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『興国の悪女 ~性転換転生したら黒田官兵衛の異母姉だったので、弟の尻を叩いて天下を目指させます~』  作者: カワカン
黒田家に居座る

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第十二話 甘いものが食べたい

 牛の乳は、なんとか手に入った。

 牛を飼っている人に頼んで、少し分けてもらったのだ。

 器に入った白い液体を、私はじっと眺める。


「……これが牛乳」


 前世では、珍しいものでもなんでもなかった。

 冷蔵庫から出して、そのまま飲む。

 料理に使う。

 お菓子にも使う。

 そんな、ごく普通のものだった。

 私は器を持ち上げる。


「いただきます」


 一口。


「…………」


 もう一口。


「…………甘くない」


 思わず呟いた。


「牛のお乳ですから……」


 通が困ったように答える。


「うん。そうなんだけど」


 私はもう一口飲んだ。

 やっぱり甘くない。

 前世で飲んでいた牛乳は、ほんのり甘かったような気がする。

 もっとも、今の私が飲んでいるものと、前世の市販品では違いがあって当然なのだろう。


 それでも――。


「これでクリームは作れそう」


 私は牛乳を見ながら考える。

 甘いものを作る。

 そのために牛乳を手に入れた。

 クリームができれば、それだけでもかなり嬉しい。


 でも。


「……甘くないんだよなぁ」


 クリームだけでは、私の求める甘いものにはならない。

 私は考え込んだ。


「何か、甘いものはない?」


 通と春に聞いてみる。


「甘いもの、でございますか?」

「うん。砂糖とか」


 すると、二人の表情が変わった。


「……砂糖、でございますか」

「うん」


 私は頷いた。


「砂糖があれば、いろいろ作れるでしょう?」

「松姫様……」


 通が少し困ったような顔をする。


「砂糖は、とても高価なものです」

「高価?」

「はい」


 春も頷く。


「気軽に買えるようなものではございません」

「…………」


 私は黙った。


 砂糖。

 前世では、台所に普通にあった。

 袋に入って売られていた。

 料理にも使った。

 お菓子にも使った。


 それが――。


「そんなに高いの?」

「はい」

「黒田家でも?」

「はい」


 私は思わず黙り込んだ。

 ここでも倹約。

 寝床も質素。

 食事も質素。

 そして砂糖まで高価。


「……じゃあ、砂糖は無理か」

「そうなります」


 通が申し訳なさそうに答えた。


「ですが――」

「ん?」

「水飴でしたら、ございます」

「水飴?」

「はい」


 春が続ける。


「それと、蜂蜜もございます」

「…………」


 私は少し考えた。

 水飴。

 蜂蜜。

 どちらも甘い。


「水飴って、甘いんだよね?」

「はい。とても甘いものです」

「蜂蜜も?」

「もちろんです」


 私は少しだけ目を輝かせた。

 砂糖がなくても、甘味そのものがないわけではない。


「じゃあ……」


 私は牛乳の入った器を見る。

 クリーム。

 そして甘味。

 これなら――。


「何か作れそう」

 私は小さく笑った。



 砂糖は高い。

 ならば、別のものを使えばいい。


「水飴を見せて」

「はい。少々お待ちください」


 春が奥へ向かい、しばらくして小さな器を持って戻ってきた。


「こちらでございます」

「これ?」


 私は器を覗き込んだ。

 透明というより、少し色がついている。

 そして――とろりとしている。


 指で触ってみるわけにもいかないので、匙ですくってみる。


「……甘い」

「はい」


 もう一度、少しだけ舐めてみる。


「甘い!」


 思わず声が出た。

 これなら使える。

 砂糖ほど便利ではないかもしれない。


 でも、甘い。

 私は牛乳の入った器と、水飴の入った器を並べた。


「これを使えば、甘いものが作れる」

「何をお作りになるので?」

「それは……」


 私は考えた。

 前世で食べていたものを思い出す。

 クリーム。

 砂糖。

 牛乳。

 でも、ここには砂糖がない。


「……水飴で代わりになるかな」


 やってみなければ分からない。

 ただ、ここで一つ問題がある。

 水飴は液体だ。

 料理に使うにはいい。

 でも、砂糖とは違う。

 前世の砂糖は、固体だった。

 匙ですくえる。

 量を量れる。

 そのまま保存できる。


「…………」


 私は水飴をじっと見る。

 そして、ふと思った。


「ねえ」

「はい?」

「水飴って……もっと煮詰めたらどうなるの?」

「煮詰める、でございますか?」

「うん」


 私は器を指差した。


「これ、水が入ってるでしょう?」

「はい」

「なら、水をもっと減らしたら?」


 通と春が顔を見合わせる。


「……どうなるのでしょう?」

「それを知りたいの」


 私は少しわくわくしてきた。

 前世の知識に、はっきりした答えがあるわけではない。

 砂糖の作り方なんて知らない。

 でも、水飴が甘い。

 そして液体だ。


 ならば――。


「もっと煮詰めて、水分を減らす」


 そうすれば、もっと濃くなる。

 もっと濃くなれば――。


「固まるんじゃないかな」

「固まる?」

「うん」


 私は自分でも確信が持てない。

 でも、試してみる価値はある。


「砂糖みたいに固まれば、料理にも使いやすいと思う」


 私は水飴を見つめた。

 砂糖が高くて買えない。

 ならば、代わりになるものを自分で作ればいい。

 それが砂糖と同じものになるかは分からない。


 けれど――。


「やってみよう」


 私は決めた。


「水飴を、もっと煮詰めてみる」

「松姫様が、でございますか?」

「うん」

「火を使いますが……」

「もちろん、大人にやってもらうよ」


 私は八歳だ。

 さすがに火の番まで自分でやるつもりはない。

 でも、指示を出すことはできる。


「少しずつ煮詰めて、どこまで固くなるか見てみたい」


 私は拳を握った。

 甘いものを食べたい。

 ただ、それだけだった。

 それなのに。

 いつの間にか私は――。


「……砂糖の代わりを作ることになっちゃった」


 自分でも少し笑ってしまった。

 でも、悪くない。

 前世では、食べることしかできなかった。


 今は――。


 **食べたいものを、自分で作れるかもしれない。**


 そう思うと、なんだか楽しかった。


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