第188話 青春の日々へ、ありがとう
翌朝。
いつもと同じように、朝はやってきた。
カーテンの隙間から差し込む春の光。
窓の外から聞こえる鳥の声。
遠くを走る車の音。
何も変わらない、いつもの朝。
それなのに。
今日だけは、何もかもが違って見えた。
──卒業式。
高校生活最後の日。
三年間通い続けたこの学校へ、登校する最後の日だった。
───────。
校門の前には、朝からたくさんの生徒たちが集まっていた。
いつもなら、眠そうな顔をして登校してくる生徒。
友達とくだらない話をしながら歩く生徒。
ギリギリの時間に駆け込んでくる生徒。
けれど、今日だけは。
そこにいる誰もが、どこか少しだけ違っていた。
男子たちは、いつもよりきちんと制服を着ている。
ネクタイを締め直したり、髪型を気にしたり。
女子たちは、朝から髪型を整え、制服の襟元を確認しながら、何度もスマホを構えている。
校門の前には、普段の朝にはない笑い声が溢れていた。
少し離れたところでは、保護者らしき人たちの姿もある。
手にはスマホや一眼レフカメラ。
我が子の最後の制服姿を、一枚でも多く残そうとしている。
そんな光景を横目に見ながら朔也は、校門の前で足を止めた。
目の前にある、見慣れた校舎。
三年間。
毎朝ここを通った。
眠い日も。
雨の日も。
雪が降った日も。
そんな毎日が今日で終わる。
朔也は小さく息を吐いた。
「…………。」
まだ実感が湧かなかった。
三年間という時間は、あまりにも長かったはずなのに。
終わる瞬間だけは、驚くほどあっけない。
昨日まで普通に存在していた日常が、今日という一日を境に過去になる。
そして、朔也は。
ゆっくりと校門をくぐった。
───────。
一方。
陽向もまた、教室へ向かっていた。
「おはよー!」
明るい声とともに教室へ入る。
「陽向、おはよ!」
「おはよー!」
いつものように笑顔で返す。
けれど、教室へ入った瞬間。
陽向の足が、ほんの少しだけ止まった。
黒板には、誰かが書いた大きな文字。
『卒業おめでとう!!』
その周りには、寄せ書きや小さなイラストまで描かれていた。
窓際には、朝の光。
机と椅子。
教卓。
黒板。
掲示物。
何も変わっていない。
なのに。
今日が最後だと思うだけで、全部が少しだけ眩しく見えた。
「…………。」
陽向は、自分の席へ向かう。
椅子へ腰を下ろす。
そして、机の上へ手を置いた。
「……やば…」
小さく呟く。
三年間。
短いようで、長かった。
本当に、色んなことがあった。
友達と笑って。
先生に怒られて。
生徒会で走り回って。
恋をして。
泣いて。
誰かを好きになって。
誰かを傷つけて。
自分も傷ついて。
それでもまた笑って。
振り返れば。
高校生活なんて、そんなことの繰り返しだった。
キラキラした思い出ばかりじゃない。
むしろ辛かったことの方が、強く残っている日だってある。
それでも、その全部を含めて。
“青春”だった。
陽向は窓の外を見る。
春の空は、どこまでも青かった。
桜の蕾は、もう少しで花開きそうに膨らんでいる。
「…………春だな……」
そう呟いた時。
「陽向!」
後ろから声を掛けられた。
「写真撮ろー!」
「今?」
「卒業式終わったら泣きまくってメイク崩れて盛れなくなるから!」
「あーね!はいはい!」
陽向は笑った。
スマートフォンを取り出す。
黒板の前で、友達と一緒に並ぶ。
「いくよー!せーの!」
カシャッ。
シャッター音。
画面に映ったのはいつもの自分たち。
制服姿で笑っている、その一枚が。
きっと何年後かには。
“”高校時代の写真”になる。
そう思うと、陽向は少しだけ胸の奥が熱くなった。
───────。
やがて、卒業式が始まる時間が近づいてきた。
校内放送が入る。
《卒業生は、各教室で待機してください》
担任が先頭を歩く。
その後ろを、生徒たちが続いていく。
階段を降りる。
廊下を進む。
体育館の扉が見えてくる。
大きな扉。
その向こうには。
昨日まで準備していた卒業式の会場がある。
赤と白の幕。
整然と並べられた椅子。
壇上。
演台。
国旗。
校旗。
その景色を見た瞬間、陽向は胸の奥で小さく息を呑んだ。
今日、ここから。
自分たちは「卒業生」になる。
この学校で過ごした三年間は、今日を境に二度と戻らない。
だからこそ、今日という一日を。
最後まで、ちゃんと生きよう。
陽向は、小さく笑った。
そして、卒業生たちは。
静かに、それぞれの席へ着いていった。
───────。
式は、滞りなく進んでいた。
校長の式辞。
来賓の祝辞。
そして、在校生代表による送辞。
壇上では、生徒会副会長の阿久津孝明が、真っ直ぐに前を見つめながら言葉を紡いでいた。
落ち着いた声が、静かな体育館いっぱいに響いている。
卒業生の列の中から、その姿をじっと見上げていた陽向は、ふと。
一年前の今日を思い出した。
(本日ご卒業を迎えられた三年生の皆様、ご卒業おめでとうございます。)
あの日も。
今と同じように、春の光が体育館へ差し込んでいた。
まだ少し肌寒くて。
それでも、窓の外には春の気配があって。
自分もあの変わらない壇上へ上がり、在校生代表として送辞を読んでいた。
(その声も、その笑顔も、その優しさも…………全てが遠い記憶の中へと消えてしまう事が、正直自分の中で受け止めきれません。)
あの時の自分には、壇上から卒業生の列をまともに見ることができなかった。
胸の奥が、痛くて。
怖くて。
俊ちゃんの姿を見た瞬間、これまで必死に押し込めていた感情が全部溢れてしまいそうだった。
だから、ただ前を向いて。
必死に、何でもない顔をして。
送辞を読み終えることだけを考えていた。
陽向は、ゆっくりと息を吐いた。
壇上では、阿久津孝明が最後の言葉を読み終えようとしていた。
《最後になりましたが、三年生の皆様がこれから歩まれる未来が、希望に満ちた素晴らしいものであることを心より願っています。これまでいただいた沢山の思い出と感謝の気持ちを胸に、送辞とさせていただきます。令和○年3月10日在校生代表 阿久津孝明。》
そして、静かにマイクから一歩下がると、丁寧に頭を下げて。
一礼。
(……孝明は……ちゃんと前を向いてたな。)
陽向がそう思った、その時。
体育館に、司会の声が響いた。
《続きまして、卒業生代表による答辞です。卒業生代表、星野陽向さん。》
「はい。」
はっきりと、返事をする。
椅子から立ち上がる。
制服のスカートをそっと整え、一度だけ前を見た。
その視線の先には、壇上へ続く道があった。
去年、同じあの場所で”在校生代表”として壇上に立った。
そして今日。
”卒業生代表”として、あの場所へ立つ。
一年という時間を挟んで。
陽向は一歩。
また一歩と。
ゆっくり歩き始めた。
同じ壇上へ。
違う立場で。
違う自分として。
この学校の生徒会長としての、私の最後の大仕事。
壇上へ上がった陽向は、マイクの前に立つ。
ふと、胸の奥にひとつの問いが浮かんだ。
(……俊ちゃんは……………)
一年前この場所から、今の自分と同じ景色を見ていた。
目の前には、三年間を共に過ごしてきた仲間たちがいる。
少し離れた場所には、後輩たち。
その向こうには、先生たち。
そして、体育館の後方には、自分たちをここまで送り届けてくれた家族の姿がある。
体育館の天井。
窓から差し込む春の光。
彼はどんな気持ちで、この景色を眺めていたんだろう。
何を思って、何を感じながら、この学校を出ていったのか。
今になって、少しだけ分かる気がした。
大切な場所を離れることは、ただ寂しいという一言では、きっと足りない。
楽しかったことも。
苦しかったことも。
笑ったことも。
泣いたことも。
その全部を置いていかなければならない。
もう二度と戻れないと分かっているからこそ。
一つひとつの景色が、やけに鮮明に見える。
俊ちゃんもあの日、同じ気持ちで、同じように。
この壇上から、この体育館を見ていたのかな。
胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなった。
会いたい。
その気持ちは、今でも消えていない。
でも一年前の自分は。
ただ、彼が卒業してしまうことが悲しかった。
今は違う。
彼が見ていた景色を。
同じ立場で、同じ場所から自分も見ている。
そのことが、なんだか少しだけ不思議で。
そして、嬉しかった。
「…………。」
陽向は、マイクを片手にそっと握った。
一年前。
あんなに苦しくて、前を見ることすらできなかった自分が。
今、ちゃんとここまで来た。
泣いた。
傷ついた。
何度も迷った。
それでも。
ここまで来た。
陽向は小さく息を吸う。
そして。
ゆっくりと前を向いた。
《本日は、私たち卒業生のために、このような晴れやかな門出の場を設けていただき、誠にありがとうございます。
今日という日を迎えることができたのは、校長先生をはじめとする先生方、家族、そして私たちを支えてくださった多くの方々のお力添えがあったからこそです。
これまでいただいた温かいご支援とご指導に、卒業生一同、心より感謝申し上げます。》
静寂に包まれた体育館へ、マイク越しに響き渡る陽向の声。
その瞬間、空気が温かく解けた。
《高校生活の三年間は……振り返ればあっという間に過ぎてしまったようですが、とても長い長い旅をしてきたようでした。》
同じ場所から見た景色は、何も変わっていない。
なのに。
見えるものは、あの頃とはまるで違っていた。
《旅の出発地点は、あまりにも、真っ暗で。》
あの頃の自分は。
世界はずっと漠然と、完成されたものだと思っていた。
自分が生まれた時から、世界はもう出来上がっていて。
学校があって。
教室があって。
毎日があって。
その中を、空気のように。
透明人間として、歩いていけばいい。
そんなものだと思っていた。
《そんな、地図も見えなくて、前に進むべく道すら、なにも見えない暗闇の中で。》
全ての始まりは。
あの、図書室の出会いだった。
《ほんのひと筋の、細くて小さな光が、何の前触れもなく、世界の隙間から差し込んだその瞬間が訪れました。》
あの日。
何気なく開いた扉の向こうにいた、あの人。
それが、自分の世界を丸ごと塗り変える最初の全てのきっかけだった。
それが、果てしなく長い旅の始まり。
《誰かに引かれたこの手があって、誰かに押された背中があって。》
朔也に、無理やり巻き込まれて。
朱里ちゃんが、目の前に地図を広げてくれて。
咲が、俯いていた自分に手を差し伸べてくれて。
蒼太が、進むべき道を教えてくれた。
一人だったら。
多分、何もできなかった。
怖くて。
分からなくて。
自信がなくて。
私なんて、どうせ無理。
そうやってきっと、最初の一歩すら踏み出せなかった。
《新しい世界の旅路へ飛び込む勇気が持てて、その一歩を、踏み出すことが出来ました。》
自分一人では、絶対に踏み出せなかった場所へ。
そこから始まった旅は。
決して平坦な道ではなかった。
《山を越えて、谷を下って、海を渡って、空を飛んで。》
笑った。
馬鹿みたいに笑った。
くだらないことで騒いで。
放課後まで学校に残って。
何度も怒られて。
何度も失敗して。
それでも。
毎日が、楽しかった。
だけど、楽しいことだけじゃなかった。
《長い旅の途中では、道が途絶えて、船が沈んで、翼が折れた事も何度もありました。》
どうしていいのか分からなくなったこともあった。
大切な人を失なったことも。
自分のせいで誰かを傷つけたことも。
自分自身が、どうしようもなく嫌になったこともあった。
もう、ここから先へは進めない。
これ以上は、立ち上がれない。
そう思ったことも、一度や二度じゃない。
それでも。
《その度に、いつも側にいてくれた大切な人が、私の手を引きながら、道なき道を、一緒に歩いてくれて。》
俊ちゃんが、手を繋いでくれた。
何も分からなかった自分に、世界の眩しさを教えてくれた。
世界は、こんなにも素晴らしい輝きに満ちていると。
嬉しい時には、一緒に笑ってくれて。
苦しい時には、隣にいてくれた。
あの手があったから。
私は、何度も前を向くことができた。
《いつも支えてくれた仲間が、私を船に乗せ、碇を上げて、帆を張って、舵を取ってくれて。》
生徒会のみんなが、私を信じてくれた。
自分一人では何もできないと思っていた私に。
何度も、戦う勇気を教えてくれた。
失敗しても。
迷っても。
立ち止まっても。
誰一人、私を置いていかなかった。
みんながいたから。
私は、自分一人では見ることのできなかった景色を見ることができた。
《かけがえのない存在が、私を抱えてどこまでも高い空を跳んでくれて。》
綾真が、支えてくれた。
自分ではどうしようもなくなった時に、何度も笑顔をくれた。
言葉にできない気持ちを抱えていた時も。
ただ、隣にいてくれた。
雫が、私を見上げてくれた。
自分のことを何度も嫌になった時も、いつだって、まっすぐな目で見てくれていた。
あまりにも純粋で綺麗なその憧れは、私に大切なことを思い出させてくれた。
気づけば。
私の旅には、たくさんの人がいた。
誰かに手を引いてもらって。
誰かに背中を押してもらって。
誰かに支えてもらって。
誰かと一緒に笑って。
誰かと一緒に泣いて。
一人では続けられられなかった旅路を、みんなと一緒に越えてきた。
《本当に沢山の、大切なことを教えてくれました。》
人を好きになること。
誰かを信じること。
誰かに頼ること。
誰かのために、本気になること。
傷つくこと。
失うこと。
それでも、何度でも立ち上がること。
そして。
自分一人では生きていけないということ。
それは、決して弱いことじゃない。
《誰かと、出会うことで。》
俊ちゃんと、出会って。
自分の気持ちに気づいて。
恋に落ちて。
嬉しくて。
幸せで。
卒業して。
会えなくなって。
それでも、忘れられなくて。
誰かを傷つけて。
自分も傷ついて。
泣いて。
迷って。
それでも。
また笑って。
《誰かと繋がることで、一人では見ることのできなかった景色を見ることができる。この三年間で私は、それを知りました。》
陽向は、ゆっくりと客席を見渡した。
今、自分の目の前には。
一緒に笑って。
一緒に泣いて。
何度もぶつかって。
それでも、何度も手を伸ばしてくれた人たちがいる。
見慣れた顔。
何度も名前を呼んだ人。
何度も自分を呼んでくれた人。
その一人ひとりの姿が、胸の奥へ静かに落ちていく。
──こんな景色、あの頃の私には見えなかった。
そして今日。
この場所から再び新しい旅へと、旅立とうとしている。
《高校生活という長い旅が終わる今日。私は、ようやく分かった気がします。旅の始まりが暗闇だったとしてもずっと暗闇の中を歩くわけじゃない。》
陽向は、窓から差し込む春の光へ目を向ける。
体育館の床には、淡い光が落ちていた。
その光の向こうには、まだ蕾を残した桜の木がある。
もうすぐ花が咲く。
今はまだ、満開ではない。
けれど。
確かに、春はもうここまで来ている。
未来は、希望に満ちている。
《誰かと出会えば、誰かと手を繋げば、その先には、ちゃんと光がある。そしてこれから先、また道が見えなくなることがあったとしても。》
喉の奥へ、熱いものが込み上げてくる。
泣きそうになる。
けれど陽向は、それをぐっと飲み込んだ。
ゆっくりと目を開く。
そして。
真っ直ぐ前を見た。
《私達は誰も、決して一人じゃない。》
その言葉が、体育館いっぱいに響いた。
自分だけが違う。
自分だけがうまくできない。
自分だけが置いていかれる。
そんなふうに思って、自分が嫌いで。
ずっと孤独だった少女は、もうどこにもいない。
《この三年間で出会った人たちがくれたものを、この胸に抱えて私達は、これから先の新たな旅へ進んでいきたいと思います。》
言葉を口にした瞬間。
胸の奥に押し込めていたものが、もう限界だった。
陽向の瞳が、ゆっくりと潤んでいく。
客席がぼやける。
それでも。
見える。
大切な人たちの顔が。
一緒に歩いてきた仲間たちが。
後輩たちが。
先生たちが。
そして。
この三年間、自分の手を何度も引いてくれた人たちが。
ありがとう。
胸の中で、何度も何度も繰り返す。
ありがとう。
私をここまで連れてきてくれて。
私に、世界はこんなにも広いんだって教えてくれて。
私にも、誰かを好きになることができるんだって。
誰かを大切にすることができるんだって。
誰かに大切にされることができるんだって。
教えてくれて。
陽向の瞳から。
堪え続けていた涙が、とうとう一粒。
「…………っ……」
頬を伝って、静かにこぼれ落ちた。
陽向は、泣き顔のまま笑った。
この涙は。
三年前の自分のための涙じゃない。
ここまで歩いてきた自分のため。
もう、怖くない。
道が見えなくなったとしても。
また暗闇に迷い込んだとしても。
きっと誰かがいる。
そして自分もまた。
誰かの手を取ることができる。
陽向は涙を拭わなかった。
そのまま、真っ直ぐ前を向いた。
高校生活最後の日。
生徒会長として、卒業生代表として。
そして。
この三年間を生き抜いた、一人の少女として。
《そして、在校生の皆さん。
皆さんはこれから、たくさんの人と出会うと思います。
大切な人を、ちゃんと大切にしてください。
やりたいことがあるなら、怖くても、一歩踏み出してみてください。
そして、いっぱい笑ってください。
どうか、その一日一日を大切にしてください。
なぜなら、皆さんが「当たり前」だと思っている今日という日は、いつか必ず、「あの頃はこうだった」と思い返す日になるからです。
だから。》
そして陽向は、泣きながら。
太陽みたいに笑った。
《どうか、思い切り青春してください。》
その言葉が、静かな体育館へまっすぐに響いた。
まるで、三年前の自分自身へも届けるように。
まだ何者でもなくて。
自分の世界がどこへ向かっているのかも分からなくて。
それでも、誰かと出会うことで少しずつ変わっていった、あの頃の自分へ。
陽向は、もう一度前を向いた。
《皆さんだけの、最高にキラキラした高校生活を作ってください。
皆さんのこれからの日々が、かけがえのない旅になることを。
卒業生一同、心から願っています。》
一度、言葉を切る。
陽向は、ゆっくりと客席を見渡した。
そして。
涙に濡れたその視線が、同じ時間を過ごしてきた仲間たちのもとへ向かう。
《そして、共に青春を過ごした仲間へ。
当たり前のように一緒に笑って、当たり前のように隣にいてくれた毎日が、大切な一生の宝物です。
そんなかけがえのない時間を、みんなと分かち合えたこと。
共に成長し、同じ景色を見て、ここまで一緒に歩いてこられたことを、私は一生忘れません。》
陽向は、一度だけ目を閉じた。
頬には何度も涙が伝う。
瞼の裏に、三年間の景色が次々と浮かんでくる。
図書室。
生徒会室。
廊下。
教室。
階段の踊り場。
体育館。
放課後の校舎。
笑い声。
泣き声。
くだらない会話。
喧嘩。
仲直り。
別れ。
そして、出会い。
何もかも全部が、キラキラ輝いていて。
長くて短くて、眩しい青春の日々だった。
《今日、私たちは三年間の旅を終え、この場所で受け取ったたくさんの光を胸に、それぞれの未来へ旅立ちたいと思います。
最後になりましたが、今日まで私たちを支え、導き、見守ってくださったすべての皆様に、卒業生一同、心より感謝申し上げます。
そして、この学び舎がこれからも多くの人にとって、新しい一歩を踏み出すための大切な場所であり続けることを願い、答辞とさせていただきます。
令和○年3月10日卒業生代表 星野陽向》




