首を取ることより、主君の軍備を整えることを優先する」

「そういうこと」


 私は頷く。


「あなた、直臣なのでしょう?」

「はい」

「なら、自分の武功より、主君が最大に喜ぶことを優先したほうがいいわよ」


 武兵衛はしばらく黙っていた。


 そして、刀を鞘へ戻した。


「……首は取りません」

「ええ。それでいいわ」


 私は兵たちを見る。


「隠した武器を全部回収して」

「はっ!」

「兵糧も忘れずに」

「承知しました!」


 兵たちが一斉に動き始める。

 草むらから槍の穂先が運び出される。

 隠していた矢じりも集められる。

 刀も、兵糧も、荷駄も。

 ひとつずつまとめられていく。

 私はその様子を眺めながら、高岡のことを考えていた。

 これだけの武器があれば、兵の装備を整えられる。

 兵糧があれば、その分だけ兵を食べさせられる。


 そして何より――。

 今日、敵の砦へ届くはずだった補給は届かない。


「よし」


 荷がまとまった。


 私は立ち上がる。


「これだけあれば十分ね」


「はい」


 武兵衛も頷く。


「では、高岡へ戻りましょう」


 私は兵たちに声をかけた。


「持てるものは全部持って帰るわよ」

「はっ!」


 兵たちが荷を担ぐ。

 私は最後に、誰もいなくなった山道を振り返った。

 首を持ち帰らなくてもいい。

 今日ここで得たものは、すでに十分な戦果なのだから。


「さあ、帰りましょう」


 私たちは高岡へ向かって歩き始めた。



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