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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
伏龍松姫

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第六話 高岡の補給線

 高岡の荷場が完成してから、しばらく経った。

 高岡へ行っていた養父様が砥堀へ戻ってきたとき、その様子を聞かせてくれた。

 どうやら、高岡はうまく機能しているらしい。

 前線の砦へ向かう荷は、いったん高岡に集められる。

 そこで荷を整理し、必要なものをまとめてから夢前川を渡り、山中の砦へ運ぶ。

 以前よりも、ずいぶんと補給が楽になったそうだ。


「それなら……」


 私は考えた。

 高岡を作った。

 前線の砦を支えられるようになった。

 ならば、次にすることは決まっている。


「相手の補給を切りたいわね」


 そう思い、私は兵を率いて高岡へ向かうことにした。

 高岡へ着くと、以前とは様子が変わっていた。

 荷場には人が行き交い、荷駄が並び、矢や兵糧が運び込まれている。


「……本当に大きくなったわね」


 私は思わず呟いた。

 ただの荷置き場として考えていた場所が、今では前線を支える中継地になっている。

 その荷場を取り仕切っている者たちの中に、見覚えのある顔があった。


「姉上?」

「官兵衛」


 弟がこちらへやってくる。

 その後ろには何人かの家臣もいる。

 どうやら、官兵衛とその家臣たちがここを切り盛りしているらしい。


「お久しぶりです」

「ええ。高岡はうまくいっているみたいね」

「はい。おかげさまで、前線への補給も以前よりずっと楽になりました」

「それはよかったわ」


 私は高岡の様子を眺めた。

 荷場。

 人夫。

 荷駄。

 そして、それを管理する武士たち。

 これなら、前線を支えるだけではなく――。


「姉上?」


 官兵衛が私を見る。


「どうしたのです?」

「そろそろ、相手の補給を切りたい頃合いかと思って」

「…………」


 官兵衛の顔が少し固まった。


「そのために、兵を連れてきたのですか?」

「そうですよ」

「姉上が兵を率いて?」

「ええ」


 私は何でもないことのように答えた。


「養父様と一緒に、夜盗の討伐ならもう何度もしていますから」


 官兵衛はしばらく私を見つめた。


「……戦場に立たれるおつもりですか?」

「そのつもりです」

「…………」

「何か問題でも?」

「いえ……」


 官兵衛は少し考えたあと、頷いた。


「分かりました」

「では、お願いいたします」


 どうやら、ようやく私を戦力として認めてくれたらしい。


「では、こちらからも一人」


 官兵衛が後ろを振り返る。


「武兵衛を」


 一人の若武者が前へ出てきた。


「……あら」


 私は顔を見て、すぐに思い出した。


「一年ぶりくらいね」

「はい、姫様」


 武兵衛――母里小兵衛の嫡男。


「お久しゅうございます」

「元気そうね」

「姫様も……」


 武兵衛は私の姿を見て、少し目を見開いた。


「大変お美しくなられました」

「そう?」

「はい」


 そして、少し間を置いてから。


「それに……随分とお背も高くなられましたな」

「?」


 私は武兵衛の隣に立ってみた。


「…………」

「…………」


 目線が、ほとんど同じだった。


「……私、こんなに大きかったんだ」


 毎日自分の身体を見ていると、あまり分からない。

 だが、こうして男の武兵衛と並んでみると、改めて自分の身長がかなり伸びていることに気づく。


「姫様は、立派な御体躯になられました」

「なんだか褒められているのか、よく分からないわね」


 私は苦笑した。

 すると官兵衛が話を戻す。


「では、どういう手はずで動きますか?」

「そうね」


 私は地図の前へ向かった。

 官兵衛が広げた地図には、高岡から前線へ続く道と、その周辺の山々が描かれていた。


「まずは、敵の補給路を知る必要があります」

「偵察は?」

「すでに頼んでおります」

「誰に?」

「こちらに協力してくれる山民たちに」


 官兵衛が地図を指した。


「敵の動きを探ってもらっています」


 私は頷いた。


「なるほど。敵の砦に、どこから荷が入っているのかを調べているのね」

「はい」

「兵糧だけ?」

「いえ。矢や武具、それから人の動きもです」

「それなら、かなり重要ね」


 私は地図を覗き込んだ。

 高岡を作ったことで、こちらの補給は楽になった。

 ならば次は――。


 **相手の補給を切ればいい。**


「敵の補給が通る道が分かったら?」

「そこを襲います」


 官兵衛は即答した。


「真正面から?」

「状況によりますが、兵を出して叩くことになるでしょう」


 私は少し考えた。

 敵の補給隊をこちらから探しに行く。

 それでは、こちらが先に動かなければならない。

 しかも、敵がいつ来るのか分からない。


「……それを待ち伏せで打つのがよさそうね」

「待ち伏せ、ですか?」

「ええ」


 私は地図を指した。


「敵が必ず通る場所が分かるなら、わざわざこちらから探しに行く必要はないでしょう?」


 官兵衛が地図を見る。


「補給隊が通る時刻まで分かれば、先に兵を伏せておく」

「はい」

「そして、通ったところを襲う」

「なるほど……」


 官兵衛は地図を眺めながら考え込んだ。


「確かに、そのほうがこちらの兵を少なくできます」

「でしょう?」


 私は頷いた。


「それに、補給隊なら戦うために来ているわけではないでしょう?」

「護衛はいるでしょうが、砦へ荷を運ぶのが目的です」

「なら、その荷を奪えばいい」


 私は言った。


「敵兵を一人残らず倒す必要なんてないわ」

「…………」

「矢なら矢を奪う。兵糧なら兵糧を奪う」


 私は地図から顔を上げた。


「敵の砦に届かなければ、それでいい」


 官兵衛の表情が変わった。


「……なるほど」

「こちらは高岡から前線へ補給する」


 私は高岡を指す。


「向こうは、その補給を邪魔できない」

「そしてこちらは、向こうの補給を邪魔する」

「そう」


 私は頷いた。


「一度でも補給を切れば、砦の中の兵は困るでしょう?」

「兵糧が減り、矢も減る」

「ええ」

「そして、補給を求めてまた運ぶ」

「その次も待ち伏せすればいい」


 官兵衛が黙った。

 私は少し笑った。


「もちろん、同じ場所で何度も待っていたら、敵も気づくでしょうけど」

「……そこは山民に探ってもらいます」

「そうね」


 私は頷いた。


「敵がどこを通るのか、毎回調べる」

「はい」

「そして、通る場所が分かったら、そこに兵を伏せる」


 官兵衛は地図を見ながら、静かに頷いた。


「これは……かなり有効かもしれません」

「でしょう?」


 私は高岡を見た。

 ここは前線を支える場所として作った。

 ならば、その逆もできる。


 **敵の前線を支える道を断つ。**


「官兵衛」

「はい」

「高岡を作った意味は、前線に荷を送ることだけじゃないわよ」

「…………」

「ここを拠点にして、相手の補給を削るの」


 官兵衛は、しばらく地図を見つめていた。


「……姉上は、最初からそこまで考えておられたのですか?」

「いいえ」


 私は笑った。


「高岡ができたから、今度は何ができるか考えただけよ」


 官兵衛は苦笑した。


「それが姉上らしいところですな」

「何よ、それ」


 そう言いながらも、私は再び地図に目を落とした。


 あとは――。

 敵の補給隊が、どこを通るのか。

 それさえ分かればいい。

 私たちは、山民たちからの報せを待った。

 やがて、一人の男が高岡へ駆け込んできた。


「戻りました」

「ご苦労様です」


 官兵衛が迎える。


「何か分かった?」


 私が尋ねると、男は地図の前に進み出た。


「敵の荷駄が、山向こうの道を通っております」

「どれくらい?」

「荷駄が十数ほど。護衛の兵もおります」

「いつ?」

「明後日の昼過ぎかと」


 私は地図を見る。

 敵の砦へ向かう道。

 しかも、山道に入る前に、いくつかの道が一つに集まる場所がある。


「ここなら……」


 私は指を置いた。


「待ち伏せできるわね」


 官兵衛も地図を見る。


「はい。ここなら逃げ道も限られます」

「なら、ここで待ちましょう」


 官兵衛が頷いた。


「兵を二手に分けます」

「ええ」

「正面から道を塞ぐのではなく、まず先頭を通過させる。その後、後ろを塞ぎ、荷駄を囲む」

「いいと思うわ」


 私は頷いた。


「でも、目的を忘れないで」

「目的?」

「荷よ」


 私ははっきりと言った。


「敵兵を倒すことが目的じゃない」

「……補給を奪う」

「そう」


 矢があるなら奪う。

 兵糧があるなら兵糧を奪う。

 敵の砦に届くはずだったものを、こちらが使えばいい。


「敵の護衛が逃げても、追いすぎないこと」

「分かりました」

「荷を確保したら、すぐ高岡へ戻す」

「承知しました」


 武兵衛も横で頷いている。


「私も参ります」

「ええ。頼むわ」


 私は地図を見る。

 高岡を作った。

 味方の補給を安定させた。

 そして今度は、敵の補給を狙う。


 ただ砦を攻めるよりも、ずっと確実に相手を弱らせられるかもしれない。


「では、明後日夜が明ける前に」

「はい」

「敵の荷駄を待ちましょう」


 官兵衛が頷いた。

 こうして私たちは、初めて――。


**高岡を起点とした補給線への攻撃を始めることになった。**


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