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セカンドシーズン ─好きな人を、真っ直ぐに。─ 〜第三章〜高3編〜【最終章】  作者: 波方 真季


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第166話 大切だから、さよなら


それから二人は園内を歩き回った。


ゲームコーナーでは、大きなぬいぐるみを狙って二人で何度も挑戦する。

惜しくも落ちない景品を見て悔しがりながら笑い合い、結局、小さなマスコットを一つだけ手に入れて喜んだ。


ホットドリンクを片手にベンチへ座れば、白い湯気が二人の間でふわりと揺れる。

冷たい風さえ、心地よかった。


気付けば、空はゆっくりと茜色へ染まり始めていた。

アトラクションのライトが一つ、また一つと灯り始める。

昼間とは違う幻想的な空気が、園内を優しく包み込んでいく。


「そろそろ飯食いにいくかー!」


「うん!お腹すいたー!」


アトラクションエリアを抜け、二人はレストランフロアへ向かった。

ガラス越しに街の灯りが見える落ち着いた店内。

温かな照明が木目のテーブルを柔らかく照らし、外の寒さを忘れさせるような穏やかな空気が流れている。

席へ案内されると、コートを脱ぎ、ほっと一息つく。


「やー、めっちゃ遊んだね」


陽向がメニューを眺めながら笑う。


「陽向、ずっと走ってたな」


「楽しいから疲れない!」


「小学生か」


料理が運ばれてくる。


湯気の立つスープ。

焼きたてのグリル料理。

彩り豊かなサラダ。

温かなパン。


窓の向こうには、少しずつ夜景が広がっていく。


「これうま!食ってみ?」


「うん、バリうまい」


穏やかな時間だった。


笑って。

話して。

料理を分け合って。

学校のこと。

受験のこと。

冬休みのこと。

未来のこと。

他愛もない会話が、静かに流れていく。

そのどれもが、穏やかな時間だった。


食事を終えて店を出る頃には、街はすっかり夜へ変わっていた。

吐く息は白く。

頬へ触れる風は昼より冷たい。


けれど、その寒さを忘れてしまうほど、目の前の景色は美しかった。


無数の光。

木々を包む金色のイルミネーション。

枝先へ散りばめられた小さな光粒が、まるで星空をそのまま地上へ降ろしたように瞬いている。

通路の両側には光の並木道がどこまでも続き、歩く人々を優しく照らしていた。


「…すごー…めっちゃ綺麗!」


陽向は思わず足を止め、スマホを向ける。

その声は、小さな吐息と一緒に夜空へ溶けていった。

綾真も隣で立ち止まり、同じ景色を見上げる。


「クリスマスイベントは終わっちゃったけど」


静かに笑う。


「無事に来られて良かった」


陽向も小さく頷いた。


「うん、そうだね」


二人は肩を並べたまま、ゆっくりと光の並木道を歩き始める。


冬の夜は静かだった。

街路樹を彩る無数のイルミネーションが、宝石を散りばめたように淡く瞬き、吐く息は白く夜空へ溶けていく。

笑い声も。

イルミネーションの輝きも。

そのすべてが、この一日を優しく包み込んでいる。

他愛もない話をして。

顔を見合わせて笑って。

歩幅を合わせながら、ゆっくりと前へ進んでいく。


楽しい。


綾真と一緒にいる時間は、不思議なくらい居心地が良くて。

無理に話題を探さなくても会話は続く。

笑い合っているうちに時間はあっという間に過ぎていく。

隣にいるだけで、心が穏やかになれる。


けれど陽向の胸の奥には、この幸せな時間とはまるで反対の感情が、静かに息を潜めていた。


今日が終われば。

このデートが終われば。

自分は綾真へ、本当の気持ちを伝える。


その決意だけは、歩きながらも、笑いながらも、一度も胸の中から消えることはなかった。

イルミネーションが美しく輝けば輝くほど。

笑顔が増えれば増えるほど。

胸の奥では、その先に待つ言葉だけが、ゆっくりと重さを増していく。



本来であれば。


クリスマスイブのデートで綾真に告白をして。


彼の恋人になりたいと思っていた。



この幸せな時間が、これから先もずっと続いていくならそうなりたいと思ってた。


この人となら。

これから先も、今日みたいに笑い合って。

季節が巡るたびに同じ景色を見て。

何気ない日常を積み重ねながら、一緒に歳を重ねていける。


本気でそう思っていた。


だからこそ、今隣を歩く綾真の横顔が、ひどく切ない。


二人は園内をゆっくりと歩きながら、色とりどりのイルミネーションを眺めていた。


楽しげに写真を撮る家族。

寄り添いながら笑い合う恋人たち。

どこからか聞こえてくる静かな音楽。

賑やかなはずなのに、その光景はどこか夢の中のように柔らかく滲んで見えた。


歩幅を合わせて歩く時間は、あまりにも穏やかで。

何気ない会話を交わして。

同じ景色を見て。

スマホを掲げて撮影して。

時折顔を見合わせて笑う。


そんな、ごく当たり前の時間が、胸に痛いほど愛おしかった。


やがて。



賑わう園内の先に、出口のゲートが見え始める。



その瞬間だった。

陽向の胸が、きゅうっと小さく締め付けられた。


(終わっちゃう……)


楽しい時間ほど、どうしてこんなにも早く過ぎてしまうのだろう。

自分で選んだ答えなのに、出口が近付くほど、その現実だけが静かに胸へ重くのしかかってきた。

気付けば陽向は、繋いでいた綾真の手を、ぎゅっと握り締めていた。


まるで。


この温もりだけは、まだ手放したくないと願うように。


離れたくないように。


「…陽向?」


握る力が強くなったことに気付いた綾真が、不思議そうにこちらを向く。


その瞳は、いつもと何も変わらない。

優しくて。

穏やかで。

自分だけを真っ直ぐ見つめてくれる、その笑顔。


胸が痛い。


胸の奥がズキリと痛んだ


(…このまま……)


ふと。

心のどこかで、小さな声が囁く。





このまま、一緒にいたら駄目だろうか。





幼馴染みへの、報われない恋なんて。

どうせ一途に想っていたって、所詮一生叶わない。

だったら、綾真を選んで。

朔也への気持ちがそのうちいつか消えて無くなるまで、この恋を隠しながら過ごしていくのもありではないだろうか。


綾真なら、きっと幸せにしてくれる。


この穏やかな時間は、この先も変わらず続いていくかもしれない。

そんな考えが、陽向の脳裏に過ってしまう。


けれど。

その考えは、次の瞬間、自分自身が静かに打ち消した。





本当にいつか、消える?





他の人なら、卒業してしまえばもう会わない。

俊ちゃんのように、物理的に過去にすることも出来る。

時間が少しずつ思い出へ変えてくれて。

会えなくなれば、人は少しずつ前へ進める。


でも朔也は。


実家が隣同士である以上、一生顔を合わせる。

卒業しても、社会人になっても、家を出ても、結婚したとしても、実家へ帰れば、きっとまた顔を合わせる。

縁そのものを完全に断ち切る事なんて出来ない。


季節が巡るたびに。

何気ない日常の中で。

人生の節目のたびに。

きっと、この先も何度だって。




そんな相手を、どうやって過去にすればいいのだろう。


どうやって、この恋へ終わりを告げればいいのだろう。




そして、その想いを抱えたまま。

何も知らない綾真の隣で、「好きだよ」と笑い続けることなんて、どうやって出来るというのだろう。


気づいてしまった。

十八年間、ずっと当たり前に隣にいた幼馴染への想いに。


だから、この優しい時間へ甘え続けることはできない。

どんなに心地よくても。

どんなに失いたくなくても。

この幸せな時間を、この先も続けられる資格は、もう自分にはないのだから。


「…………。」


気付けば、出口はもう目の前まで来ていた。

イルミネーションの光も、少しずつ背中の方へ遠ざかっていく。

陽向は俯いたまま、小さく息を吐く。


そして。

繋いでいた綾真の手を。


壊れ物へ触れるみたいに、そっと。




ゆっくりと離した。




「…どうした?」


手を離して、突然立ち止まった陽向に気づき、綾真が振り返る。

イルミネーションの光を背に受けたその表情は、いつもと変わらない優しい笑顔だった。


その笑顔が、苦しい。


胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。




「……綾真……私………」




───ごめんね。



あなたの事が大好きだから。

心から大切に想っている人だから。

どれだけ苦しくても。

どれだけ失いたくなくても。

あなたを騙しながら生きていくなんて。




それだけは、自分が一番したくない。




陽向はゆっくりと息を吸い込み、小さく震える声で口を開いた。





「綾真に伝えなきゃいけないことがあるんだ。」





その言葉と一緒に、白い吐息が冬の夜へふわりと溶けていく。


イルミネーションは変わらず美しく瞬き、人々の楽しそうな笑い声も遠くから聞こえてくる。

なのに。

その一角だけは、世界から音が消えてしまったように静まり返っていた。


「…………。」


綾真の胸の奥で、小さく何かが音を立てた。


ただ、陽向の顔を見つめてから。

綾真はゆっくりと視線を逸らす。


その瞳に映った陽向は、今にも泣き出しそうで。

何かを必死に堪えているような、そんな顔をしていたから。


綾真はイルミネーションへ視線を向けたまま、小さく息を吐く。

その横顔は、驚くほど静かだった。

けれど、握り締めた拳だけが、かすかに震えている。

そして。


どこか諦めたように、小さく笑った。


「また俺…振られるの?」


その一言が、陽向の胸へ深く突き刺さる。

ズキリ、と心臓が悲鳴を上げた。


「……っ」


息が止まる。

心臓がぎゅっと握り潰されたように痛んだ。


”また”。


その二文字が、あまりにも苦しかった。


これまで何度断っても、諦めないでいてくれた。

気まずくならないように。

こちらが罪悪感を抱えなくて済むように。

いつだって自分が傷付いているはずなのに、それを隠して笑ってくれていた。


何度だって、側にいてくれた。

何度だって、待っていてくれた。


苦しくて前を向けなかった日も。

泣きそうになりながら笑っていた日も。

綾真は何も聞かず、いつもの調子で笑わせてくれた。


その明るさに。

その優しさに。

何度も何度も、心を支えられてきた。


嬉しかった。

こんな私が、こんなふうに誰かに好きになって貰えるなんて。

そんな綾真の真っ直ぐさに、どれだけ救われてきただろう。


「………綾真と一緒にいると、楽しい。」


喉の奥で言葉が震えた。


「ずっと笑っていられるし…辛かった時、綾真の明るさに何度助けられてきたかわからない。」


視界の奥で、イルミネーションが滲んだ。

綾真と過ごした時間が、走馬灯のように浮かんでは消えていく。


一緒に笑ったこと。

くだらないことでふざけ合ったこと。

毎日欠かさないLINE、何気ない電話。

今日だって、本当なら。

クリスマスイブに叶わなかったデートをやり直して。

笑って帰って。

またねって、そう言って終わるはずだった。

そんな未来だって、選べた。

何も言わなければ、このまま隣にいられる。

綾真は、きっとこれからも変わらず優しくしてくれる。


だけど。


「…だけど…っ…私…………」


その続きを口にしてしまえば、もう今までと同じ二人ではいられない。

だから唇は何度も開きかけては閉じてしまう。


でももう、引き返せない。


ここで嘘をつけば。

一番傷付くのは、目の前にいるこの人だ。


だから。

だからこそ、ちゃんと伝えなきゃいけない。






「…違う人の存在が…………大きくなっちゃったの…っ…」






その言葉が夜空へ溶けた瞬間。


楽しげに行き交っていた人々の笑い声も。

イルミネーションの煌めきも。

遠くから聞こえていた音楽さえも。

まるで二人だけの世界から、すっと遠ざかってしまったような気がした。


二人の間へ落ちた静寂は、冬の冷たい空気よりもなお重く、胸が押し潰されそうになるほど切なかった。


綾真はただ陽向を見つめたまま、小さく息を呑む。

喉の奥がきゅっと締め付けられられる。


やがて、震える唇をゆっくりと開いた。


「……………違う人って………………藤崎先輩の…他にってこと…?」


その声は、自分でも驚くほど弱々しかった。

陽向は俯いたまま、小さく頷く。

その動きだけで、胸の奥が嫌な音を立てる。


「…その相手は……俺じゃないってこと?」


返事はない。

けれど、その沈黙が何よりも残酷だった。


綾真の中に、一人の人物がゆっくりと浮かび上がる。


入学してから、ずっと陽向と距離が近かった幼馴染み。

誰より当たり前に一緒にいた存在。


そして、季節が十一月に変わる頃。

突然二人は話さなくなった。

それまで毎日のように一緒にいた二人が、まるで他人になってしまったように距離を置き始めた。

廊下ですれ違えば、陽向は逃げるように視線を逸らし。

黒川朔也もまた、何も言わずその背中を見送っていた。

周りから見ても異常だった。


綾真は苦しそうに息を吐き、震える声で、その名前を口にした。


「……黒川…朔也………?」


「……………。」


陽向は答えない。

俯いたまま、唇をぎゅっと噛み締める。

返事は、なかった。


その沈黙は、あまりにも答えだった。


何かあったのだろうとは思っていた。

聞いてみても、陽向は「自分でも分からない」としか答えなかったから、それ以上は深掘りしなかった。

聞いてほしくないことなのだと思ったから。

無理に踏み込むことだけはしたくなかった。


それが、大きな間違いだった。


もっとちゃんと、陽向の心を拾えていれば。

陽向が何に苦しんで。

陽向が何を抱えていたのか。

どうして毎日、黒川朔也から逃げるようになったのか。


どうしてそれを、ちゃんと見つけ出してやらなかったんだろう。


あの時、もう少しだけ勇気を出していれば。

もう少しだけ、陽向の心へ寄り添えていたなら。

何か、変えられたのだろうか。


そんな後悔だけが、胸の奥へ静かに積もっていく。


綾真はゆっくりと目を閉じ、小さく俯く。

胸の奥が、じくじくと痛む。


ようやく繋がった。

あの二ヶ月弱の違和感も。

陽向が苦しそうだった理由も。


そして、自分がどれだけ傍にいても届かなかった理由も。


「…藤崎先輩に……黒川朔也………」


その声は泣きそうだった。

綾真は、痛みを隠しきれない表情で問いかけた。


「…陽向の中に……俺はいない…?」


その問いには、縋るような願いと。

それでも否定してほしいという、最後の希望が滲んでいた。




無理矢理笑うとか、もう出来ない。




「………ごめん……綾真………」




陽向は唇を震わせる。


ぽたり。

一粒の涙が陽向の頬を伝い、イルミネーションの光を映しながら静かに零れ落ちた。


胸が苦しい。

喉が締め付けられる。

目の前にいる人を傷付けているのは、自分だ。

こんなにも優しくて。

こんなにも真っ直ぐ想い続けてくれた人を。

その現実が、胸を何度も鋭く抉っていく。


陽向の瞳からこぼれ落ちた一滴を見つめたまま、綾真は何も言えなかった。


(…何が……)


胸の奥で、言葉にならない疑問だけが渦を巻く。


あれほど頑なに否定していたはずだった。

ずっと、恋愛対象じゃないと一貫していた。

周りに何を言われても、何度も何度も。


なのに。

どうして。

どうして今になって、その想いが変わったのだろう。


藤崎先輩への恋が終わって。

その次に、陽向の心が向いた相手は。

俺ではなくて。


よりによって───黒川朔也?


あの二ヶ月弱は。

ただの喧嘩なんかじゃなかった。

あの時間の中で。

十八年間、決して変わることのなかった幼馴染という関係を覆してしまうほどの、何かが起きてしまったのだろか。




黒川朔也には、小野雫という彼女がいながら。


二人の間で………取り返しのつかない出来事が起きてしまったのだろうか。




「………っ」


綾真は、拳をぎゅっと握り締めた。


頭では考えたくない。

けれど心は勝手に最悪の想像ばかりを連れてくる。

あの二人の間で、一体何があったのか。

何をきっかけに、陽向の心は動いてしまったのか。


もう、それ以上考えることすら苦しかった。


「ごめん…ちょっと…まじキツイわ…」


考えたくもない想像が浮かんでしまう。

もう、陽向の顔を見ることも出来ない。


「なん…で……」


かすれるように零れた声は、誰へ向けたものだったのか、自分でも分からない。


なんで、こんなに一緒にいたのに。

ずっと真っ直ぐに想いを伝えてきたのに。

何度だって、大好きだって。

諦めないって。

陽向が泣いている時は隣にいたかった。

楽しい時だって、一緒にいたかった。

その想いだけは、一度だって嘘じゃなかった。


それなのに選ぶのは。

あんな形で女に逃げて、陽向の気を引こうとしていた黒川朔也なんて。


ありえない。

理解が追いつかない。


胸の中で悔しさと悲しさが激しくぶつかり合う。


黒川朔也は、恋人を裏切ったのか。

あいつは、ずっと陽向を好きだった。

異常なほどに執着していた。

そんな執念の塊が、ついに陽向へ手を伸ばしたのか。

陽向が黒川朔也に振り向いたのなら。




きっと小野雫は切られるだろう。


この俺と同じように。




その未来を想像した瞬間、胸の奥がひどく軋んだ。


両手で顔を覆って、震える息を吐き出すことしか出来ない。


これ以上はもう、陽向と一緒にいられない。


「……っ」


綾真は衝動的に踵を返した。


もう限界だった。


これ以上ここにいたら。

きっと、自分は壊れてしまう。


そのまま一直線に出口へ向かう。

その足取りは、今にも崩れ落ちそうなほど重い。


イルミネーションの光が背中を照らす。

楽しそうに笑い合う恋人たち。

幸せそうな家族の声。

ほんの数分前まで、自分たちもその景色の一部だった。

なのに今は、そのどれもがまるで別世界の出来事のように遠かった。


綾真は振り返らない。


そのまま人混みを抜け、イルミネーションの並木道を後にして歩道へ出る。




陽向を、置き去りにして。




冷たい夜風が頬を打つ。


その瞬間だった。




「…ふ………っ…ぅぅ………」




張り詰めていた糸が、ぷつりと切れたように陽向の膝から力が抜ける。

陽向は崩れ落ちるようにしゃがみ込み、両腕で胸を抱える。


痛い。

息が出来ない。

心臓を誰かに握り潰されているみたいだった。


自分で選んだ答えだった。

綾真を騙し続けないために。

誠実でいたいと決めたから。


それでも。

遠ざかっていく背中を見るたび、胸が張り裂けそうになる。


「……あぁー……っ」


涙が次から次へと溢れてくる。


自分は傷つけた側だ。

泣く資格なんてない。

一番泣きたいのは。

苦しいのは。




間違いなく、綾真の方だ。




そんなことは分かっている。

分かっているのに。


溢れ出した涙だけは、どうしても止めることができなかった。








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