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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
黒田家に居座る

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第十六話 養父の決意

 松を養女に迎えてから、しばらく経った。

 高友は、屋敷の中を歩く松の姿を眺めていた。

 今日もまた、職人を捕まえて何やら話をしている。


「こうしたほうがいいと思うのです」

「しかし、姫様、それでは――」

「では、こちらは?」

「それならば、できるかもしれませぬ」

「では、それでお願いします」


 そんなやり取りを、もう何度見ただろう。

 松が来てからというもの、屋敷の中は以前とは比べものにならないほど忙しくなった。

 職人が出入りする。

 商人も来る。

 新しい品が作られる。

 そして――銭が入る。


「……まったく」


 高友は思わず笑った。

 自分が養女にした娘は、まだ八歳だ。

 それなのに、家の者よりも家のことを考えているように見える。

 先日は養蚕まで始めると言い出した。

 真綿を大量に作り、布団にして売るという。

 どこまで大きくするつもりなのやら。


 だが――。

 高友には、一つだけ気になっていることがあった。


「婿は取りたくない、か……」


 先日の松の顔を思い出す。

 高友が「婿は取ってもらうだろう」と言ったとき。

 松は、それはもう嫌そうな顔をした。


「…………」


 高友は腕を組んだ。


「まあ、今は子供だからな」


 八歳の娘だ。

 今のところ男のことなど考えなくても不思議ではない。

 大きくなれば考えも変わるだろう。

 普通なら、そう思う。


 だが――。


「……本当に大丈夫なのか?」


 松は、どうも本気らしい。

 嫁に行きたくない。

 婿も取りたくない。

 その代わり、自分で家を大きくすると言っている。


「家を大きくする、か」


 高友は苦笑した。

 普通なら、娘がそんなことを言えば笑って聞き流すところだ。

 だが、松の場合は違う。

 実際に銭を稼いでいる。

 人を集めている。

 砥堀の様子まで変わり始めている。


「……口だけではないからな」


 高友は松を見る。

 小さな身体。

 まだ幼い顔。

 それでも、その目には妙な強さがある。


「このまま大きくなったら……」


 高友は少し先のことを考えた。

 松がもっと金を稼ぐ。

 もっと家が大きくなる。

 もっと人が集まる。

 そうなれば――。


「守るものも増える」


 金があれば、それを欲しがる者も出る。

 人が集まれば、それを狙う者も出る。

 松はまだ幼い。

 そんなものを一人で背負わせるわけにはいかない。

 高友は、静かに松を見つめた。


 そして――。


「……あやつが稼ぐなら」


 小さく呟いた。


「わしは、守らねばならんな」


 高友は、しばらく松の姿を眺めていた。

 あの娘が稼ぐ。

 酒を改良し。

 菓子を作り。

 布団を考え。

 今度は養蚕まで始めようとしている。

 まだ八歳だというのに、次から次へと新しいことを思いつく。


「……まったく、どこまで大きくするつもりなのやら」


 高友は苦笑した。

 だが、悪いことではない。

 家が豊かになる。

 働く者が増える。

 砥堀にも人が集まる。

 黒田の一門にとっても、悪い話ではない。


 ならば――。


「わしも、覚悟を決めねばならんな」


 松が稼ぐ。

 ならば、その財を守る者が必要になる。

 商人や職人が集まれば、それだけ揉め事も増える。

 金が増えれば、それを狙う者も出てくる。

 ましてや、松はまだ幼い。

 そして女だ。

 自分一人で家を守れるようになるまでには、まだ長い年月がかかる。


「護衛も増やさねばならんな」


 今いる者だけでは足りない。

 兵も必要になる。

 屋敷を守る者。

 松を守る者。

 財を守る者。

 いざという時に動ける者。


「金が増えるほど、守る力も必要になるか」


 高友はそう呟いた。

 これまでは、自分の家を守れればそれでよかった。

 だが、これからは違う。

 松が家を大きくするというのなら。

 自分は、その家を守る。

 それが養父となった自分の役目だ。


「……あやつが稼ぐなら」


 高友は、もう一度松を見る。

 小さな身体で、職人たちにあれこれ指示を出している。

 その姿に、思わず笑みが浮かんだ。


「わしは守らねばならんな」


 松がどれだけ家を大きくしようとも。

 どれだけ財を築こうとも。

 その財を守れなければ意味がない。


 ならば――。


「兵を増やすか」


 高友は心の中で決めた。

 松には、松のやるべきことがある。

 自分には、自分のやるべきことがある。


 **あやつが稼ぐなら、わしは守る。**


 それが、養父となった自分の務めなのだ。


 高友はそう心に誓った。


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